3月22日、しくみデザインはジェスチャーによる演奏が可能な新世代楽器アプリケ-ション「KAGURA(かぐら)」の製品版をリリースした。製品発表会ではしくみデザイCEOの中村俊介氏が開発経緯や製品概要を披露した後、ライブパフォーマンスも披露された。
コンセプトに技術が追いついた!製品化までの長い道のり
KAGURAはカメラを搭載したパソコンの前で体を動かすだけで演奏できる新世代のデジタル楽器。カメラの映像をリアルタイムに画像解析し、センシングした体に応じて演奏を行なうというこれまでにないユニークなアプリケーションだ。画像や音の素材をドラッグ&ドロップすることで、サウンドセットを作ることができ、オリジナルの素材も取り込めるようになっている。
開発元のしくみデザインは福岡を本拠とするIT企業。発表会で登壇したCEOの中村俊介氏は、まずは製品化に至った喜びをさっそく演奏で表現し、その後製品化に至るまでの長い長い道のりを語り始める。
もともと中村氏がKAGURAの原型にあたるジェスチャー楽器を作ったのは、今から15年も前の2002年。楽器を弾けない中村氏でも使える楽器として、九州芸術工科大学の大学院生のときに作ったものだ。そのときの名前も「カグラ」。TVでも取り上げられ、大きな話題となったことから、2005年に中村氏はしくみデザインを設立したが、早すぎて商品化できなかった。「当時はそもそもPCにカメラが付いていなかった。福岡のベンチャーがソフトを流通させるのも難しかった」と中村氏は振り返る。
その後、しくみデザインは10年もの間、受託開発で生き残る。KAGURAの基盤技術となる画像のリアルタイム解析技術で特許を取得し、ユーザー参加型のデジタルサイネージを小売店舗やイベントに展開したり、アーティストのライブの舞台演出装置を作り、国内でも唯一無比の事業者となっていく。しかし、中村氏はその間もKAGURAの商品化に強くこだわり、ソフトに磨きをかけてきたという。
転機が訪れたのは2014年。インテル主催の「Intel Perceptual Computing Chalenge」に最新技術を用いたKAGURAを出展したところ、見事16カ国2800作品の中からグランプリを獲得したのだ。この時期には、高解像度なカメラを搭載したPCが珍しい存在ではなくなり、いよいよコンセプトに技術が追いついてきたわけだ。
「これは行けるのではないか」という感触を得た中村氏は、2015年1月にKAGURAβ版の無料配布を開始。世界中の人に使ってもらうとともに、自らもSWSX、Sonar+D、Slush、Disruptなど世界のさまざまなイベントに登壇し、福岡で開催されたスタートアップの祭典「Slush Asia」では、髙島市長との共演も実現。また、さまざまなアーティストとのコラボも進めた。
そして、Kickstarterによるクラウドファウンディングを成功させた中村氏は、2017年の3月22日にいよいよWindowsとMac対応のKAGURA製品版をリリース。499ドルという価格で、製品を世に問うことになったという。
小笠原治氏とのトークセッションとKAO=Sによる生演奏も
イベントの後半は会場であるDMM.com AKIBAのドンとも言えるAbbalabの小笠原治氏とのトークセッション。ビジネスと理想の狭間で揺れ動き続けた中村氏の想いを、会場にぶちまけた。
シェアリングキーを手がけるtsumugの牧田恵理氏が仲立ちした、2人の出会いは2年前。Abbalabで投資も手がける小笠原氏は、「最初からまったくお金の匂いがしなかった(笑)」と述べ、当初から商売っ気のないプロダクトだったことを披露。中村氏自体もビジネスにならないとさんざん言われた結果の見切り発車で、β版を無料公開したことを吐露した。
スマートフォンやタブレット全盛期の今であれば、当然スマホアプリとして展開するのが妥当な戦略。小笠原さんが注力するようなハードウェアとして開発という選択肢もあっただろう。これに対して中村氏は、「スマホ版も作ってはみたが、なんか違う。ほとんど人に見せていないし、やるのは今じゃないと思った」と語る。
市場ありきではなく、お金ありきではなく、あくまで自らの「作りたい」を優先したプロダクトであるKAGURA。カメラの性能を考えて、提供されるのはあくまでPC版のみで、クラウドとの連携も未着手な状態。499ドルという価格も「正直、高いのか、安いのかわからない」(中村氏)という。そんな中村氏に対して小笠原氏は「ここまでくると、お金の匂いのしないところがむしろいい」と斜め上な評価をしつつ、「売ることはフィードバックを得ること。苦しみの始まり」と中村氏の手綱を締める。
今後のKAGURAの方向性として、中村氏は「今までは楽器を操作していたが、KAGURAではジェスチャーで動作させることができる。今後は、むしろ大きくなって、舞台装置のようになる」と開発の方向性を披露。「最初は歌っていないときに、パフォーマンスだけで演奏できるものとして作ったが、最近はKAGURA前提の曲を作ってくれるアーティストも増えてきた」(中村氏)とのことで、手ごたえを感じているという。
その後、発表会ではアートロックバンドのKAO=S(カオス)がKAGURAを使った生演奏を実演。モーションアクターとして活躍するかおりさんの剣舞にあわせたパフォーマンスが披露され、KAGURAの可能性と新しい形態のライブパフォーマンスに会場が酔いしれた。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります