「ARM TechCon」は、毎年この時期に米サンノゼで開催されるARM社の技術者向けイベントだ。ここでは新アーキテクチャやプロセッサが発表されるのが通例だが、今回はちょっと違った。今年6月にARMを買収したソフトバンクの孫氏が、基調講演に参加するという。
生物の急激な進化は視力によるものという説
IoTのセンサーからの情報+AIで人類の進化が加速する!?
ソフトバンクの、いや孫氏によるARMの買収については、確かに大きなニュースになったし、これに不安を感じているARMのパートナーや開発者も少なくない。その不安を解消するためにTechConの基調講演に参加するというのは理論的にはわからない話ではない。しかし、これまで技術的な話題が中心だったTechConには、ふさわしくない話題ともいえる。そもそも今回の買収についての両社の考えはすでにリリースも出ている(ソフトバンクのサイト)。
孫氏の基調講演は、メッセージとしては確かにそういう話なのだが、実際に話した内容は少し違った。実際の基調講演では最初にARM社CEOのサイモン・シーガー氏が登場し、今回の買収について簡単に説明したあと孫氏を紹介した。
孫氏は登場したあと、「目」について話を始めた。まずは、聴衆に3秒間、目を閉じてほしいと頼み、「目を開ければ見える、閉じれば見えない、これが現実世界だ」とした。その後、「目を持った最初の生物は何か?」と尋ねた。「それは三葉虫だ」と語った。そして「5億年前」の「カンブリア爆発」について話を始めた。
カンブリア期に、急激に生物が増え多様化した。この時期の有名な生物が「三葉虫」で、三葉虫は目を持った最初の生物だと紹介した(ただし三葉虫の発生はカンブリア期以前にまでさかのぼるという)。目を持った生物の登場によって捕食関係が強くなり、目を持って固い体表組織を持つ生物が有利になり、化石として残りやすくなったため、結果として急激に多様化したように見えるという説がある。
孫氏は生物の進化の原因は、「センシング」であるとした。視覚や聴覚などの「センシング」を脳で認識、学習、推測し、それに対応して行動するというサイクルが脳を強化し、その結果、生物的な進化が加速されたのだとした。そして、この関係は現在のIoTと似ており、センサーから入手した情報をAIが認識、学習、推測し、IoT機器の処理や動作につながる。このサイクルは、AIを強化し、人間の進化を加速するのだと述べた。
人類の進化はIoT×AIだとして、ようやく本題に入った。これまで、マイクロプロセッサは、PC、そしてPCからスマートフォン(モバイル)へと進み、さらにIoTの時代が始まろうとしている。
孫氏は、IoTがこれからのインターネットの中心になるのだとする。2018年までには、IoTデバイスは、モバイルデバイスを追い抜き、累積で2035年には1兆を越えるIoTデバイスが存在するようになると予測する。そして、このために毎月あたりの通信量は、現在の1エクサバイト(2の60乗)から2.3ゼタバイト(2の70乗)と2450倍以上になるとした。この時代ではすべてのものが「デジタル化」される。
IoT時代に不可欠なのがセキュリティ
AIが人類の進化を加速させる
この時代に重要なのが「セキュリティ」だとした。もちろん、性能や機能も重要だが、セキュリティが最も重要なポイントなのだと強調する。
たとえば現在の自動車には、100を越えるマイクロプロセッサが搭載されている。しかし、自動車自体はまだネットワークに接続されていない。これが接続され“Connected Car”になったとき、搭載されているプロセッサにセキュリティがなければ、ウイルスなどによりある日突然、すべての自動車の制御が効かなくなるという可能性だってあるとした。
次に孫氏は、AIについて話す。すでにAI(ディープラーニング)は、会話の認識や視覚の認識で人間と同じレベルに到達している。AIは、人間の能力を越えつつあるとした。そして囲碁やアート、ヘルスケア、製造、言語翻訳など、さまざまな分野で利用されつつあるとした。
カンブリア爆発のように増えるIoTと高度なAIが組み合わさることは、「シンギュラリティ」(技術的特異点。人工知能などが人間の能力を超え、技術が急激に変化すること)を引き起こし、「超知性」が誕生すると孫氏は言う。未来を予測し、交通事故がない世界を実現し、100歳を越えるヒトの寿命を実現することも否定できないとした。
IoTデバイスが1兆を超えたとき、人類の進化が「急発進」することになる、これは、人類や個々の人々に「幸福」をもたらすことになる。それを実現するのが私たちなのだとして話を締めくくった。
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