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PONANZAの完勝を目撃! 電王戦第1局は85手でコンピュータが山崎叡王に勝利

2016年04月11日 17時00分更新

2日目も軌道修正できずPONANZAに押されて投了

 2日目は、前日より肌寒い日となった。対局開始前、渡辺竜王が姿を現わし、「コンピューターはPONANZAがいいと言っているけど、そこまでいいのか疑問。山崎叡王もまだやれる印象」と話していた。

渡辺竜王が対局開始前にニコ生に登場。外で話をしていた。

 対局開始前にまず前日の指し手をお互い指し進め、封じ手を開封する。大方の予想通り△3一角打だった。これに対し、PONANZAはしばらくして▲5四銀打。山崎叡王は受けずに△2九飛成とした。前日の終盤同様、激しい戦いが続いている。

封じ手を開封し、実際に指す山崎叡王。このあと、山本氏も確認している。

 2日制になったことで、封じ手後じっくり今後の展開が読めるのと、リフレッシュして再度戦いに臨めるという点で、人間にとってはいいことかもしれない。午前中の展開は、山崎叡王よりPONANZAのほうが持ち時間を使っている。

 11時17分に指した48手目△4六桂は渡辺竜王いわく勝負手。終局後に山崎叡王も2度ほど勝負手を繰り出していることを話していた。▲同歩に△1四角打。山崎叡王は、あまり時間をかけずに指し進めているところを見ると、読み通りの展開なのだろう。ただ、51手目▲2五歩打に△同龍としたところでは、プロ棋士側は納得していたが、検討していたコンピューターソフトが4つとも△同角と読んでおり、人間の感覚との差を感じた。

 検討室にいた阿部五段は、山崎叡王の勝ち筋が見えないと嘆いていたが、昼食休憩までPONANZAが+800ぐらいまで評価値の差を広げていた。

この日の昼食は山崎叡王と山本氏が自然薯そば(温)、下山氏が前沢牛丼だった。

 午後より岩手県の平泉文化遺産センターで大盤解説を開始。150人ぶんの座席が埋まったらしい。地方でも電王戦の情報を知って訪れる人がこんなにいるなんてちょっと驚きだ。大盤解説は野月七段と貞升女流初段が行なっていたが、ここで貞升女流初段が読み上げの音声を担当したと暴露(?)。NTTが開発した、音声合成システムを使い、事前に文章を40ほど録音したそうで、ロボットという設定だったので、感情を入れずに読んでいたそうだ。NTTは1週間で作ったという。

 実は前日の読み上げのときは、そんなことにまったく気が付かなかった筆者なのだが、今朝の前日の指し手を再現しているときの読み上げが、音声合成ではないかと感じていたのだ。立て続けに聞かなければ、あまり気が付かないレベルだった。

 午後に入り、開始すぐに△2六歩打と指した。この手に屋敷九段は「予想していない手。勝負手という感じがします」と話したが、コンピューターの読みも違ったようで、PONANZAは△5四飛打と強い手に出てきて、評価値は+1300を超えてしまった。山崎叡王はここで1時間以上長考し、残り時間は約1時間半。PONANZAは4時間10分で山崎叡王が明らかに劣勢になってきた。

 この後、なんとかしのごうと山崎叡王はがんばるが、評価値はどんどん下がる一方。15時半の時点でPONANZAの評価値は+2000を超えてしまう。これまで電王戦を見てきた読者なら、この数字はもうとんでもないことがない限り覆すことは難しいことを知っているはずだ。

 16時前には、▲5三桂の王手に対し、△3一玉、▲4一飛打、△2二玉。▲4一飛打、△2二玉、▲2三歩打と進んだところで、山崎叡王はガクッとうなだれてしまった。評価値もPONANZAの+2800を超え、いつ投了してもおかしくない状態に。ここで森内九段が「水を飲むとヤバイですね」と自分が投了するときの行動と重ねあわせて会場(森内九段はニコファーレにて大盤解説していた)を笑わせていた。

がっくりとうなだれた山崎叡王。

 最後はどちらも読みきった感じで進んでいき、16時31分、85手までで山崎叡王が投了。残り時間はPONANZAが2時間53分、山崎叡王が51分だった。タイムシフトで視聴する場合は7:01:00あたりが投了のときだ。終局後に今回観戦記を書く先崎九段が、ずっと感想戦のように話し込んでいたのが印象的で、山本氏は今回はあっさりした感想のみ答えていた。

終局後の山本氏の様子。

終局後の山崎叡王の様子。

記者会見の模様

記者会見に望む5人。

PONANZA開発者・山本氏「勝ててうれしいです」

PONANZA開発者・下山氏「今回のPONANZAは序盤が怪しいという噂を聞いていたのですが、本局は結構無難に指してくれたのかなと思います」

山崎叡王「途中選択で苦しくしてしまい、その後チャンスが得られなかったということで、まったく何を言われても仕方がない完敗だったと思います」

立会人・佐藤七段「今回山崎叡王としても2日制の対局は初めてということで、いろいろ勝手もわからないで不安もあったと思います。それでもしっかり準備をされたと思います。内容的には山崎叡王が言ったとおり、不満があったろうと思いますが、これを修正して次に臨んでいってもらえるものと思います」

