大企業とともに新たな動きを生み出す実力派スタートアップ
ハードを作った資生堂、VRアトラクションで魅せたソニー ベンチャーとのコラボが熱いSXSW
SXSWでの現場からお送りするトレードショーリポート。ハシラス、ドリコスといった国内スタートアップが大手と手を組んだ、独自コラボの様子をリポートする。両社の強みを発揮したオープンイノベーションは世界でどのように受け入れられるのか楽しみだ。
VRスタートアップ×ソニーだが、使用ハードはHTC Vive
ソニーの最新技術を活用したプロトタイプや研究開発段階のプロジェクトなどが体感できる”The WOW Factory”。ベンチャーとのコラボレーションや研究所発の製品が展示されていた。
「Special Showcase for Future WOW : Gold Rush VR」では、VRアトラクション制作を行うスタートアップの「Hashilus(ハシラス)」とソニー・ミュージックグループが、共同で五感をフルに使った強烈なVRアトラクションを提供していた。
渋谷で展開している「ソロモンカーペット」でも高い評価を受けているスタートアップ・ハシラスが得意とするのは、ハードやシステムだけではない”身体感覚を錯覚させてインタラクションを高める”部分だ。VRコンテンツでしばしば不足しがちなゲーム的な持ち味を出すのが同社の特徴といえる。
SXSWで体験できる「Gold Rush VR」でも、HTC Viveを使ったVR空間内のアイテムを回収して投てき、そこから報酬を得るゲーム内容や、4人同時の協力プレイ、トロッコを使った爽快感のある場面移動の流れにもストーリー性があり、VRアトラクションとして完成度が高い仕上がりとなっていた。
ソニー本体ではなく、ハシラスへ出資もしているSonyMusicからの流れで実現した大企業とスタートアップの好コラボ。現場での使用ハードは、PlayStation VRではなく、HTC Vive。自社ハードにこだわるわけではなくアトラクションとしての魅力をいかに高めるかに軸が置かれている。
特にVR空間では映画やアニメの世界に入り込め、今後の新たな体感エンタテインメントが意識されている。SonyMusicは積極的にIPとのコラボレーションを進めており、多彩なコンテンツを有するソニーグループならではの展開が期待できる。
現場での実感としては、リアルイベントをオペレーションする大企業側と実力派VRコンテンツを生み出すスタートアップでの補完性が際立った体験型アトラクションとなっていた。記者個人としては、プレーヤー間のインタラクションによるゲーム性なども含めたより総合的な進歩がより楽しみなコラボだ。
ドーム型スクリーンでの新たな没入体験の提案
もちろんソニー内部にも、従来の枠を取っ払うSXSWだからこそ提案できる独自の動きもある。
「Music Visualizer & Cyber Gym」も、SXSW会場が初お披露目となっていた没入空間型VRシステムの展示だ。ユーザーが乗った椅子やバイクの動きを検出し、ドーム型スクリーンに投影する動画やCGを変化させるインタラクティブな体験を提供していた。
半球のディスプレーに、音声・映像・さらには4D的な風などを送り込み、視界を覆う形での没入感を高めていた。
担当者によれば、こちらはあくまで「面白いものができたのでサウスバイに持ってきた」というシンプルな動機からの提案だ。とはいえ、現状のヘッドマウントディスプレーの流れとは異なるアプローチで、肉眼で識別できる空間自体を変える興味深い試みと言える。個人向けサイズの半球型ドームなど、決してコンシューマー向けではないが、挑戦的なSXSWらしいアトラクションだ。
また昨年のSXSWで発表された「Future Lab Program」は、ソニーの研究所発プロジェクト。サンフランシスコをベースに実証実験のような形で現地での体験会やハッカソンなどが進められている。
耳を塞ぐことなく、ハンズフリーで音楽や音声による情報をインタラクティブに楽しめることをコンセプトとした “N”については、発表から1年を経過して、ここまでの評価は半々とのこと。ここで得た知見は3月上旬のMWCで発表されたオープンイヤー型「Xperia Ear」にもつながっているという。
資生堂がベンチャーとともに開発したアロマのハードウェア
ソニーだけでなく、資生堂×スタートアップによるハードウェアの展示も行われていた。
SXSWトレードショーで初お披露目となっていたのは、スタートアップとのオープンイノベーションで生まれたアロマディフューザー「bliscent」だ。ASCIIでは栄養ドリンクを作れるドリンクサーバーでおなじみのスタートアップ企業であるドリコスとの協業プロジェクトとなっている。
資生堂の花原正基アートディレクターとドリコスの竹康宏代表取締役によれば、プロジェクトとしては4ヵ月のスパンでSXSWでのデビューへ至ったという。2016年12月に発表された「資生堂ベンチャーパートナーズ」での投資の流れだけでなく、もともと両社の間でこのプロジェクトのやり取りは行なわれていたという。
IoTドリンクサーバーを手掛けるドリコス側のハード・アプリだけでできあがったものではなく、資生堂の研究所が持っているアロマに関するノウハウもあり、1000種以上の香り配合が実現している。既存のIoTアロマディフューザーとの違いについても意識的だ。
「BEAUTY TECH」は資生堂の宣伝・デザイン部発のプロジェクトだが、実際のハードウェア生産についても意欲的だという。日本だけでなく世界で販売する想定であり、海外ユーザーからの声を聞くためにもSXSWに間に合わせた形だ。
資生堂はこのほか、昨年10月に発表した博報堂ケトル・マイクロソフトとともに、画像認識を使用したオンライン会議時の自動メークアプリ「TeleBeauty(テレビューティー)」も会場でアピール。化粧品メーカーである同社独自のオープンイノベーションでその存在感を発揮していた。
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