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スバル・スポーツAWDの頂点「WRX STI」の新型「DCCD」を雪上で体験!

2017年02月02日 16時00分更新

シャシー性能が上がったから
曲がりやすい駆動系にできるという相乗効果

 2017年1月、富士重工業が「SUBARU AWDオールラインナップ雪上試乗会」を開催した。2016年、ついにグローバル生産で100万台を超えたスバルのクルマ、その98%はAWD(全輪駆動・四輪駆動)だという。つまり、スバルの安心感はAWDに支えられているという面がある。その魅力を、滑りやすい雪上にて確認するのが、この試乗会の狙いだ。

雪上試乗会ではフォレスター(写真)やレガシィ・アウトバックといったスバルの好調を支えるSUVの走破性を体感できた。SUVの搭載する「X-Mode」という電子制御のおかげで、アップダウンの激しい特設コースも安心して走れた

 会場となったのは、北海道の新千歳モーターランド。本来はモータースポーツを楽しむクローズドコースゆえ、公道では試せないような走らせ方もすることができる。つまり、無茶な走りも可能なわけだが、それを許しているのは、スバルの自社製品に対する自信があるからだろう。

 アップダウンの激しいコースでのSUV走破性の確認、雪に覆われたジムカーナコースでハンドリングを楽しむなど、様々なステージが用意されていた。そのほとんどは市販車のパフォーマンスを味わうものだったが、次世代のAWDシステムを先行試乗できるプログラムもあり、それがスバルのスポーツAWDフラッグシップである「WRX STI」プロトタイプの試乗だった。

安定感は抜群で、曲がりづらさも感じない現行WRX STI。しかし、赤いボディのプロトタイプと比べると、これほどの完成度があっても、まだまだ進化の余地が残っていたと知ることになった(運転しているのは筆者ではありません)

 2.0リッター水平対向4気筒ターボエンジンを搭載するWRX STIには「DCCD(ドライバーズ・コントロール・センター・ディファレンシャル)」というAWDシステムが採用されている。別の言い方をすると「モード切り替え電子制御LSD付き不等トルク配分センターディファレンシャル」となるこのシステムは、前後のトルク配分を自在に制御できるのがメリット。さらに効き具合を任意でコントロールできることが上級ドライバーからも評価されている。

 今回、試乗したのは2017年中に実施される、次のマイナーチェンジ(スバルでは年改と呼ぶ)から搭載されるという改良型DCCDだ。

 改良点は、制御をシンプルにしたことにある。従来は電磁クラッチとトルクカム(機械式LSD)という2系統をセンターディファレンシャルに仕込んでいたが、新世代DCCDは電磁クラッチだけの制御となる。つまり久しぶりにハードウェアが変わるという大変化なのだ。スバルDCCDは初代インプレッサから使われているもので、現行モデルが搭載している機械式LSDを備えたハードウェアは、2代目インプレッサの後期から使われており、なんと10年以上キャリーオーバーだった。

 もともと、初期のDCCDも機械式LSDを持たないタイプで、車両の安定性を高めるために電磁クラッチと機械式LSDの2系統へ進化したという経緯がある。では、次世代DCCDというのはハードウェアとしては退化なのか? いや、そうではない。

 まず、これまでのDCCDにおけるトルクカムの役割は、常にセンターディファレンシャルの差動制限をわずかに効かせた状態にしておくことにある。レスポンスの面でも有利であるし、これによりLSD効果の唐突さが薄まるというメリットもある。その一方で、コーナー進入において曲がりづらいと感じてしまうというデメリットを持っている。

 タイヤが持つグリップ力(摩擦力)というのは縦方向・横方向それぞれに独立しているものではなく、縦と横のグリップ力を足したものは常に一定と考えられる(例えば100のうち縦70:横30、または縦40:横60など)。トルクカムによって常にLSD効果を出している状態というのは、縦方向のグリップを使ってしまう面があるので、横方向のグリップを引き出しきれない面があるという。

 改良型DCCDでは、そのネガを嫌い、トルクカムを省くことで、コーナリング性能を高めることができたとのこと。しかし、横方向のグリップを引き出しやすくなるということは、安定性の確保とトレードオフの関係ともいえる。そのあたりの変化、進化について、雪上コースで確認できた。

新しいハードウェアと、進化型スポーツVDCの組み合わせにより、曲がりやすさと安定感を両立しながら、スポーツAWDとして高めている。新しいDCCDが舗装路で、どのように感じられるか興味津々だ(運転しているのは筆者ではありません)

 最初は従来(現行)型のDCCDを積む青いWRX STIでコースイン。これは十年来の慣れた感触で、コーナーに進入できた。けっして改良が必要というほど曲がらない印象もない。スポーツAWDシステムとして完成の域に達していると感じたのだ。続いて、赤いボディのWRX STIに乗り換える。こちらはサスペンションの味付けも少々変わっているようで、DCCD以外の点でも年改予定の進化が盛り込まれているようだ。

 そして最初のコーナー進入で、その違いは明確に感じられた。青いWRXと曲がり始めの感覚が異なるのだ。これが舗装路でハイグリップタイヤを履いているとわからないくらいの違いかもしれないが、滑りやすい雪上だからこそ、新旧の差は明確にわかる。具体的には従来型DCCDでは「すぐに反応しないだろうな」とあらかじめステアリングを操作しておくタイミングで、ステアリングを回すと、そこから旋回する挙動が始まるという感じだろうか。最初の反応速度が速くなっているのを感じる。そのまま調子にのって速度を上げていくと、アンダーステアとなって曲がり切れないのは同じタイヤを履いているのだから当たり前だが……。とはいえ、スバルの実験データを見ると新型DCCDのほうがタイヤの横方向グリップを引き出せる傾向にあるので、旋回能力も高まっているはず。

シフトレバー後方のスイッチによって前後駆動配分をコントロールすることが可能なDCCDの良さは進化型でもそのまま。ドライバーズファーストの思想に変化はない

 さて、こうしたDCCDの進化を可能にしたのは、2つの要素がある。まず大きいのはクルマそのものの進化。言ってみれば2代目インプレッサから使われている機械式LSD付きDCCDは、シャシーの安定性が足りない部分をカバーするために生まれたという経緯もある。現行モデルで大きく高まったシャシー性能をもってすれば安定性はシャシー側に任せることができ、DCCDの役割としては曲がることの優先順位を上げることができるという。

 また、スバルではVDCと呼ぶ横滑り防止装置を使った車体制御技術の進化も大きい。新型DCCDを積むクルマには、進化型スポーツVDCを組み合わせることで、より気持ちよく曲がるスポーツAWDに仕上げていることが期待できる。

 様々なハードウェアや電子制御の進化により、AWDだからこそ意のままのハンドリングを楽しめる時代になった。それを実感させられたスバルの雪上試乗会だった。

タイヤの能力をどれだけ引き出しているかを示す摩擦円の項目で、横方向が大きくなっているのが新型DCCD。ステアリングの操作も小さくなっているという

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