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5Gのフェイズ2テストベッドを披露したEricssonに聞く5Gのメリット

2016年03月21日 17時00分更新

 2020年に商用化が見込まれる5G、まだ4年先とはいえ業界は着実に作業を進めている。「Mobile World Congress 2016」では、Ericsson、Nokiaなどが実際に電波を飛ばした実験を披露した。このうちEricssonは2015年に続いて2回目で業界最大手の技術力を見せた。

 MWCで、同社でEricsson Researchトップを務めるバイスプレジデントのSara Mazur氏に5Gの標準化の動向、消費者と通信事業者に与えるメリットを中心に話を聞いた。

Ericsson Researchトップ兼バイスプレジデントを務めるSara Mazur氏

――5Gの標準化はどのように進んでいる?

Mazur氏(以下、同) 既存の周波数帯はLTEでの進化となり、新しい周波数帯では我々が「NX」と呼ぶ新しい技術が加わる……これが5Gだ。

 前者の4Gの進化という点では、3GPPが毎年リリースする仕様で作業が進んでいる。現在はRelease 14となり、その後、2020年に向けてRelease 15、Release 16と進む。

 後者のNXでは標準化がスタートしたところだ。現在、最初の段階となるスタディ・アイテム(Study Item)が3GPPでスタートしたところで、その次の段階となるワーク・アイテム(Work Item)が2017年にスタートすると見込んでいる。この結果、Release 15ではNXのフェイズ1が、Release 16でフェイズ2が入ると予想している。

 このように標準化作業は予定通りに進んでいる。ITUが5G仕様を承認するまでにNXの仕様の準備が整うだろう。その前にトライアルシステムを動かす。

5Gの標準化ロードマップ

5Gの無線アクセス技術は、既存の周波数帯をベースとする4Gの進化と、新しい周波数帯向けのNXで構成される

――日本では2020年のオリンピックに合わせて商用化とみられる。世界の動向は?

 韓国は2018年の冬季オリンピックに向けてプリスタンダードのトライアルシステムを実装すると予想される。Ericssonは韓国でも、他のベンダーとともにテストなどで協業している。

 日本ではNTTドコモと5Gのテストベッドで協業している。NTTドコモとは4Gでも共同でテストするなど良好な関係にある。今回のMWCではNTTドコモと行なっているフェイズ2のテストベッドを披露している。NTTドコモのほか、KDDI、ソフトバンクともテストベッドで基本合意を結んでいる。

 この2地域のほか、米国、スウェーデンなどでも実験が進んでおり、米国ではVerizonとテストベッドを構築している。これらのオペレーターを入れると、5Gに関連した合意を結んだオペレーターは世界で20社に達している。

 実際の商用サービスとしては、早期にトライアルを進めているところが商用サービス開始でも先駆けるだろう。

――NTTドコモと進めている5Gテストベッドの経過をどう見ている?

 2014年夏に初めてテストベッドを披露したが、当時の速度は下り最大5Gbps程度。それから継続的に進化させており、今年のMWCでデモしているフェイズ2では、25〜27Gbpsが出ている。論理的には30Gbpsが可能なので、2014年1年半で速度は6倍になった計算だ。

 フェイズ2ではマルチユーザーMIMO、電力効率化につながるビームフォーミング、ビームトラッキングなどの技術が加わった。ターミナルは1台は移動、1台は固定と2台を用意し、狭い帯域幅を利用している。固定はもちろん、移動中の端末に対しても、ビームトラッキングしている。

MWCでは2台の端末が使われ、合計の速度は27Gbps程度まで達したという

筆者が見ていた場面では2台の合計のスループットは22.9Gbps出ていた

5Gのテストベッドは現在フェイズ2。現在の端末は小型冷蔵庫のようなサイズだが、次のフェイズ3では端末ベンダーに協力してもらい、より実用化に近いものになるという

――5Gでは人だけでなく、モノも利用するネットワークを想定しており、セキュリティーの懸念もある。業界からはセキュリティーに関連してどのような要件がでているのか?

