10月末のハロウィンが迫るなか、日本のモバイルと決済業界界隈は猫も杓子も「Apple Pay国内上陸」の話題で持ちきりだ。実際にすぐに試すべく、iPhone 7を購入して10月25日のサービス開始を待ちわびていた人も多いだろう。
さて、今回のApple Pay国内上陸だが、諸外国でのType-A/B方式でのサービスとは異なり、日本国内で一般的な「FeliCa」方式のインフラが全面サポートされ、その利用にあたっては「日本国内で販売されるiPhone 7/7 PlusまたはApple Watch Series 2のいずれかが」必要という条件がついている。
つまり、これまで国外でiPhoneを購入して日本に持ち込んで利用していたようなユーザーは、日本国内のApple Payは利用できない(海外版のApple Payは引き続き利用できる→参考記事)。
「ちょっと海外旅行ついでにiPhone買ってこようかと思うんだけど、日本でApple Payが使えないと困るから、誰か人柱になってほしい」とぼやいていた人も少なくないはず。そこで、筆者自らが人柱になって海外版iPhone 7で日本のApple Payサービスが利用できるか検証してみた。
まずは米国版のiPhone 7 Plusを入手してセットアップ
今回のApple Payでは「物理的なSuicaカードをiPhone 7に取り込んで利用できる」という仕様が公開されていたため、インバウンドでの外国人客が「iPhoneを日本に持ち込んでSuicaカードを購入、これを登録して日本を旅行する」といった利用シーンを想定して、成田空港のJR東日本の旅客カウンターに並んでSuicaを購入した。これを海外版iPhoneに登録できるかを調べるためだ。
そして検証のためにはiPhone 7を購入しなければならない。筆者は10月23日から米ネバダ州ラスベガスで開催される金融カンファレンス「Money20/20」に参加予定があり、少し早い21日にサンフランシスコ現地に入って人と会う約束があった。そこで、到着した昼から約束の夜までの時間を使ってサンフランシスコ市内のApple Storeに出向き、端末を購入することにした。
選んだ機種は「iPhone 7 Plus」のAT&T版。筆者は現在Lumia 650で米国のメインであるAT&T回線を運用しており、これをそのまま既存契約としてiPhone 7 Plusに移し替えることにした。AT&T版は内蔵モデムも日本版のQualcomm製のものとは異なるIntel製で、NFCチップのみ共通という実装上の違いがある。NFCチップが同じということはFeliCaチップがAT&T版にも搭載されているということであり、これが日本でのApple Pay開始とともに利用できるかを検証するのが狙いとなる。
ただ、夜に会うことになるシリコンバレー在住の知り合いY氏によれば、米国でもiPhone 7 Plusは極めて入手が難しく、Apple Storeに午前中にごく小数が入荷されて、それがすぐ売り切れる状態が続いているようだ。そこで教えてもらったのがiStockNowというサイトで、検索条件を絞り込むことで、現在目的の在庫が残っている店が地図から一発でわかるという優れものだ。
筆者は白系のカラー(シルバー/ローズゴールド/ゴールドのいずれか)と32GBの容量があればいいので、これで調べたところサンフランシスコの旗艦店である「Apple Union Square」に32GBシルバーの在庫があることを確認した。在庫を確認したのが午前11時のシアトル空港で、そこから2時間のフライトを経てサンフランシスコ空港で再度確認したところ、まだ在庫が確認された。空港から目的の店まで地下鉄を使って40分くらいだが、到着直前に再度確認したら、なんとPlusの在庫が全部消滅している。
そこですぐに再検索を行い、そこからゴールデンゲートブリッジ方面にバスで40分くらいの場所にあるChestnut店にローズゴールド32GBが出現しているのを確認した。40分の移動中に在庫が再度消滅する可能性があったため、今度は駅到着すぐにUberを捕まえて移動に15分、無事にローズゴールド32GBの最後の在庫を確保した。
さて、入手した端末は最低限のセットアップだけ行って待機しておいた。10月25日にやってくる「iOS 10.1」のアップデートを適用しての挙動を調べるためだ。米国時間で24日午前10時にアップデートが大方の予想通り到来し、まずはカンファレンスでの講演を聴きながらセットアップしてみた。同時刻、日本でもアップデートを試みる人たちがSNS上にセットアップ画面を拡散し始めていたので、その内容と比較してみたところ、日本ではアップデート内容に「Apple Pay」に関する表記があるのに対し、米国版ではいっさいその旨の表記はない。
海外版のiPhoneに日本のSuicaを登録できるか
気になりつつもセットアップを続行し、地域設定を米国から日本に、言語を英語から日本語に変更して様子をみた。ホーム画面とWalletアプリの2つに変化があり、特にWalletについては地域設定変更後にクレジットカード登録ができなくなった。本来であれば日本向けにApple Payを利用可能にするiOS 10.1が配信されたにもかかわらず、その設定項目が消滅するというのは、つまりまだこの時点ではサービスは利用できないことを意味する。
そして日本時間で25日午前5時を過ぎたころWalletアプリを再度確認してみると、クレジットカードの追加画面が登場し、ようやく日本でもApple Payが利用可能になった。
さて、この時点ですでに登録画面がおかしい。先に日本で成功していた人たちの画面と見比べていると、登録可能なカードに「Suica」の表記がない。しかも登録可能なカードは、米国でのApple Payと同じクレジットカードまたはデビットカードで、登録の画面遷移も米国版と同じであり、Suicaを取り込めるメニューが一切出てこない。
いろいろ試行錯誤してわかったが、少なくとも米国で販売されているiPhone 7/iPhone 7 Plusはファームウェアのレベルで日本で販売されているモデルと差別化が行われており、仮にFeliCaチップを搭載していて、登録地域を日本に設定していたとしても、FeliCa系サービスの利用はできない。あくまで日本国外でのApple Payとして動作するだけだ。
残念ながら、海外でiPhone 7/7 Plusを購入して日本でApple Payを使おうとしていたユーザーは、現時点では少なくとも諦める必要がありそうだ。今後のアップデートでどうなるかは不明だが、国内ではApple Payの使えないiPhoneとして割り切るしかないだろう。筆者的には無音シャッターで高画質写真が撮れる高級カメラとして満足しているので、しばらくは米国のカードを登録して海外版Apple Payの端末として利用していきたい。
【10/26 20:00追記】
記事公開後に、(週アス編集長の宮野さんを含む)読者からいくつか質問が寄せられていたので、「海外版iPhone 7でSuicaアプリは追加できるのか」について回答させていただく。日本のiTunesアカウントがあるとSuicaアプリの検索とダウンロードが可能になるが、実際にインストールしてもFeliCaがないため画像のように動作しない。
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