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普及価格帯の360度カメラとしては優秀

360度カメラ「Gear 360」を使ってわかった! いい点、悪い点

2016年07月31日 15時00分更新

文● 広田 稔 編集●飯島恵里子/ASCII.jp

VR業界の動向に日本一詳しいと自負するエヴァンジェリスト「VRおじさん」が、今週のVR界の出来事をお知らせします!

目玉のおやじみたいですが、普及価格帯の360度カメラとしては優秀です!

 どもども! VRおじさんことPANORAの広田です! 今週では、NTTドコモ×エイベックスの「dTV VR」配信スタートや、Y!mobileの「ふてにゃんVRゴーグル」配布といった、通信キャリアに関係するVRニュースが報じられました。VRゴーグルでは、スマートフォンを差し込んで使うものも多いこともあって、以前にもこの連載で取り上げたKDDIに続いて、注目を集めるひとつの要素になっていきそうです。

 今回は、そんなスマートフォンともちょっと関係しているGalaxyシリーズの周辺機器である360度カメラ「Gear 360」について取り上げていきましょう。ざっとしたインプレッションはT教授の記事を読んでいただくとして、もうすこし踏み込んだ話を伝えていければと思います。


THETAの地位を揺るがす普及価格帯の360度カメラ

 筆者は「VRおじさん」で検索するとGoogle 1位の漢(おとこ)ですが、「VRジャーナリスト」も名乗っております。

 以前よりさまざまなものを取材していて感じていたのは、既存の文章や写真、動画では現地の雰囲気を伝えきれない部分があるという点です。VRに出会ってその問題を解決してくれると直感し、2014年からGoProを6台組み合わせた360度撮影システムを導入して、さまざまなイベントを撮影してきました。実際、360度カメラで撮った映像をVRヘッドマウントディスプレーで閲覧することで、現地に行ったような気分を再現してくれます。これはジャーナリズムを大きく変える。




 それと並行して、以前にもちょっと触れた結婚式VRなど、仕事としても撮影している関係で、趣味レベルよりはひときわ360度カメラにこだわりがあります。

 そんな目線で見るGear 360のいい点は、まず低価格帯における360度動画の画質の良さです。1桁万円の360度カメラとしては、リコーの「THETA S」が不動の地位を築いていましたが、360度動画がフルHD相当(1920×960ドット)/30fpsと惜しい感じでした。YouTubeやFacebookに投稿して見る分には問題ないですが、Gear VRなどのVRヘッドマウントディスプレーで見ると、画面と目が近いこともあってドットがかなり目立ってしまう。その点、Gear 360は最大4K相当(3840×1920ドット)/30fpsと4倍になっている点で、かなり荒さが軽減されております。

ニコニコ町会議を撮影してみた例。モザイクをかけていますが、ピントが1〜2mの近距離に合うようになっているのか、カメラに近い観客はかなりシャープに写っています。一方で、ステージの出演者のピントはちょっと甘め。スティッチングずれも少なくて優秀です

 「スティッチングずれ」が少ないのも特長です。1つのレンズで360×180度を撮影できるレンズはこの世に存在しないため、360度を撮影するためには2つ以上のレンズを利用することになります。この複数の映像をくっつけて、360度映像にする作業をスティッチング(統合)といいます。そして残念ながら、別々のレンズで撮った映像は視差が生まれてしまい、撮影対象の距離によってピタッと合わない部分がでてきてしまいます。

 すごくざっくり言えば、右目と左目の片方を隠すと、目の前のものでも見える角度が変わってきますよね。360度静止画のGoogleストリートビューでもよくずれてる部分がありますよね。THETAシリーズもスティッチングずれが少ないですが、Gear 360もほぼピタッと合わせてくれます。これは気持ちいい。

 防水・防塵仕様というのも素晴らしいです。屋外での撮影では360度に限らず天候に左右されがちですが、そうした点を気にすることなく撮れるのがストレスを減らしてくれます。サムスン自体もエベレストで撮影された360度映像を公開してました。ほかにもスマホアプリが用意されていて、リアルタイムプレビューして遠隔で撮影操作できたり、ストレージ(マイクロSDカード)や予備バッテリーを交換できるのもいい点です。しかし国内では予備バッテリーが売ってない気がするのですが……。