日本将棋連盟・青野理事「コンピューターとプロ棋士との対決は数年前から始まっていまして、この何年かの状況を見ていても、なかなかプロ棋士が勝つのが容易ではないレベルに来ていると、プロ棋士仲間でも理解していて、今回もどうなるかなと注目していました。本局は残念ながら山崎叡王は、ちょっとあまりいいところがなかった将棋になってしまいました。ただ、我々はコンピューターとの対決を元にして、人間がもつ大局観、想像力というものが、いかに素晴らしいものであるか。それを洗練しながら将棋を広めていきたいという思いがあります。そういう意味では、本局はおそらく持ち時間の関係もあったかと思いますが、プロ棋士の持つ想像力というかたちになりませんでした。しかし、2局目には勝敗を度外視して、プロ棋士の素晴らしさを見せてほしいと思っています。PONANZAともども健闘してもらい、第2局を注目してもらいたいと思います」

――山崎叡王が途中選択で苦しくなったという部分を具体的にお願いします。

山崎叡王「開始の戦型として、少し選びたくなかった戦型になってしまい、経験が生きないカタチというか、PONANZAの何をやってくるかわからない怖さというのがあり、持ち時間をたくさん使って戦い進めてしまいました。1日目の封じ手の少し前まではいけていたんですが、封じ手のあたりで飛車を打つか戦いを収めるかどちらがいいか迷ってしまいました。本局は戦いを選んでしまい、その大局観に判断ミスが出てしまって、大局観が生かせませんでした。第一感自体は正解の方を思っていたのですが、迷っているうちに強い手で戦わなければ、という考えになってしまった。PONANZAがスゴイ強いソフトだと認識していたので、弱気ではダメだという思いが、戦いの方を選んでしまったと思います。そこは冷静にならなければなりませんでした。自分の大局観を信じることができなかったのが、いちばんの敗因につながってしまったのではないかと思います。その後、勝負手を放ったんですが、そこは的確に咎められてしまいました」

――2日目の55手目▲3八銀が非常に評判がよかったのですが、どう感じていたのでしょうか?

山崎叡王「私も3八銀でとてもしびれたと思いました。少し苦戦を感じていたので、封じ手のところから、難しい戦いで、どう勝負手を放つかというところで、無難に王手を掛けたりせず収める指し方もあるのですが、それだと勝機が低いとみて、本局は人間で言う文をつけたというか、嫌味をつけたというところで、普段通りの勝負手を放ったのですが、3八銀は冷静な手で、玉のラインを気にせず少し落ち着いた手で、正直あの手で勝負手の失敗を悟って封じ手から考えていた勝負手が完全に不発に終わったというところで、読みが足りなかった」

――そのあと2六歩と垂らされた手が、ソフト的にはあまりよろしくなかったようですが。

山崎叡王「3八銀で勝負手が失敗したと思って、予定していた手順はすごく長くなるんですが、長く戦い続けるということも大事な要素だと思い耐え忍ぼうかと思いました。ただ、勝つチャンスはあるのかということを昼食休憩中に思って、とても苦しいんですが、当初の予定の手順で粘りが利く形になると思い、これで勝負しようと思った手です。当然勝負手ですが、的確に咎められてしまいました。できるかと思った変化が、ピッタリ一手負になるということがわかっていたので。5五竜など長引かせる手でまた同じになってもあれなので、勝つための勝負手を放ちました。今回の結果から、相手が咎めてくるということを肝に銘じて、じっくり最善手を模索していき、できるだけ長い熱戦をしていかなければいけないと思います」

――2日制は初めてだと思いますが、特に問題はなかったのでしょうか?

山本氏「封じ手のとき、夜の間思考を止めたり、封じ手の再開に関しては、実はPONANZA自体はいじっていなくて、PONANZAを動かすための管理システムを、ニコニコの運営の方とデンソーが一所懸命作ってくれて、安心して動かすことができました。夜の間PONANZAは動かず寝ていたんですね。昼食休憩のときは一所懸命考えていました。人間を意識した感じなのでしょうか。あと、電王手さんが動いている間も思考が停止しています」

 今回も、PONANZAは手堅く、そしてミスもなく指し進んで人間のミスを待っていた。ほかの将棋ソフトとはあきらかに一歩抜きん出ているように思う。プロ棋士が思いつかない手をいくつか放ったが、人間でいう大局観が違うのだろう。これまでは人間の手を覚えて強くなってきたが、今後は、コンピューターが指す新たな手を、人間が覚えて強くなっていく番なのかもしれない。コンピューター将棋ソフトで対局ばかりした世代が出てきたら、もしかしたらコンピューターに似た大局観をもった棋士になるやもしれない。

 さて、第2局は5月21日より滋賀県比叡山延暦寺に場所を移して行なわれます。今回は山崎叡王のスゴさが封じ込まれてしまったが、次局での巻き返しに期待したいところ。

 最後に、電王戦の舞台裏と中尊寺で気になったことを紹介しよう。

ニコ生中継用のスタッフルーム。ケーブルが廊下を何本も走っていた。

現地中継の部屋は、本堂の隣の建物で行なわれていた。

発電機は1機のみ。電王トーナメントのときは2機使っていた。

中尊寺は外でも使えるWiFiが用意されていた。さすが世界遺産。

下りのスピードはSpeedtest.netで20Mbpsオーバーが出ていた。

結構な標高があるため、昼食のためにふもとまでは降りたくないレベル。写真は見晴台より。

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