ソシャゲ課金マンガプロジェクトの裏側を探る(前編)
「エロゲの太陽」作者がクラウドファンディングでマンガを描く理由
マンガを発表できるさまざまな媒体のメリットとデメリット
クラウドファンディングで最終目標まで達成したはまむら氏だが、この媒体はケースバイケースだと言う。その理由を、他の媒体と比較して聞いてみた。
――マンガ作品を発表する場として現在メジャーなのは、出版社の雑誌です。どうお考えですか?
はまむら:その雑誌になかなか載らないから、僕らはいろいろやってるわけです。確実に載せてもらえる方法があるのなら僕が知りたいですよ。そういう質問は売れっ子にしてください(笑)
――いやいや、そう言わずに
はまむら:これは僕の個人的な考えですが……雑誌媒体はメリットとデメリットのどちらも多いと思います。まず、雑誌にマンガが掲載されると、その時点でプロ漫画家として世間に広く認知されます。さらに掲載されただけで原稿料がもらえます。このメリットはとても大きいです。
――競争率が高いだけあって、いいことばかりですね
はまむら:最もうれしいのは、マンガがヒットすれば単行本がたくさん売れ、多額の印税がもらえます。また、担当編集者がつくので我々漫画家は作品のことだけに集中できます。
――それではデメリットは?
はまむら:人気が出なければ、すぐに打ち切られます。雑誌の数や掲載ページ数には限りがあるため、つねに椅子取りゲームをしている感覚です。まぁ、売れっ子の漫画家さんなら悩まなくていい問題ですが。そもそも売れっ子漫画家は、ヒットを出したから売れっ子なのであって、「悔しかったらヒット作を描いてみろ」というのが出版社の言い分です。これはビジネスとして正しいです。なにも間違っていません。
なので、漫画家が打ち切られないためには、雑誌の方針について編集者のアドバイスを受け、読者のニーズに応え続けていかないといけません。日ごろから「いろいろな人に読まれている」ということを意識し続けなければならない仕事です。お金の面では安定していますが、連載を勝ち取るためにはマンガの魅力だけではいけない気がします。
- 【雑誌のメリットとデメリット】
- (メリット)
- ・収入面が安定している
・ヒットすれば印税がたくさん
・担当編集からアドバイスがもらえる - (デメリット)
- ・人気が出なければ即打ち切り
・雑誌の方針や読者の意向に合わせる必要がある
・媒体数が限られている
――では「電子書籍」のメリットとデメリットは
はまむら:電子書籍には2種類あります。ひとつは、先ほど挙げた出版社が「電子版」として売ってるもの。このほか、個人で自由に出版できる「電子版の自費出版」があります。
――どちらも試していますか?
はまむら:はい。前述の「エロゲの太陽」は小学館からKindle版が販売されています。そして自費出版の方は「真冬の森のユニコーン」というマンガと、僕が書いたラノベ「ネムノユメ: 俺の考えた理想の妹と雪の殺人」を出版しています。
――電子版で自費出版をしてみた感想は?
はまむら:印刷費をかけずに、自分が描きたいマンガを自由に出版できるのがいいですね。僕は脚本家なので、村正の絵を待たずに物語だけを小説として出版できるところもいいです。僕らは実験的に始めてみたのですが、新刊が出ると前の本が売れるんです。
――どのように?
はまむら:「エロゲの太陽」が発売されたら、過去に出版した「真冬の森のユニコーン」が少し売れたんです。みなさんもアマゾンで買い物をするとき、関連商品って気になりませんか?
――「この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています」ですね
はまむら:そうです。ふたつのマンガは、同じ「はまむらとしきり」で描いている作品なので、おそらく興味を持ってくれた方がいっしょにクリックしてくれたんだと思います。知り合いの漫画家さんからも、「新刊を出すたびに過去作が売れる」という話を聞きます。これは電子書籍のメリットですね。
――それがいちばんのメリット?
はまむら:いや、それ以上にありがたいのは、紙の本と違って売れていなくても「絶版にならない」ことです。描いたマンガが、これから先ずっとオンラインショップに並び続けるんです。どれだけ売れてなくても、ほぼ間違いなく消えません。いちどデータ化された書籍は、たとえオンラインストアが潰れたとしても、またどこか違うストアで販売できますから。
――そのメリットは大きいですね
はまむら:紙のマンガが絶版した場合、どうしても読みたい人は古本屋で買うしかありません。ですが、古本屋でマンガが売れても、僕らには印税が入ってきません。読みたいと思ってくださるファンの方はまったく悪くないんです。むしろ、そんな古いマンガを探してくれているのはありがたいことです。悪いのは流通していないこと。その点、いつでも本が買える電子書籍はとてもいいですね。
――では、電子書籍のデメリットは
はまむら:マンガを紙版で欲しいと思っている読者にとっては、魅力的ではないことです。紙じゃないので、我々漫画家もサイン会ができません(笑)。作業面で言うと、今まで他人任せにしていたデザインや編集作業、広告宣伝など、自分でやらなければいけません。あと、自費出版なので担当編集が付きません。いまなにがウケるのか、リサーチしてマンガを描く必要があります。
- 【電子書籍のメリットとデメリット】
- (メリット)
- ・自分の好きなように描ける
・絶版にならない
・いつまでも売れる - (デメリット)
- ・紙版のマンガファンに響かない
・編集やデザインを自分でやらなければならない
・サインを入れられない
――3つめのウェブ媒体については
はまむら:最近はウェブ専門でマンガを掲載するサイトが増えてきました。このようなサイトでマンガを描くと、従来の出版社のように掲載された時点で原稿料をもらえます。ウェブマンガ媒体は有料なり無料なりで読者に読んでいただき、後に単行本を出版して売り上げにする場合が多いようです。
――紙のマンガ雑誌とほとんど同じ?
はまむら:そうですね。紙媒体の雑誌と同じように、マンガを持ち込むことも可能です。担当編集者が付けば作品以外の部分をサポートしてくれるので、漫画家は執筆に専念できます。紙媒体と違うのは、媒体数が多いため意欲的な作品を持ち込みやすいところ。僕らは小学館が運営している「モバMAN(コミック小学館ブックス)」という媒体で描いています。
――ウェブなら無料でマンガを読んでもらえます
はまむら:雑誌とは少し異なりますが「pixiv」などの画像投稿サイトがそうですね。僕らはたまにイラストやマンガを投稿しています。ソーシャル機能が充実しているので拡散されやすいですし、固定ファンがつけば、マニアックな作風でも読んでくれる人が増えます。
――では、ウェブ媒体のデメリットは?
はまむら:紙の媒体に比べて、知名度が低いところでしょうか。認知されにくいです。連載している漫画家は誰かに読んでほしいので、自分で告知する必要があります。紙媒体の宣伝担当者さんの苦労が、少しだけわかった気がしますね(笑)。そして「pixiv」のような無料サイトの場合「描いたマンガをお金に変える(マネタイズ)」のが大変です。グッズを販売できるシステムはありますが、限りなくアマチュア活動に近いと思います。
- 【ウェブ媒体のメリットとデメリット】
- (メリット)
- ・担当編集者がサポートしてくれる
・媒体数が多い
・意欲的な作品を掲載できるかも - (デメリット)
- ・紙媒体よりも認知されにくい
・作家自身が告知する必要がある
・マネタイズがたいへん
――それでは、同人誌はどうでしょうか
はまむら:同人誌は原則としてアマチュア活動ですが、プロの漫画家が「コミティア」で作品を発表することも増えています。過去に雑誌で連載していた作品が単行本にならなかったため、まとめて出版した例もあります。また、オリジナル作品を同人誌として発表することも増えました。こちらも電子書籍と同じく自費出版ですので、編集やデザイン、広告、すべてが自分の責任です。つまり、注目されるには「名前の知られた人」でなければ難しいと思います。
――同人誌は流行っているという印象がありますが
はまむら:一部の有名な人たちの話が、大きくなっているからだと思いますよ。そもそも、同人誌を売るためには事前に印刷しなければいけません。これには多額の印刷代がかかります。そこまでして印刷した同人誌なのに、売れ残ったら在庫が残ります。僕の家にも、売れ残った大量の同人誌がありますよ。今日、何束か持って帰ります?(笑)
――在庫管理も必要なんですね
はまむら:という僕の例もあるので「とらのあな」や「メロンブックス」など、同人誌ショップ経由で通販してもらえるサービスもありますが、ムリをしない程度に出版するのがいいと思います。
- 【同人誌のメリットとデメリット】
- (メリット)
- ・好きな題材を自由に描ける
・単行本にならなかったマンガを出版できる
・同人誌ショップで通販できる - (デメリット)
- ・作者が認知されなければ売れない
・印刷代が高い
・売れ残ったら在庫の山
今回ははまむら氏と村正氏がこれまで出版してきた媒体について、それぞれメリットとデメリットを解説してもらった。次回は、現在彼らがスタートさせた「クラウドファンディング」について、そしてファンディングをスタートしてからわかったことに迫っていく。
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