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オープンにモノづくりをすすめる新しいメーカー目指す

中小企業の持っている技術が面白い!モノづくりの新形態「TRINUS」

 株式会社TRINUS(トリナス)は、クラウドソーシングを活用したオープンなモノづくりを行うメーカーである。これまでクローズに行われていた製品の企画化、製品化にまつわる工程をオープンに公開することで、「新しいモノづくりを行うことが当社の特色」と代表取締役である佐藤真矢氏は話す。同社のモノづくりは、どのような形態で行われているのか。そして従来のメーカーのモノづくりと比較してどんなメリットを持っているのだろうか。

TRINUS(トリナス)の佐藤真矢代表取締役

製品までの工程をオープンに公開

 東京、大手町にあるインキュベーション施設内にあるトリナスのオフィス。現在、手がける複数の試作品が並んでいる。花色鉛筆、花を飾る際に使うフラワージュエリー、金属を加工した皿、絵が描かれた漆器など一見すると関連性のないものばかり。だが、これらすべてトリナスの手がけたものだ。

 「生活を明るくするライフスタイルブランドというコンセプトのもと、メーカーとして作った」ものだと佐藤氏は話す。

 バラエティに富んだ商品が並ぶ理由は同社のビジネスモデルによる。同社の商品開発は、技術を持つ企業による特別な素材を使って、商品化するためのデザインやアイデアをクラウドソーシングで募集し、まったく接点のなかった企業とデザイナーを結びつけることで新しい商品を作り出すというものだ。

 『TRINUS』サイト上での技術とデザインを結びつける過程は、あえてオープンに公開し進めていくのが同社の特徴だ。「採用までの過程をオープンに公開することで、製品が誕生するまでの間にさまざまな意見を獲得することができる。また採用するデザインが決定し、試作品を作っている様子をブログ形式でオープンにしていく」(佐藤氏)

できあがるまでを丹念に追っている

 現在、商品化に向けて作業が進行中の花色鉛筆は、紙樹脂素材を使ったもの。プラスチック成型機を使っていながら、できあがった製品は木のように自由に削れるのが特色となっている。

 「鉛筆の形状がユニークであることも特徴のひとつ。実はこの形状となったのも、オープンにモノづくりの工程を公開したことで生まれたもの。当初はこの形状ではなく、『せっかくなら日本らしいデザインにしたら?』、『色も日本の伝統色にしたら?』など、オープンな場でこちら側が関与せずに意見がまとまっていった。自由に意見が寄せられる環境であるため、まったく新しい商品が誕生する可能性をもっている」

今後販売がスタートする予定

 トリナスのモノづくりは、スタート時点では特色ある技術をもった素材は存在するものの、それを使ってどんな商品になるのかが決まっているわけではない。公募によってユーザーの意見を取り入れながら商品が作られていく。これも同社のビジネスのユニークな点だといえる。

 「クラウドソーシングでデザインを募集すること自体は決して珍しいものではない。しかし、技術をベースにデザインを募集する点、そこであがったデザインをもとに商品化を行い、自社商品として販売している会社はない。新しいタイプのメーカーを目指すのが当社のビジネス」

 これまで特定用途にのみ使われていた技術に光を当て、クラウドソーシングを使ってデザイン公募という手法を用いて、まったく新しいモノづくりを行うという点がトリナスの最大の特色となっている。

花色鉛筆の実物。削りかすはそれぞれが異なる花びらの形に

日本の中小企業が持っている技術が面白い

 オープンな工程とともに同社のビジネスの核となるのが、技術をもった素材である。この素材はどのように見つけ出しているのだろうか。

フラワージュエリー

 「前職時代、日本にはさまざまな技術をもった素材があることを実感する経験をした。特に中小企業の中には、知名度はないものの、商品化する価値がある素材がたくさんある。これを活かしていくことができるのではないかと考えた」(佐藤氏)

 佐藤氏はアクセンチュアでコンサルティングとしての経験を、ベンチャー企業であるリンカーズではマッチングビジネスを経験した。

 「アクセンチュア時代には、デザインがモノづくりを変える体験をした。障害者施設を支援するなかでの課題だったのが、施設で行っているモノづくりがなかなかビジネスにならないこと。そこでデザイン公募をかけて一新したところ、それまでは売れなかった商品が売れるようになった。デザインの力を感じたきっかけ。またリンカーズ時代には、中小企業と一緒に仕事をして、面白い技術をもっているのにそれが活かされていないと感じた」

 こうした経験を経て、「中小企業を支援して何かビジネスをしたいというより、中小企業が持っている技術が面白い。これでなにかモノづくりをしたいと考えるようになったのがトリナスの原点」

 2014年11月、コンペを行って4社からデザインを集めた。同時にトリナスのWebサイトを構築し、モノづくりの工程をオープンに公開する体制も整えた。

 中小企業の技術とデザインが組み合わさったことで新しいビジネスが誕生した先駆けといえるのが、トリナスが商品化を進めている「フラワージュエリー」という全く新しい商品だ。ベースになっているのは、医療用に使われていた抗菌技術である。

 金属に対する抗菌加工技術にデザインという新しい要素が加わったことで、花を飾るジュエリーというこれまでになかった商品に生まれ変わった。生花と組み合わせることで素材が持つ抗菌という要素が生かされ、さらにジュエリーのようなデザインによって、コップなど花器ではない容器でも生けた花を美しく立たせることができるという付加価値を産みだした。医療用に使われていた素材が、全く新しい商品に生まれ変わったのである。

このような抗菌加工の素材がベースにある

フラワージュエリーはMakuakeでクラウドファンディングを実施し、成功をおさめている

 デザインの力を支えるのは、ゼロからのスタートだったにもかかわらず現在2700人が登録しているウェブ上のデザイナーたちだ。「登録しているデザイナーは、若い人が多い。学生、企業に所属していて独立したばかりの方やインハウスのデザイナーだが、新しいことに挑戦してみたいと思われている部分は共通している」

 デザインが採用されると、5万円のデザイン料が提供されるだけではない。商品化された場合には一定のロイヤリティがデザイナーにも支払われる。「参加デザイナーの方に話をうかがうと、金銭だけではないメリットを感じて頂いている部分もある」

 採用されたデザイナーの一人は大学院生で、佐藤氏から見て優秀な人材だという。だが、優秀なデザイナーであっても評価されているとは限らない。自分のデザインに対し、オープンに多くの人の意見を聞く場ともなるトリナスは新しい活躍の場となる可能性があるという。

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