海外事情に通じた3人がシリコンバレー、アフリカ、アジアを語る
エキスパートが語る通好みな海外ベンチャー最新動向
11月15日に開催された「経済産業省×ASCII STARTUP 日本発グローバル・ベンチャー公開選考会」。14時からは、“知られざる海外成長スタートアップ最新トピック”と題し、海外事情に通じた3人のエキスパートが海外のベンチャー動向を語る通好みのセッションが行なわれた。
シリコンバレーと他地域との違いは「M&Aの多さ」
今回集まった3人は、スタートアップ界隈の中でも特に海外事情に精通している投資、起業家育成などのエキスパート3名。ニコンの坪井聡一郎氏がモデレーターを務め、シリコンバレー、アフリカ、アジアの順に各国の最新動向が披露された。
シリコンバレーの動向について語ったFenox Venture Capitalの田所雅之氏は、自らのスタートアップを経営しながら、ベンチャーパートナーとして、日本および東南アジア地域の投資を担当している。
そんな田所氏はシリコンバレーと他地域との大きな違いとして「M&Aの多さ」を挙げる。「シリコンバレーでは、今年だけですでに600件のM&Aが行なわれている」(田所氏)。過去にはLinkedInが2兆9000億円、NetSuiteが1兆円くらいの規模で買収されたが、こうしたユニコーン系のM&Aが年間に40件くらいはあるとのこと。数千億規模にとどまる日本とはまず金額規模が大きく異なり、しかも上場以降にエンジェル投資家になる割合も少ない。エコシステムが土台から違うというのが、田所氏の主張だ。
また、アジアやアメリカなどの海外スタートアップ企業に対する支援も幅広く行なっているアドライト木村忠昭氏は、定点観測しているシリコンバレーでのピッチイベントでインド・アフリカ勢が増えている背景を説明。「チャレンジ精神が旺盛な起業家がいるということ。受け入れ側もエマージングな市場に、そういったインド・アフリカチームを入れたいという意図があると思います」(木村氏)と語った。
田所氏によると、事業の中身としては「75歳以上のドライバーのUber的サービス」や「オンラインコンドーム」、「ひげそりのサブスクリプションサービス」など「特定業種のUber化・マーケットプライス化」が顕著で、最初からバイアウトねらいのサービスも多いという。「昔は赤字でも市場を穫ることが重視されたが、最近ではプロフィッタブルであることが必要になっている。投資家としても早めに利益が出ることを重視しているようだ」と木村氏は語る。
さらに田所氏が指摘したのが人工知能の浸透だ。「3~4年前、人工知能を扱うエンジニアは世界で3000~4000人しかいなかった。当時はGoogle、Facebook、百度(Baidu)、Uberなどの4~5社くらいでこうしたエンジニアの8割くらいを抑えていた。しかし、GoogleがTensorFlowを出したり、Facebookや百度がAIのフレームワークを公開して以降、AIのエンジニアが大衆化している」と田所氏は語る。
日本が存在感を示せる領域としては、先端医療の分野がある。株式会社54でスタートアップに対するコンサルティングを提供している山口豪志氏は、「iPS細胞など先端医療の分野に関しては、日本には特区があるので、法整備も含めて進んでいる」と語る。安倍内閣が3本の矢の1つとして位置づけて注力していること、またiPS細胞の研究でイニシアティブを持つ京大・阪大などが特区に指定されており、実験がやりやすい点があり、世界からも注目を集めているという。
アフリカでの注目は「通信」と「金融」
続いてアフリカの開発会議にも参加した山口氏は、その動向について説明した。一口にアフリカと言っても、4つの地域に別れ、中心となる国も異なるが、トレンドとしては「通信」と「金融」の2つだという。
「モザンビークはベトナムと仲がいいんですけど、ベトナムテレコムは日本の2倍くらいある国土で南北の通信網をなんと半年で作ってしまったんです。現地の通信会社がカバーできないところまで通信できるようになったので、今はモバイルバンキングが流行っている。最大手は直近1年で3兆円くらいのトランザクションがある」(山口氏)。
