クラウド型モデルも登場し、拡大を見せる電子カルテ領域。いま、医療はどこまでIT化が進んでいるのか。ASCIIによる最新情報を毎週連載でお届けします。
第10回テーマ:電子カルテ x カルテ開示
患者と医療者が、病状などの理解を共有化することができる「カルテ開示」。
医療機関には、請求があった場合カルテを開示しなければならない義務がある。しかし、患者からの開示請求が少ないという現状がある。
理由のひとつに、開示請求すると患者側に費用がかかることが挙げられる。手数料やコピー代が医療機関によっては高額な場合もあり、気軽に見ることができないのだ。
クラウド型の電子カルテが徐々に普及し始めているなか、カルテ開示はどう変わっていくのだろうか。
以上が基本的な部分だが、ここからはクラウド電子カルテに詳しいクリニカル・プラットフォーム鐘江康一郎代表取締役による解説をお届けする。なお、本連載では、第三者による医療関連情報の確認として、病院経営の経営アドバイザーとしても著名なハイズ株式会社の裵(はい)代表による監修も受けている。
費用を請求する必要がないクラウド時代のカルテ開示
2005年に施行された個人情報保護法で、カルテ(診療記録)は「個人情報」と定められ、5000件以上のカルテを保有する医療機関は、患者本人から開示請求があった場合には、速やかに開示することが義務づけられました。
しかし、2015年に厚生労働省が行なった調査では、「医療機関にカルテ開示義務があることを知らない」と回答した人が42%で、実際にカルテ開示を求めたことのある人は6%だったとの結果が報告されています。その一方で、カルテ開示を求めたことがある人の82%が「カルテが役に立った」と回答しています。
カルテ開示がなかなか進まない理由はいくつか考えられます。1つはプロモーション不足です。国や自治体はもちろんのこと、情報を開示する側の医療機関を通じた更なるプロモーションが必要です。もう1つの理由は、開示をするために、医療機関にとっては手間が、患者にとってはお金がかかることです。
現在、ほとんどの医療機関でカルテ開示には費用がかかります。少し古いデータですが、2013年に産労総合研究所が行なった調査によると、カルテ開示にかかる費用の平均額は、開示基本手数料が2732円(最高1万5000円、最低300円)、医師の説明が5450円(最高2万2000円、最低2000円)、コピー代が59円(大半が10円~30円台)となっています。
患者の側からすれば、自分のカルテを見るのにどうしてお金がかかるのか、と思うでしょうが、医療機関の立場からすれば、職員の時間を使うことになるため、金額の多寡はともかく、実費を請求することはやむを得ない事情です。
しかし、クラウド時代のカルテ開示はまったく別の形になることが予想されます。自分の銀行の口座情報にインターネットを通じて顧客が直接アクセスするように、自分のカルテを手元のPCやスマートフォンで常に参照できる状態になる時代がやってきます。この方式であれば、医療機関側にはカルテ開示に対する手間が一切かからないため、費用を請求する必要もなくなります。
もちろん課題もあります。誰もが懸念するのは、情報漏えいのリスクがある点でしょう。この点を担保するためには、インターネットバンキングなどと同様に、データを開示する際の本人認証をより強固なものにするよりほかありません。
もう1つの課題は、データの開示範囲です。血液検査の結果などの「事実を示すデータ」と、医師が記載する「診療記録などのデータ」はまったくの別物です。これらをすべて患者に対して開示するのか、一部を制限して開示するのかは慎重に判断する必要があります。
ただし、患者の立場からすると、非開示のデータがあるということだけでその医療機関に対する不信感が生まれます。インターネットを通じたカルテ開示をするという方法を選んだ時点で、医療者側がすべてのデータを開示する(できる)ことを前提とした診療録を作成するようになると考えられます。診療録等の情報を共有することで、患者さん側の治療への意識も変わり、治療に積極的になることも予想されます。医療者も患者さんもウィンーウィンになるカルテ開示が理想かもしれません。
記事監修
裵 英洙(はいえいしゅ)MD, Ph.D, MBA
ハイズ株式会社 代表取締役社長
1998年医師免許取得後、金沢大学第一外科(現:心肺総合外科)に入局、金沢大学をはじめ北陸3県の病院にて外科医として勤務。その後、金沢大学大学院に入学し外科病理学を専攻。病理専門医を取得し、大阪の市中病院にて臨床病理医として勤務。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)にてMBA(経営学修士)を取得。2009年に医療経営コンサルティング会社を立ち上げ、現在はハイズ株式会社代表として、各地の病院経営の経営アドバイザー、ヘルスケアビジネスのコンサルティングを行っている。
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