Reproが手がけるグロースハックジャーナルより、海外の著名ユニコーン企業が行なっているグロースハックの手法記事をまとめた集中連載をお届けします。
ローンチからわずか1年で50万人以上のDAUを達成したプロダクトをどう思いますか? すごいことだと思いませんか? スタートアップのアイデアが毎日のように出る現代において、独自の方法で発展しグロースの道を突き進むアイデアは見逃せないでしょう。
Slack(スラック)は説明不要のグロースストーリーを持っています。小さいチームも大きいチームも「チーム・コラボレーションツール」のカテゴリーでSlackをお気に入りに挙げているのは明らかです。
Slackのグロースは平凡なストーリーではありません。実際、卓越した製品戦略、顧客のフィードバックの理解、そして注目に値するグロースハックなどさまざまな優れた要素が織り合わさっているのです。
製品戦略-強力な機能とユーザー体験のミックス
ユーザーとして、我々は貪欲で市場に出ている各製品に対してもかなり高いレベルを求めます。スマートな製品開発者は、今日における優れた製品戦略は強力な機能とユーザー体験を組み合わせ、ユーザーを”罠にはめる”ことができるものでなくてはならないことをわかっています。Slackは両方の面でそれが正しいことを証明しています。
フレンドリーな機能
Slackが私たちに提供している「おまけ機能」とはなんでしょうか? ほとんどのユーザーが思い浮かべる質問です。使い慣れたプロダクトからほかのものに乗り換えるのはそう簡単ではありません。私はSlackで3つのチームに入っていますが、Slackはほかのプロダクトが取り入れていない機能を提供していることは断言できます。
例えば、Slack上でリンクを共有するとタイトルと画像も一緒に表示されますが、これによって長い会話が続いている間でもリンクを見逃しにくくなっています。
チャットの場所は簡単に分けることができ、通常の会話の流れを断ち切ることなくその話題にふさわしいチャンネルを作ることができます。
大きいチームでは、各チームメイトから注目を得るのは難しい場合があります。@everyoneをメッセージにつければすぐに全員を注目させることができます! Slackがとりわけ優れているのはDropboxやAsanaなどたくさんのメジャーなサービスを選んで連携できるところです。
ほかに面白い機能としてはSlackbotがあります。Slackの「内蔵ロボット」で、メモやリポジトリの作成、自動返信のシェア、プロダクトのリリース前の確認などができます。こちらがSlackbotでできるアクションの例です。
スラックのUSP(※1)-ユーザーエクスペリエンス
Slackの成長を牽引した理由の1つは、開発陣がグロースの過程においてサービスに人間味を持たせることをやめたり妥協したりしていないことです。Slack社が「人民の、人民による」のモットーを未だに固く信じているような印象です。
こうした特徴はSlackのデザインインターフェースとオンボーディングのプロセスからはっきりと見て取れます。どちらもわくわくして遊び心があります。
Slackのデザインを統括しているAndrew Wilkinsonは自身の(有名な)記事でこう言っています。
“すでに問題は解決されていたように思いました。競合が多い市場であり、Slackを競合製品と差別化するのは難しいとわかっていました”
しかしながら、彼は同じ記事のなかでSlackの突出した人気の裏にある3つの不可欠な要素について説明しています。それによると、音、見た目、感覚が競合との差別化になっているそうです。これらすべてがユーザーエクスペリエンスの向上にフォーカスしています。
ユーザーが最近使っていたほかのチャットツール(Hipchatなど)と異なり、Slackはユーモアのセンスがある「チームメイト」のようなプラットフォームを提供しています。
私もSlackユーザーですが、いつもSlackには驚かされています。例えばこんなものです。
Andrewの下記の発言はその通りだと思います。
“陽気さ、あざやかなUI、楽しいインタラクション、おちゃめなコピーライティングが合わさってSlackの個性を創り出しています。ユーザーを動かす強力な個性です-彼らはそういったところを気にかけるので。 ユーザーはSlackの楽しい特徴をほかの人に話したくなります”
ポイント
Slackがある種のベンチマークを作り出しましたが、ここでの要点はプロダクトに個性を持たせることにフォーカスせよということです。Slackは競合と比較して何ら差別化できる機能を持っていなかったかもしれませんが、ログインするごとに何度も楽しめるユーザーエクペリエンスを提供していることは疑いようはなく、これによって素早いグロースを確実にしたのです。
顧客からのフィードバックを理解することに腐心する
Slackの初期のユーザーは限定されており、フィードバックは全て友人(とそのチーム)からだったとファウンダーのStewart Butterfieldは言います。彼はFirstoundのインタビューで、「小規模のグループでSlackをスタートさせてから有意義なフィードバックを得ることができ、道のりは遠くプロダクト改善にもっと力を注がなければいけないと悟りました」と述べています。
ローディング中の画面に説明を追加する機能はこうしたフィードバックを受けて変更したものです。
現在私たちが目にしているSlackは顧客からの有意義なフィードバックによる幾度とないトライアンドエラーのあとにできたものです。Slackの開発陣は8000以上のZendeskのチケットと1万以上のツイートを受け取り、そのすべてに返信しているのです!