最大手のエムペサのモバイルバンキングは300~3万円くらいのマイクロペイメントが中心で、しかもクロスボーダー。7カ国くらいの国境をまたいで使える。「向こうでアピールしているのはセキュリティ。自分たちで現金を持ち歩くと、強盗に襲われてしまう。われわれの感覚で言うと『銀行に預ければいいじゃん』と思うんですけど、そもそも彼らの住んでいる地域の村や町には銀行がない」(山口氏)。そのため、ユーザーは現金をエムペサのモバイルマネーに換金するという。インフラのないアフリカだからこそ、スタートアップのダイナミックなビジネスが花咲いているわけだ。
たとえばケニアには「I Hub」というインキュベーション施設があり、白人系のケニア人がサービス開発やものづくりを手がけているという。「たとえば、瓦に太陽光パネルを付けて配ったり、教育コンテンツをタブレットに詰め込んで、モバイルルーターといっしょに提供したり、生活に密着したサービスが生まれている」(山口氏)。支払いに関してもモバイルバンキングが利用されており、割賦払いの料金が自動的に引き落とされるほか、支払い実績から与信も実施し、さらに実績が高い人に対してアップセルも行なっているという。
こうした途上国ならではの状況は、アジアでも同様。「固定電話がなくて、いきなりモバイルに行ったり、店舗がないけど、C2Cサービスやったり。抵抗勢力がないので、アイデアとものづくりができたら、スケールできる。まさにスタートアップパラダイス」と田所氏はコメント。「30~40年後は、世界人口の約半分がアフリカ出身になると言われている。だから、いま果敢にチャレンジしている状況」と山口氏は語る。
メッセージアプリにFintechが飲み込まれる
アジアの動向について説明した木村氏によると、中国はやはりFintechがブームになっており、WeChatのようなメッセージングアプリでは、ウォレット機能で手軽に送金できるようになっているという。FacebookやLINEにも送金や決済機能が追加されるようになり、メッセージアプリがFintechを大きく取り込みつつある。
残念ながら、日本ではこれらの送金機能は利用できず、遅れている感がある。日本で話題になっているビットコインも、米国では注目度が下がっており、ブロックチェーンにシフトしているとのこと。
田所氏によると、アジアでの課題はオペレーションできる人材が少ないことだという。「スケールさせるとか、調達後にちゃんとした企業にできるかが課題。ピッチも定点的に受けている」と田所氏が語ると、山口氏は「人の信用与信がとても難しい。モザンビークのベンチャーも、その人が信用できるかを見極めるのに時間がかかる」と応じる。
課題先進国である日本が海外で勝てるエリアとは?
他国と日本のスタートアップを比較すると、国際展開の考え方が違うのが大きいようだ。日本は英語が遅れていて、なまじ国内市場が大きいだけに、ドメスティックに閉じてしまうというのが現状。一方で、アジアやアフリカのベンチャーは、グローバル志向が強く、おのずと英語の学習意欲も高いという。「日本は身の回りの小さなコトを解決する志向。でも、アフリカのベンチャーは、自分たちのローコストオペレーションで成功したら、世界中のどこでも成功できると考えている。日本はみんな中間層と考えているし、途上国ではハイスペック過ぎるし、富裕層にはロースペックになる」と山口氏は指摘する。
一方で、労働人口不足や高齢化などを考えると、日本は課題先進国。「課題のあるところにイノベーションが生まれる。労働力が減っている介護や農業系はニーズドリブンのイノベーションなので、 ピッチの納得度が高い。TAM(Total Available Market)の大きい、圧倒的にサプライが足りないところを狙うべき」と田所氏は指摘する。
セッションではローテク医療をアフリカに展開している沖縄のレキオ・パワー・テクノロジーや、オンライン学習サービス「受験サプリ」の海外版がインドネシアでブレイクしつつあるQuipperなどの事例も披露。市場ニーズの高いサービスや商品であれば、日本発でも十分戦えるとまとめた。
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