マッチングだけではNG 工場とブランドをアメーバのようにつなぐクラウドソーシング
国産縫製工場を救うクラウド化 熊本発「シタテル」が革命的である理由
提携工場は130工場、今年度は200工場を目指す
シタテルのマネタイズの仕組みは非常にシンプルで、ユーザーから先に代金をもらい、その翌月の末に工場に工賃を支払うスタイル。手数料を固定のパーセンテージで決めておらず、単価はアイテムによって決まる。シタテル側としてやることは、規模の大小でそれほど変わらないという。
「市場規模としては、国内のマーケット自体が9兆円前後。この数字は市場流通額なので、我々が狙うのはその原価分というところ」と河野氏。
気になるのは、なぜ本社を熊本県に置いたのかというところだが、「20年くらい前、熊本がファッションの聖地だった時期があった。たとえば、ビームスが東京本店の次にローンチしたり、ポール・スミスが入ってきたり、ファッション産業の重鎮達に関係が深かった。工場の誘致数も他県に比べて多く、アパレルのカルチャーがあった」と河野氏。
また、工場との最初の取引ではクレームが頻繁に発生する。マーケットだけを見て東京にいると、熊本の工場がうまくワークしなかったり、スタックしたりするため、現場に近い場所に本社を置いた方がいいという判断もある。さすがにマーケットは東京の方が多いため、現在は東京にもオフィスを準備中とのことだ。
今後のキーワードは「ローカライズ」
複雑な情報をデジタルプラットホームでまとめあげ、プレーヤー間の交通整理をしてユーザーにつなげられる背景には、エモーショナルなトラブルを根気強くクリアしつつ、それをシステムで克服しようという課題への挑戦がシタテルにはある。ある種の職人集団をまとめあげる部分には、品質担保もあり当然属人的な能力も求められるはずだ。
”質”の話までは踏み込んでいないが、パターンから始まり、資材調達、裁断、縫製、できあがりでのシルエットや手触り、色、素材特性の活用などなど、多岐にわたるこだわりがあるプロからの注文に合わせてこれを担保するのは、手間がかかる部分も多いことだろう。現行サービスの質は維持したうえで、部分的な自動化で極限まで省力化したうえで、より人の力をより生かせるようになってもらいたい。
またアパレルでのトラックレコード(生産実績)の更新についても、それがなぜ必要かといえば、それまで業界の都合でできなかった新しい需要対応やサービスなどが可能になる点で大きな意味を持つ。衣服は生活には欠かせないものだけに、そのつるはしとなるシタテルの需要がこの先どう高まっていくかがか楽しみだ。
現在シタテルは、2016年6月にシリーズAの調達を実施し、主に人材につぎ込む動きを見せている。属人的な部分にどれだけテクノロジーが歩み寄れるかというところがキモだ。システム開発に力を入れるのはもちろんだが、現場でフレキシブルに動く人材も重要とのことだ。
工場は2016年6月の段階で130工場と提携し、今年度は200工場を目指している。メディアに露出することで、全国から問い合わせがあり、着実に増えているという。もちろん営業をかけて攻めていくこともあるそうだ。現在は、BtoBのアパレル事業者がメインの顧客だが、新たな流通やロングテール化を見込んで、新サービスも開発中とのことだ。上流から下流まで抑えているため、いつでも自社ブランドを展開できる強みがシタテルにはある。
しかし河野氏は、「シタテルがBtoCをやろうと思ったらすぐにでもできるが、それだけが我々が目指すべき世界ではない。あくまでプラットホームとしてやろうと考えている」と言う。
今後のキーワードは「ローカライズ」だ。取材当日、河野氏が着ているものはシタテルで仕立てたものだったが、じつは自社の半径数十キロ以内で作られたものばかり。小売店で並んでいる衣服の多くは、東京発のデザインが地方の工場で作られるなど、効率の悪い情報流通経路をたどっている。そこをローカライズということで、九州なら九州と、特定のエリアで生産されたものを、地域で消費する動きがあるという。シタテルのアトリエシステムならこれが簡単に実現できる。
「人間の欲求として生まれた地に帰りたいというのが必ずあるので、そんな世界観を作っていきたい」と河野氏は語る。
アパレル業界に新しい風を吹き込んだシタテル。今後の活躍も注目していきたい。
●シタテル株式会社
2014年3月設立。IT化・インターネットを通して、服の生産を必要とする事業者向けに、国内外の中小縫製事業者のデータベースを整備し、提供するプラットホーム『シタテル』を提供。
2016年6月にはオプトベンチャーズと三菱UFJキャピタルを引受先として、シリーズAとなる数億円規模の第三者割当増資を実施。
社員数は2016年8月時点で13名。本格的な自社開発に移るためエンジニア採用を進めている。
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