ニッポン放送×Cerevo×グッスマが手がける「Hint」とは
かっこいいラジオが欲しいというニーズから生まれた「ありえないラジオ」
ありえないポイント2
デザイン by GOODSMILE COMPANY
格好いいラジオを作って、という吉田氏のリクエストに対し、メチクロ氏はまずは理念の掘り起こしを優先させた。
「格好いいモノを作ってほしいというリクエストは、100人いたら100人が言います。しかし、お話があった時点では、なんで今ラジオを作るのか、とピンとこなかった。まずは格好よさよりも大事なものがあるんじゃないのか、と思いました。そこで『ラジオって何』という質問を単刀直入にさせていただきました。僕はプロフェッショナルな人にこそ、そういうのを聞きたくなるんです」(メチクロ氏)
吉田氏は、ラジオとは何か、とは考えたことがなかったが、質問を受けて熟考した。そして看破したのが、ラジオは「人の気配の発生装置である」ということだった。
「ラジオを聞く人のこと考え抜きました。まず寂しいのがいやだと思うんです。誰もいない無人の部屋に帰ってきて、ラジオ付けると寂しくなくなりますよね。もう一つが、人の話を聞くのは基本的に嫌いじゃないはずなのに、強制的だとかなり嫌なこと。つまり、授業は嫌いですが、ファミレスの隣の会話は聞きたいんです。寂しいのは嫌、でも、わずらわしいのも嫌。そこのニーズを満たすものが聞き流してもいい話しか流していないラジオなんです。ラジオは『人の気配発生装置』。これ、メチクロさんが言ってくれなかったら一生思いつきませんでした」(吉田氏)
メチクロ氏はそのキーワード耳にして、やっとプロダクトの形を考え始めた。年をまたいで5月くらいまで、この理念の掘り起こしをしていたそう。ラジオを作るプロジェクトだが、そのコダワリは半端ない。
続いて、開発途中のスケッチがスライドに表示されたのだが、ほとんどプロトタイプそのまま。機構設計をする前の段階のはずなのに、ありえない完成度だ。
「僕はプロダクトデザイナーなので、機能も考えて書きます。ほぼ自分の狙う音や機能を実現できるだろうと最初から考えて書いています」とメチクロ氏。そのおかげで、そこから先の動きが大きく加速することになる。
ありえないポイント3
設計・生産 by CEREVO
柴田氏は、開発途中のスケッチできる少し前の春ごろから絡み始めたとのこと。スケッチを見たときに、これは作れるな、と直感したそうだ。
「いろいろわかってくれてるデザイナーさんでよかったな、って思いました(笑)」(柴田氏)
3人が集まる”ありえない”打ち合わせの話も面白かった。
「デザインの打ち合わせをしていると、メチクロさんと柴田さんが話していて『ここを細くここを太く』っていうと、その場でガンガンCADを書き換えていくんです」(吉田氏)
柴田氏はメカニカルエンジニアなので、持ち帰って時間が過ぎるくらいなら、その場で直して、コンセンサスを得た方が話が早いと、あっけらかん。吉田氏は「カウンターの料理屋でもあんなに対応してくれないくらいに柔軟性が高い」と感心する。このスピード感はちょっとあり得ないレベルと言っていいだろう。
さらに打ち合わせ事項は多岐にわたる。ラジオの大きさをどうするか、500ミリペットボトルサイズなのか弁当箱サイズなのか、録音機能はどうするか、などを詰めていった。そして一番重要な機能として、「無指向性スピーカー」を採用することになる。
「人がいる雰囲気を出すために無指向性スピーカーを載せました」(吉田氏)
無指向性スピーカーは、部屋のどこにいても同じように聞こえる特徴を持っている。ステレオスピーカーの前にいないときちんと聞こえない普通のオーディオとは異なるポイントだ。イヤホン端子に関しても考えられており、今回お披露目されたプロトタイプはモノラルなのだが、製品版はステレオになる予定とのこと。スイッチを押してすぐにラジオが流れるという点も吉田氏は譲れなかった。
そしてもう一つの大きな特徴である、Bluetoothビーコンについて。「Bluetoothビーコンは普及します」と吉田氏は断言する。
「ビーコンが標準機能になったときに、起きそうな問題があります。ビーコンの内容をどうやって書き換えるか、ということです。たとえば、ある市町村が1000個のビーコンを配置しました。いいでしょう、役に立ちそうです。でもその1000個を手動で書き換えるのは現実的ではありません」(吉田氏)
ではどうするか。その答えがラジオだ。ラジオの音声波に電話のダイヤル音を流し、「Hint」で解析、ビーコンのURLを書き換えるという仕組み。自治体が購入して運用すれば、新しいサイネージとして活用できるという。
「災害時に連絡掲示板が作られても、それを周知する方法がありません。ラジオを使うのもありですが、ダブリューダブリューダブリュードット……って書き留めたりできませんよね。これをピポポポという信号をラジオで受信すると自動的にビーコンが書き換わり、周辺にいる人のスマートフォンに掲示板のURLが配信されるようになれば、これは社会的意義があるだろうと思いました」(吉田氏)
しかも、追加投資がゼロで済むと吉田氏は胸を張る。地球上の表面はFM音声波で覆われており、Bluetoothとう世界標準の機能を使うため、追加投資なしで新しいサイネージが手に入るという。まさにラジオをハックしていると言っていいだろう。
もちろん、まだBluetoothビーコンは普及していないので、まだこれからというところだが、それを抜きにしても格好いい高級ラジオ「Hint」は価値がある。クラウドファンディングでは、最低金額2万1500円から募集しており、十分手が届く価格だ。クラウドファンディングはイベント開始時は54%の達成度だったが、セッション中に56%に上がり、3人ともとても喜んでいた。試合中の声援と同じような感じだという。
まさにラジオをハックしたありえない「Hint」。販売がスタートしたら、おしゃれなオフィスで見かけることが多くなりそうだ。
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