前から音がほしいなら、前にユニットを置けばいいじゃない?
豪快というか強引なコンセプトで、インパクト抜群だったのが「Crosszone CZ-1」。真空管アンプなどの開発で知られるトライオードのブースで見つけた。巨大な、おむすび型ハウジングのインパクトが抜群だ!!
さて、このヘッドフォンのどこがすごいのか? それはアコースティックの技術だけで、頭外定位を実現したという点。と書いてもよくわからないと思うので、説明する。
まずCDなどの音源はスピーカーで再生するのを前提に作られていることが多い。スピーカーは普通リスナーの前方に置かれている。演奏者も普通リスナーの前方にいる。というわけで前から音が鳴って、前方(左右のスピーカーの間)に演奏者が定位するというのは理屈としては合っているわけだ。
それではヘッドフォンはどうか? ヘッドフォンは左右の耳、つまり横から音を鳴らす。ここがスピーカーとの一番の違い。本来、左前のスピーカーと右前のスピーカーで鳴らすはずの音源を真横から鳴らすとどうなるか、その中央=頭の中に演奏者が定位してしまう。これが、人によってヘッドフォン再生が自然ではないと感じる理由だ。
CZ-1の話に戻る。CZ-1の開発者はヘッドフォンでおおわれている小さな空間内でも、音が真横ではなくてちょっと前だったり、場合によっては後ろから聞こえるようにしたら、より立体的で自然な位置に音の像が定位するのではないか、と考えた(ハズ)だ。
そこで音の指向性が強く出る高域用のユニットをおむすび型の前に張り出した部分に置いた。それ以外のユニットは側面に置いているが、スピーカーで聴いた際、右から出た音は完全に右だけで鳴るわけじゃなくて、反響しているうちに左のスピーカーから出た音も右の耳できくことになるじゃんと考え、右側のユニットから左側の音もちょっとだけ出るようにしている……という念の入れようだ。
ただし実はこの手のヘッドフォン再生時の頭内定位の問題は普通、信号処理やDSP処理というもっとシンプルな方法で改善されている。要はスピーカー用に割り当てられた信号をヘッドフォン用にするために計算でデータそのものを補正しましょうというものだ。
しかし敢えて楽な道ではなく、スピーカーの配置と、構造で対抗してしまおうという点は男気がある対応ともいえる。サイズは写真のように大きく、本体も約500gあるが、言われてみればアコースティックならではの自然な感じもしてくる。すごい発想の人がいるものだなと素直に驚く製品だった。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります