JVCケンウッドは3月14日、ヘッドフォンで頭外定位を実現するための新技術「EXOFIELD」(エクソフィールド)の技術発表会を開催した。
ヘッドフォンは音の質感やニュアンスをよく伝えられるが、音像が頭内で定位するため、正確な音場や音像の再現という意味では課題がある。スタジオで音楽制作をする際にも、前方に置いたスピーカーでモニターするのが前提となっており、真横から音が出るヘッドフォンでは、制作者が目的とした音像定位が得にくい側面がある。
専用マイクで音の反射や耳内の状況を把握して補正
EXOFIELDはこの課題に応え、ヘッドフォンでもスピーカーで聴くのと同じような、頭外での自然な音像の定位を目指す技術だ。スピーカーから発せられた音は周囲で反射したり、頭の周囲を回り込んだりしながら耳に到達する。マイクを使ってその特性を測定し、再生時に補正をかけることでより現実に近い音場を再現していく。
計測と補正の処理はふたつの段階に分かれている。ひとつめはリスニングルームに置いたスピーカーから発せられた音がどのように耳に伝わるか。ふたつめはヘッドフォンから発せられた音が耳を覆うハウジング内でどのように伝わっていくかだ。計測には耳穴をふさがない小型のマイクを使用し、耳穴の中(耳道や耳介)で音がどう伝わっていくかも分析する。
スピーカー再生では、発せられた音が鼓膜に届くまでの間に、様々な物体に反射し干渉しながら伝わってくる。天井や壁面、室内にある様々な物体に加え、場合によってはリスナー自身の頭部形状などの影響も受ける。これが周囲の環境、空間の広さ、音の発せられた場所などを感じる理由になる。
またEXOFIELDではヘッドフォンをした状態で音の伝わり方を計測するので、開放型はもちろん密閉型ヘッドフォンでも高い効果が得られる。
これまでもヘッドフォンで頭外定位(自然な音場の再現)を実現する技術はあったが、標準化された頭部伝達関数を利用していた。ここを実際に計測した結果を元にカスタマイズすることでより現実に近い音の再現ができるわけだ。
計測のために、業界初の耳内音響マイクシステムを開発した。指向性のない小型のMEMSマイクを細い針金の先端に付けている。形状は装着ずれに起因する特性のばらつきを最小化するため、聴診器型にしている。これを耳穴の位置につけて計測する。当初はカナル型イヤフォンの外側にマイクを付けて周囲の環境音だけを計測していたが、人によっては定位感の改善が少なかった。そこで耳内の反響も計測することにした。個人の特性を補正に反映することで、より明確なセンター音像を実現できたほか、開放型はもちろん密閉型でも自然な音場でリスニングできるようになった。
短時間で測定から個人情報の作成までできる点も特徴としている。インパルス信号を複数回計測するだけで済むため、数分で結果が出るという。補正処理の負荷も軽く、スマホアプリへの実装も容易とのこと。ハイレゾに加え、マルチチャンネル再生にも対応するため、VRなどへの応用も期待できる。
なお、個人特性の計測そのものは簡単にできるが、防音設備などが必要となる。そのためまずは、スタジオや試聴室などしっかり測定できる場所を用意し、その技術を広めていく形にするという。
EXOFIELDは現在、5月12日の正式発表に向けて開発を進めている。5月13日と14日に開催されるイベント「OTOTEN AUDIO-VISUAL FESTIVAL 2017」でも体験できる見込みだ。2017年度上期を目安に、サービスインと商品提供をしていく計画とのこと。
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