 5Gは最初から業界の要件を満たす通信技術としてスタートしており、要件を定義しているときからセキュリティー面を重視してきた。Ericssonは3GPP側での標準化作業でセキュリティーの取り組みを進めているほか、EUの「Horizon 2020」のセキュリティープロジェクトにも参加している。

 Ericssonが積極的に取り組んでいる技術分野としては、仮想化向けのセキュリティーがある。コアネットワークが完全に仮想化され、(異なるニーズにあわせてネットワークをスライスする)ネットワークスライシングを行うには仮想化の安全性が重要になる。

 このほか、プライバシー、IoTのためのID管理でも積極的に協業を進めている。

 5Gに関するホワイトペーパーをEricssonのWebサイトで公開しているが、5G関連でよく閲覧されているホワイトペーパーの1つだ。関心は非常に高い。

――5Gでは他業界とのコラボレーションが進んでいるが、どのような要件がでているのか? 各業界からでてくる異なる要件をどうやって盛り込んでいくのか?

 要件は確かに異なるが、課題は似ている。マシン通信では、多数のセンサーを接続する”マッシブタイプ”と”クリティカルタイプ”の2つをみている。

 マッシブタイプはスマートメーターのような形態で、セルあたりの接続を100倍以上にするべく作業を進めている。ここではまたカバレージが重要になり、低消費電力、コスト効果の高いソリューションが求められる。キーワードはボリューム、コスト、カバレージ、消費電力の効率性で、5Gでは消費電力は10倍の改善を見込む。

 クリティカルタイプは産業ロボット、自動運転など。要件の中心は低遅延。5Gでは4Gと比べて5倍の遅延縮小を目指している。現在の遅延は10msだが、これを1msまでもっていく。だが低遅延だけで不十分だ。信頼性とアクセスも大切。キーワードはネットワークのアベイラビリティーが重要だ。つまり低遅延、信頼性、アクセス性だ。

 これらすべてが5Gに入る。4Gの進化とNXで無線部分を進化させるだけでなく、トランスポートネットワーク、クラウドインフラ、ネットワーク機能の仮想化(NFV)、管理やオーケストレーション、セキュリティ、持続性もすべて5Gの仕様に入っていく。

――5Gは通信事業者に何をもたらす?

 5Gはすばらしいモバイルブロードバンド技術で、これまでのように人(ユーザー)に素晴らしいネットワークサービスを提供できる。

 だがそれだけではない。モノでも可能性が開ける。自動車、工場などで、IoTといわれる分野だ。IoTは現在、各産業が独自のソリューションを構築しようとしており、市場が分断化されている。このような分断化は、グローバルに展開する企業には課題となっている。

 スケールとコスト効果を得るには、グローバルなIoTのためのネットワークが必要だ。5Gなら、グローバルな技術を利用して多数のマシンの接続が可能だ。チップセットとアプリケーションの両方で標準化された技術を使って、IoTを展開できる。

――SigFoxなどがIoT専用のネットワークを構築しているが、通信事業者はどのようにビジネスモデルを変革して5Gの投資を回収できるのか?

 IoTは大きなビジネスチャンスだ。Ericssonは通信事業者のビジネストランスフォーメーションを支援するBSS/OSSなどの技術を備えている。

――エンドユーザーはどのようなメリットを得られる? 4Gで十分なスピードを得ているが、ユーザーからみて5Gが必要と思うような説得力はあるのか?

 モバイルブロードバンドシステムがさらに強化される。4Gはほとんどの利用で十分かもしれないが、5Gではもっとパーソナライズされた高品質のメディアが可能になる。5Gのパワーを活用した新しいサービスが登場するだろう。たとえばサッカースタジアムに複数のカメラを設置し、ユーザーは自分が見たいカメラを選択してそれを見ることができるし、4つのビューを同時に見るなどのことも可能になる。メディアは大きく変わるだろう。

 また、家庭にブロードバンドがない場合も、5Gはすばらしい通信手段になるだろう。

――VRはどうか? FacebookのMark Zuckerberg氏はMWCでVRのために5Gに期待していると述べていた。

 もちろんだ。特にAR(拡張現実)は大きく進化するだろう。

――競合のファーウェイは”4.5G”をプッシュしている。

 Ericssonは、(4.5Gと区別するのではなく)4Gの進化が5Gの一部になっていくと考えている。4Gは3GPPにより2020年、そしてその後も進化する。我々はこれを顧客に届ける。

 このように、Ericssonは4G側でも強化を続けていくし、それが5Gに入っていく。(IoTのための通信技術である)Cat.MやNB-IoTなどが入ってきて、最終的に5Gの要件を満たすべく継続して進化させていく。

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