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スマートフットウェアのプラットフォームを目指す「Orphe」

ポケモンGOでわかったネットにつながる靴が与える衝撃

「日常を表現にする」Orphe。着想は楽器から

三越伊勢丹の店頭

 ファッション性を追求しながらも、Orpheはハイファッションやアートだけにフォーカスしているわけではない。Orpheのコンセプトの一つは「日常を表現にする」こと。「Orpheを使うことで、たとえば普通の夜道の散歩を自分の色に彩ることができる。それだけでも十分な表現活動なのではないか」(菊川氏)。踊ることができない人でも、歩くことを表現にしてしまえるのがOrhpeの魅力のひとつだ。

 菊川氏は一橋大学経営学部卒業。在学中は音楽活動に勤しみ、その後首都大学東京で芸術工学を履修。プログラミングと電子工作のバックグラウンドを持っている。そもそもが楽器を作りたいと考えていた菊川氏が在学中に着目したのが、ほかならぬ靴だった。フラメンコやタップダンスは靴が楽器の役割を果たしている。それを電子楽器に置き換えたものが、靴の形をした楽器「Orphe」だ。

 靴は容積が大きく、ほぼ全人類が身に着ける。そういった面でも有利だと考えた。菊川氏が考えたプロトタイプは、バスケットシューズにLEDのリボンをぐるりと巻き付けたもので、それをno new folk studioでデザイナー兼CTOを務める金井隆晴氏が形にしたところが同社のスタート地点だ。

 no new folk studioの活動範囲がテクノロジーとアートの融合であるという点では、ライゾマティクスやチームラボなどと通じるものがあるが、BtoCでマスプロダクションをしているという点がほかとは決定的に異なる。

 「僕の最終目標は、IoT時代でないとできない表現をつくること。プロダクトがインターネットにつながっているから、加速度的にノウハウを集約することができる。将来的にOrpheが情報を吸い上げてきたあとには、他の会社にはできないことができるようになるのではないか」

 情報空間と靴がつながっていることが、何をもたらすのか。どのような世界が広がるのか――。自身でも見えていない点があるが、それをやってみたい、と菊川氏は言う。

100足以上のプロトタイプを潰し、履き心地、耐久性を向上

 華やかでクールな側面ばかりが強調されがちなno new folk studioであるが、そのコアとなる部分は意外なことに「機動力と根性、リスクを取れるところ」だと菊川氏は言う。

 「スタートアップの利点なんてそんなもの。ただ、僕たちは泥臭いことをやってモノにすることができる。華麗なコンセプトを作れても、最終的に動くところまではいかない人も少なくはないが、僕たちにはそれができると思っている」(菊川氏)

 靴のOEMを行っているメーカーは国内には存在しないため、現在Orpheは中国で製造している。イチから中国の工場とコミュニケーションをとって製品を作るのは、苦労と困難もあったという。あらかじめコンセプトを作り、成功の道のりを描いたうえで、挑戦をしているわけではない。「光るスマートフットウェアを作りたい」という初期衝動に従っているだけだ。そして、効率を重視するのではなく、時間がかかってもやるというメンバーが集まっている。

 no new folk studioのプロダクトに対する実直さは、Orphe出荷時の品質に対するこだわりにも通じるところがある。Orpheは白黒の二色展開で、重量は片足450グラム。実際に着用してみると、普通の靴となんら変わりない履き心地だ。

 「Orpheは靴としてちゃんと走ったり踊ったりできるというところを一番重視している。それと、靴として履いた時の見た目も。ウェアラブルを考えるときに、身に着けて恥ずかしかったり、着用していて苦しいようではモノとして使い続けることはできない」(菊川氏)

 仮にアプリが全く動かなくても、今までよりは表現力の高いLEDシューズという点は、何が何でも譲れないと考えていた。そのためスタンドアローンでも動く仕組みになっていて、本体に内蔵されたボタンを押すことで、プリセットされたパターンにLEDが光るようになっている。

 また、Orpheは履き心地、見た目とともに耐久性も重視する。既存のLEDシューズには、1日履いたら壊れてしまうような製品も少なくない。しかし、Orpheがメインターゲットの1つとして考えているダンサーの運動量は非常に激しい。高所からジャンプして、つま先から着地するというような衝撃にも耐える必要がある。さらに、靴はそもそも柔軟に曲がる必要があるが、電子機器は本来曲がってはいけないものだ。滑らかに光をつなげつつ、曲げることができるという矛盾をどうするか。

 その矛盾を彼らは、地道にトライ&エラーを繰り返すことで解決しようとしている。「こういう衝撃でここが壊れたから、こっちをこうしようとか。LEDの密度も、実際に作ってみて、この部分の密度が高すぎるから、次はこうしよう、とか」(菊川氏)。試作品を作り、ただひたすらトライ&エラーを繰り返し、すべての壊れる理由をつぶしていった。

 「それを論理的にできればかっこいいが、僕らにはそういうことができなかったから、本当にトライ&エラーを繰り返した」(菊川氏)。Orpheの試作品は100足をくだらない。その成果もあり、土踏まずの部分に組み込まれている基板は、今のところ踏み抜かれて故障したことはないという。

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