Windows向けソフトウェアが残念

 一方で、改善して欲しい点もあります。早急に対応してほしいのがPC向けソフトウェア「Gear 360 ActionDirector」で、編集時に映像の正面が選べないのが致命的です。YouTubeやFacebookでもVRヘッドマウントディスプレーでも、360度映像を見てもらう際に「これは面白そう」と興味を引くためには、まず最初に見える正面の領域が重要になってきます。そしてアプリで編集した際は、一方のレンズ側(操作用のインジケーターがある逆側)が正面として固定されてしまって直せない。

 現状、これを修正する手間は、別のソフトを利用することになるので本当に面倒くさいです。まず1つの動画内に左右にならんでいる正面/背面の魚眼レンズの映像を、Adobe Premiereなどの動画編集ソフトで別々に切り出して、プロ用のスティッチングソフト「AutoPano Video」と「AutoPano Giga」を使って統合することになります。これは早急に直して欲しい。あとはスマートフォンではGalaxyシリーズでしか使えなかったり、OS X版の編集アプリがないのもユーザーが限定されてしまうのも残念ですね。

Gear 360 ActionDirector。なぜ正面(映像の中央部分)選べない……

写真でいうと奥側が正面のカメラになります

 生放送に非対応というのももったいない点です。特にイベントなどでは、自由に視点を選べる360度映像は現場にいる感覚を強めてくれるので目下、活用が進んでおります。ライバルであるTHETA Sは生放送前提で開発が進められているのに、Gear 360はなぜHDMI出力を対応していないのか。せっかく4K対応で、5万円以内で買えて高さも目立たないため、例えば会場のいろいろな場所に数台置いてマルチアングルでライブ中継する用途によさそうなのに、できないというのはもったいない。

 厚さも若干ネックになるかも知れません。THETAシリーズはスリムなのでカバンにすっと忍ばせられますが、Gear 360はかなり存在感があります。そして厚いがゆえ、一緒に持ち運ぶ荷物、例えば一眼レフカメラやレンズなどに圧迫されてレンズが割れないかなと心配になってしまいます。

 あとはプロ用途でつかうなら、連続撮影時間も気になるところです。360度撮影システムはたいてい熱暴走の問題がつきまとって、長時間撮影が鬼門になります。筆者がGear 360を曇天の屋外で使用した際には、だいたい30分ほどで止まってしまいました。


2016年夏の空間を残すなら即買い!

 いろいろもったいない部分も多いですが、Gear 360は、1桁万円で買える360度カメラとしては、現状でいちばんオススメしたい製品になります。筆者としては、YouTubeなどのウェブ向け360度映像なら、仕事でも使っていいかなと感じさせました。少なくともサンプル撮りなら十分ですね。

 ただ、360度カメラは本当に戦国時代で、次々と新製品が出てきています。今、注目なのは、iPhoneに刺して使う「Insta360 Nano」(PANORAの記事)。スマホに直でデータを取り込めるので、ウェブでシェアするだけでなくYouTube Liveで360度配信できてしまったりと、既存の360度カメラの手軽さを凌駕する勢いがあります。

Insta360 Nano。国内ではサンコーレアモノショップが販売。価格は2万6800円

 そして、THETAの次世代機にも注目でしょう。THETAは1年単にで毎年秋にモデルチェンジしているので、今年も新モデルの登場が期待できます。THETAはソフトウェアやウェブアプリの更新頻度が本当に高くて、ぐいぐい使い勝手が上がっていくので、ハードが進化したらさらにヤバいことになりそうです。

 なかなか買い時が難しい360度カメラですが、家族旅行や結婚式などのイベントが直近である際には、手にしておかないとその体験は二度と訪れないわけです。この夏、ご予定がある方は、ぜひGear 360を手にして「空間を切り取って保存できる」という新機軸を体験してください。

 ちなみにPANORAでは8月3日に、360度撮影をテーマにしたイベント「ポストモーテムVR #01 VRに適した360度映像を撮るには」を実施します。過去の撮影事例を基に現場のエッセンスを凝縮して、VRに適した映像表現を追求していきますので、360度撮影にご興味あがある&すでに撮影している方々はぜひご参加下さい!(アツい宣伝)


「HTC Vive」を楽しむ著者近影

広田 稔(VRおじさん)

 フリーライター、VRエヴァンジェリスト。パーソナルVRのほか、アップル、niconico、初音ミクなどが専門分野。VRにハマりすぎて360度カメラを使ったVRジャーナリズムを志し、2013年に日本にVRを広めるために専門ウェブメディア「PANORA」を設立。「VRまつり」や「Tokyo VR Meetup」(Tokyo VR Startupsとの共催)などのVR系イベントも手がけている。


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