Butterfieldはこうも言っています。「どんなものであろうと、ユーザーからきているフィードバックは解決し、取っておき、追求するべきです。我々は受けとったメッセージのすべてにタグをつけ、精査し、入力し、そのデータをとっておくことに力を注いでいます」
この方針はユーザー体験を向上させる役に立つだけでなく、Slackのグロースを何倍にも促進させています。
多くの人がSlackは「適切な時に適切な場所に出てきた」のがとてつもない成長の理由だと言います。しかし実際は、競合製品も同じ環境にいたのです。
ポイント
グロースに関しては、最初に顧客に製品を評価してもらうのが賢明な方法です。多くのテックスタートアップが失敗しているのはユーザーからの要求と情報提供を無視しているからにほかなりません。
エンドユーザーの期待に答えるプロダクトを作ることが、成功を確かにしてくれる重要なステップです。
グロースハック的アプローチ
Slackのアプローチは全体的にグロースハック的で、見事にプロダクトと対をなしています。しかしSlackを際立たせているのはほかのプロダクトとのアプローチ方法の違いです。KissmetricsのHiten Shahはこれをうまく言い表しています。参考記事:731 Slack Users Reveal Why It’s So Addictive
”グロースハックを実践しているとは思われていない企業として頭に浮かぶ企業はSlackです。驚くべき早さで成長しています。冒険的な企業であり、市場に容易に受け入れてもらう製品にするために賢明な技術的決断をいくつも行なってきました”
Slackのグロースハック的アプローチといえば3つの際立った点があります。
1.サインアップにフォーカスしたアプローチ
Slackは「チームの」コミュニケーションツールで、(ユーザー同士の)チームがSlackというツールによってすぐ集結できることがSlack社にとって重要でした。
登録ボタンは重要な位置に置かれ、サインアップのプロセスは簡単に実行できます。(膨大なガイドラインと一緒に)パスワードを要求するほかのプロダクトとは違い、Slackは登録プロセスの後半でユーザーにリンクを送ります。これによってサインアップの時間をかなり短縮しています。
これ以外にも多くの優れたグロースハックを実践しています。例えば、あなたが世界の違う地域をまたいでいるチームに所属していてそこに”@group”メッセージを送りたい場合、下記のようなメッセージとポップアップがでます。気が利いていると思いませんか?
2.モバイルのユーザーオンボーディング
Slackはユーザーが前回離脱した場所がどこであっても利用再開がしやすいツールの1つです。それゆえにSlackの開発陣は彼らが「離脱した状態の同期化」と呼んでいる機能に多くの時間を費やしてきました。Butterfieldの言葉を引用します。
「気が狂うほど大変だったことの1つは、どんな内部プラットフォームにおいてもユーザーがデバイスを切り替えた時に前回使ったのと同じ場所を表示させる仕様です。例えばあなたがラップトップを閉じたあとに携帯電話で何かを取得する仕組みです」
ユーザーがモバイルのオンボーディングのプロセスにおいて経験できるグロースハックの一例が下の図です。
3.グロースハック的ブランディング
グロースハックにおいて「ブランディング」は「マーケティング」に対して厳しい視線を向けられますが、それでもSlackの全体的な成長を考慮すると重要な要素になっています。
単なるチャットツールの一般的な機能に付加価値をつけているのはSlackのスマートなブランド体験にほかならないという事実はSlackを使ったことのある人なら誰でも同意してくれるでしょう。
SlackのエディトリアルディレクターのAnna Pickardはインタビューでこう述べています。
「プロダクトの開発方針や私たちの取り組んでいるコミュニティー形成においては、初めから終わりまでずっと尊敬、共感、礼儀を持ってユーザーと接するように心がけています。こういったことによってユーザーがSlackを単なるソフトウェアではなくチームメンバーの一員のように感じてくれるのでしょう。私たちは人々にもっとSlackを好きになってSlackの体験を広めてもらいたいと思っています。Slackの使い方を知ってもらいたいですし、 学び続けて欲しいです。Slackに内包されているメッセージは製品サポートの重要な要素ですし、我々のチームのミッションもそこにあります。
彼女はさらにこう続けます。
「ある種のあいさつのようなものです。単純で明快な言葉はオンボーディングのプロセスにおいてすべてのインタラクションをやり通す鍵になります。 時々おかしくて、時々まじめで、時々そっけなくて時々役立つ。そんなインタラクションですが、これは人間とまったく同様です。別の人と話しているようなものなのです」
このアプローチが膨大な口コミ宣伝を引き起こし、Slackの巨大な成長につながりました。
ポイント
グロースハック的アプローチと結びついた考え抜かれているプロダクトはユーザーからみて明らかに優れたものに映ります。しかしながら、最初から正しくこのアプローチを練ることが極めて重要です。
例えば、口コミマーケティングを活用したグロースハックがうまくいくブランドやプロダクトもありますが、フィットしないプロダクトもあります。だからこそグロースハックで工夫を行なう前にプロダクトの見極めを徹底的に行なうことが重要なのです。
まとめ
ますます多くのスタートアップがユーザーとの共感に力を入れており、そうであればSlackのグロースハックは見逃せません。Slackのアプローチはかなり優れた構成になっていますが、この記事で挙げたポイントはどんなスタートアップにも取り入れることが可能です。
ここで紹介したヒントをそのまま使うのではなくインスピレーションとして使うことによってグロースハックのアイデアは成功するでしょう。考えてみてください、毎日のようにDropboxやAirbnbやHotmailのようなグロースハックを目にはしないでしょう?
Slackのグロースハックはいかがでしたか? どの施策に一番感心しましたか? コメントがあればお願いいたします。
注釈
※1 USP:Unique Selling Propositionの略。マーケティングコンセプトを端的にまとめた「独自の売りの提案」
この記事は、AppVirality社のブログ“Is ‘Slack’ing The Newest Trend? The Growth Story Of the Year”を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。
※本記事は「グロースハックジャーナル」からの転載です。転載元はこちら
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります