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未来の生活を変える画像データを軸にしたイノベーション

がん判定をAIが支援!生命科学を画像解析で変革するエルピクセル

開発力を支える「2階建ての経営」

 ここまで見てきたように、エルピクセルが自社開発を進める画像解析技術はライフサイエンス領域を大きく飛躍させる可能性を秘めている。しかし、これにはもちろん開発コストがかかる。この点について島原氏は、「2階建ての経営を意識している」と述べる。受託・共同開発で得た収益を、1段階上の自社開発に充てるという仕組みだ。

 エルピクセルでは現在、コンサルテーションやソフトウェア開発などの受託・共同開発が社内リソースの半数を占めており、売上全体の8割を支えている。画像解析技術の分野ではほかに競合がおらず、受託開発等を高収益で請け負うことができるため、自社開発とのバランスをとって経営ができるのだという。「ここまでの2年間、人材や売上の規模は当初に立てた計画の通りになっている」という島原氏の言葉が示すように、メガバンクや日本政策金融公庫からの融資を数千万単位で受けてはいるが、直近の調達は必要ないまでに受託・共同開発分野で利益を生み出すことができている。

 また、エルピクセルが東大発スタートアップであり、さまざまな業務支援を受けられるという点も見逃せない。東京大学内のアントレプレナープラザにオフィスを構えるエルピクセルでは現在8名のインターン生を受け入れているが、半分以上が東大生。それぞれの専門領域で尖った人材を確保することで、チームとして補い合って前進する体制が整う。また、大企業とのマッチングや、東大が学内発ベンチャー企業のために一括契約している弁護士事務所からのサポートもあり、開発に集中できる環境も追い風となる。

医療の革新は自動運転と似ている

 エルピクセルは創立2年のスタートアップだが、実際その蓄積では島原氏の起業以前からの積み重ねが大きい。画像解析での研究支援、がん診断の支援にせよ、将来の起業を見越した助走期間に、技術や実業のスキルを磨いただけなく、アカデミアや医療現場とのパイプをしっかりと築いた結果だろう。

 本記事では目下進めている医療でのアプローチを中心に扱ったが、すでに実施している論文での画像不正解析スキームでのビジネスも、文字での不正解析ソフトの実績から数百億円規模での世界市場が見えている。増大する画像に対する人材不足を逆手にとったアプローチは、世界でも有数のスピードで達成されているようだ。

 今後、エルピクセルでは2020年を目処にがん診断支援ソフトウェアの実用化を目指す考えだが、もちろんクリアしなければならない課題もある。1つは薬事法の壁だ。「がん診断支援ソフトウェアのように、画像を出してこれは肺がんで、ここが危なくて、治療法の選択肢とそれぞれの期待生存はこれだとサジェスチョンまでするレベルのものは世界にも前例がない。画像だけでなくその周辺情報も扱うこともあり、実用化までには時間がかかるだろうと見ている」と島原氏。

 また、がん診断支援ソフトウェアがリリースされたとしても、それがすぐ医療業界に受け入れられるか。この点について島原氏は、「そこは自動運転と似ていると思っている。5年前はまったくリアリティがなかった自動運転が、今は広がりを見せている。そうしたことが医療の診断でも起きてくると思っているので、ゆっくりだとは思うが確実に受け入れられる日がくると考えている」と語る。

 医療、製薬、農業。ライフサイエンス領域は文字通り人の「生」に直結する。エルピクセルが持つ独自の画像解析技術が、わたしたちの未来の生活を変えていく。

●エルピクセル株式会社
2014年3月設立。研究者向け画像解析ソフトウェア・システム開発をはじめ、教育メディア運営など事業を展開。
メガバンクや日本政策金融公庫からの融資、エンジェル投資と自己資本が中心で、直近での調達予定はない。
社員数は2016年4月現在で10名。

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