ハイレゾに興味があって、「いい曲」を「いい音」で聴きたい。でも差し当たって「何を聴いたら幸せになれるのかなぁ」なんて思っている人に向けた新連載。評論家の麻倉怜士先生が、現在配信中の最新音源から、注目かつ高評価な楽曲をピックアップ。じっくり聞いて評価します。
特におすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
原田知世のカヴァーアルバム第2弾。前作『恋愛小説』(2015年)は英語曲だったが、今回は原田が少女時代に愛聴していた1970年代半ばから1980年代前半の邦楽曲を集めた。竹内まりや、荒井由実、松田聖子、キャンディーズ、山口百恵……などの原田にとって思い入れの深い名曲たちだ。
原田のホームページでのインタビューによると、「テーマが『私が子供の頃に聴いていた楽曲』と決まりましたので、まずは私が思い入れのある曲を中心に30曲くらいリストアップして、そこから10曲に絞り込んでいきました」とのことだ。
冒頭の「September」(作詞:松本隆作曲:林哲司、歌唱:竹内まりや、1979年)についは「もちろん好きだったのですが、明るい曲調だったので、まさかこんなに悲しい歌詞だとは思っていなくて。失恋の歌だったとは、後から気づきました。切ない歌ですよね。その歌詞をじっくり味わいたくなります。大げさに言えば、自分の人生の節目で歌詞と向き合ったとき、違った意味が見えてくるような」。林哲司の明るく、どこか切ないメロディと編曲は私(麻倉)も大好きだ。
優しく軽快に、つぶやくように歌う原田の声が可愛い。最新のレコーディングなのに高域がやや不足しているのが気になるが、感情を過度に投入しない、客観的な叙唱が好ましい。6曲目「年下の男の子」(作詞:千家和也、作曲:穂口雄右、歌唱:キャンディーズ、1975年)。オリジナルのキャンディーズの輪郭を強調したシンコペーションと比べると、良い意味で曖昧で、薄味で、さらっとしているのが、とても素敵。シンコペはしているものの、食い込みの振幅の幅が小さいので、さらっとした叙唱になる。しかし、バックがこの爽やかヴォーカルに対して、エレキ過剰なのがアンバランス。
FLAC:88.2kHz/24bit
UniversalClassics&Jazz、e-onkyomusic
HDImpressionは、藤田恵美「camomile Best Audio」などで優れた音作りが評価されたレコーディング&ミックスエンジニアの阿部哲也氏のプライヴェートレーベル。最新リリースは尺八のブルース・ヒューバナー、ギターの諏訪光風(すわこうふう)のデュオユニット、AeolianDuoファーストアルバムだ。
e-onkyo musicの本音源のページに素敵な文章がある。「2015年4月、インドからギリシャへ向かう豪華客船の船上でエオリアンデュオは誕生しました。『エオリアン』は風に吹かれて音を鳴らす、ギリシャ神話の『風の神』に由来。太平洋、インド洋、紅海、エーゲ海と、海の色も変わり、吹く風も様々。川が森を育み、森が海を守る。海は雨をもたらし、再び大地を潤します。私たちの音楽は、そんな自然からインスピレーションをもらい生まれます」。
1曲目「黒い森」。やさしい音調。ギターが品の良い響きを音場に拡散させ、気持ちのよいソノリティが聴ける。クラシックギターと尺八の合奏はどんなものかと事前には思ったが、実に上手く絡み合い、音色が融合している。撥音楽器と、吹奏の木管楽器との違いがあまりわからないほど、ソノリティの中に見事に溶け込んでいる。西洋と東洋の融和がこれほど濃密なのかと驚く。サウンドは素直で、何の強調感もなく、ごく自然体に生成りの音楽が流れゆく。第5曲「モルダウ」。小川描写から尺八で始まる。モルダウの大河の描写も尺八で。やはり、“さみだれが速い「最上川」”的な雰囲気だ。東京・町田のDutchMamaStudioで192kHz/24bit録音。
WAV:192kHz/24bit、FLAC:192kHz/24bit、DSF:5.6MHz/1bit、5.1chWAV:192kHz/24bit、5.1chFLAC:192kHz/24bit、5.1chDolbyHD:192kHz/24bit
HDImpression、e-onkyomusic
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります