週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

ソフトバンク2016年度Q1決算発表、ARMの戦略は明かさず

2016年07月29日 08時30分更新

ARMの中立性と独立性は維持、今後の戦略は「説明しない」

 米Sprintの「V字回復」(孫社長)がARM買収に向けた背景となった。中国アリババグループの株式売却などで4.5兆円の現金が確保できる見込みとなり、3.3兆円というARMの巨大買収も可能という判断で、一気に動いた孫社長はわずか2週間で買収合意にまでこぎつけた。

ARMの買収では、3.3兆円のうち30%を借入。その結果、純有利子負債はさらに拡大し、EBITDAとの倍率では3.8倍から4.4倍に。ただし「4.5倍まではふつう」と孫社長。今後は3.5倍まで下げることを目指すという

 ARMの買収では70%を自己資金で、30%を借入で用意。これまでの企業買収ではもっとも手元資金を準備したうえでの買収となり、「余裕を持って資金調達ができた」と孫社長。

最悪の場合、本業以外の資産を売却できるとして、保有する株式などを紹介。総額で9.1兆円となり、借金の7.1兆円を返済できる、とアピールする

 ARMは半導体のアーキテクチャの研究開発・設計を行なう企業であり、CPUなどのチップ開発は行なわない。あくまでそのコアとなる設計だけで、それを利用して実際のチップ開発や製造、販売を行なうのが半導体メーカーだ。このARMコアを採用したメーカーの代表格が「Snapdragon」シリーズで知られるクアルコムで、ARMを使わない半導体メーカーの代表格がインテルだ。

ARMの事業モデル

ARMの顧客は半導体メーカーで、各社の開発するSoCを使ったメーカーが最終製品に搭載して出荷する

 スマートフォン以外にも、さまざまな領域でARMコアを使ったチップは採用されており、自動車や数々のIoT機器に搭載されている。ARMを使ったチップは、スマートフォンでは97%、自動車では95%以上、家電製品では55%以上に採用されていると言われており、昨年1年間で148億個のARMコア採用チップが出荷されたという。

ARMコアのシェア

ARMコア採用のSoCの出荷数

 ARMコアにはスマートフォンなどハイパフォーマンス向けの“Cortex-A”、自動車やストレージなどのリアルタイム処理向けの“Cortex-R”、IoT機器などのマイクロコントロール向けの“Cortex-M”の3種類があり、特にまだシェアが低い自動車向けや家電向けでの拡大の余地があるとみられる。さらに、特に孫社長が期待するのがIoT向けだ。

ARMコアは3種類のラインアップ

自動車向けのSoC例

IoT時代にはさまざまな製品に搭載されると見込む

市場規模の予測

まずは既存の戦略を加速させることを目指す

 「すべてのものがインターネットに接続する」IoT時代を、孫社長は「業界の第4のパラダイムシフト」と指摘。インターネットのように自然に普及するとみており、20年後には「累計で1兆個のチップが出回る」と予測する。このIoT向けでARMが主要な役割を果たすことが孫社長の狙いだ。

現在のARMの業績。安定的に高収益を確保しているが、さらなる拡大に向けた戦略が期待されている

 孫社長は、ソフトバンク創業時からすべてがインターネットで接続して通信することをイメージしていたといい、IoTによるパラダイムシフトによって世界中のIoT機器から得られたデータを集約し、それをサービスとして提供する世界の実現を目指す。

 「チップがあるところにデータあり」と孫社長。そのチップは傘下のARMが設計し、すべて通信でつながってクラウドに集められる。データを送受信するネットワークを、日米で保有するソフトバンクは、「総合インターネットカンパニーとして、総合的なエコシステム、プラットフォームを持つことになる」(孫社長)。

 ARMの設計自体は、孫社長は買収会見で中立性と独立性を強調しており、ARMがグループ内にあったとしてもソフトバンクの事業からは独立しているはずだ。孫社長自身、「(既存事業との)シナジーは見えないのがいい」とARMとの関係を説明。シナジーが見えないからこそ買収も可能だったと指摘しつつ、孫社長の頭の中には戦略があるようだが、「説明するつもりはない」と言及は避ける。

 IoT時代に向けてARMのシェア拡大にともなう収益の拡大は、事業の柱として大きいだろう。ただ、特定企業との関係がないことがARMのひとつのメリットであり、ソフトバンクグループの事業との連携が深まってソフトバンク色が打ち出されると、ARM採用を避ける方向性も考えられる。孫社長がARMを中核事業とするために、どういった戦略を打ち出していくのか、今後の動向に注目が集まる。


■関連サイト

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう