週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

「お菓子屋さんのスタートアップ」が受け継ぐ老舗洋菓子屋のDNA

爆売れチーズタルトはなぜ美味いのか アップデートし続けるBAKEの秘密

2016年03月18日 07時00分更新

海外でも負けないBAKEの競争力

 躍進を続けるBAKEは、すでに香港、タイ、韓国と海外に3つの店舗を構えている。来期はさらに海外比率を増やし、国内外合わせて90店舗中33店舗を海外に出店する予定だ。強気の海外進出の裏には十分な勝算が見え隠れする。

 例えば、「北海道直送」というブランド力。インバウンド需要で外国人観光客が増えた北海道は、アジア諸国でちょっとしたブームになっている。その北海道でつくった半製品を冷凍で配送し店舗で焼くため、海外で販売したとしても日本国内で作ったチーズタルトのクオリティに味は劣らない。

 海外での勝算を裏付けるのが香港店での実績だ。香港ではたった1店舗、5坪の小さな店内で、1日6千個のチーズタルトを販売。年商7億円を稼ぎだす。

 SNSなどが火付け役になって、瞬く間に爆発的人気となり、人々が連日列をなすようになった。ギャレットポップコーンのような海外の有名スイーツ店が日本に上陸したときのような現象を、BAKEが香港で再現している。香港ではすでに5ブランドほどの類似店がBAKEを追随しているが、現地のメディアも「本家のBAKEがNo.1」と太鼓判を押す。その要因として、長沼氏は中華圏の乳製品と日本の乳製品など原材料の明確な違いを挙げる。北海道というブランドと原材料の違い。これが海外で勝てる理由だという。

香港出店でも熱狂的に受け入れられている

 日本のスイーツ大国である北海道には、六花亭や石屋製菓など五大メーカーと呼ばれる洋菓子屋がのれんを掲げているが、どの企業も国内市場にとどまり、海外を志向する企業は多くはない。その理由について長沼氏は、「北海道のお菓子メーカーの商品は、あくまで『おみやげ』。東京で販売した瞬間に北海道で購入する意味がなくなってしまう。北海道にとどまり、道内で新商品を販売するという戦略に終始してしまう」と話す。BAKEはその殻を破っただけでなく、前述したとおりクリエイティブな人材を豊富に採用したことで、スピード感を持った海外展開を可能にした。

 とはいえ、ベースはやはり北海道にある。お菓子メーカーとして、通常のIT系スタートアップが行うものとは異なる投資も行っている。

 今秋には土地・建物合わせて十数億円の設備投資を行い、北海道に自社工場を設立する予定だ。スタートアップといえばベンチャーキャピタルからの資金調達が一般的だが、BAKEは銀行借り入れによる自己資金がメインとなっている。世界に向けてBAKEのお菓子を発信するベースとして、道内の雇用活性化にもつながるため、地元銀行の支援も厚いという。

「お菓子づくりの川上側へ」
お菓子の価値向上のためにできること

 BAKEの将来的な目標は、日本を代表するメーカーに並ぶ売上1000億円だ。次の一手として「お菓子づくりの川上側を担う」という目標を掲げる。

 現在、BAKEではシュークリームに使用する牛乳を契約農家から直接仕入れている。朝採れたものを、その日のうちに店舗へ直送するという大変フレッシュな牛乳だ。いずれはそうした契約農家と一緒に”シュークリームに適した牛乳”を開発したり、その牛乳を使って乳製品の加工まで自分たちが関わって、よりお菓子に合うものをつくりたいという。

 BAKEはおいしいお菓子をつくるための3つのルールを「きのとや」から引き継いでいる。1つ目はフレッシュであること。2つ目はプロセスを省かず手間をかける。そして3つ目は原材料。このうち、3つ目の原材料については、できることがまだまだあると長沼氏は語る。

 森永がキャラメルを始点として総合乳業メーカーにまで成長をとげたように、BAKEも次世代メーカーとして、インターネットやラボ、数字での分析を活用して総合的な展開を目指す。そのためには「まずは販売量を増やしバイイングパワーをつけることが重要で、それがないと何も進まない。まずはアジアでの店舗数を増やして知名度を上げていく」と長沼氏は強く主張した。

「お菓子の価値」はまだまだ上がる

 取材を通して見えたBAKEの特徴は、なんといってもハイクオリティな北海道の老舗菓子店をベースにした、品質も含めたブランディング伸長のうまさにある。TVなどのメディアだけではない、SNSも含めた横断的なウェブマーケティング展開に加え、現地の開拓、ラボでの研究開発と、まさにお菓子作りの川上から川下までを広く押さえるために動き出している。

 そのため、事業の拡張性もかなり高いが、ソーシャルゲーム企業のような「お菓子のポートフォリオ」として見ればかなり面白い。長沼代表はそれぞれの部門に責任者を設けて、さらに新たな新規事業も含めて展開を進めているという。

 今後の展望について長沼氏は、BAKE創業期での苦い経験を反映させた生ケーキを崩さず配送できる物流プラットフォームづくりや、お菓子業界に特化した人材紹介サービスなど、「お菓子の価値」が少しでも上がるのであれば、その領域でなんでもやってやろうという気概をみせる。

 老舗洋菓子屋のDNAを受け継ぐ次世代のお菓子屋さんのスタートアップが、「日本のお菓子業界のこれから」を牽引していく。

●株式会社BAKE
2013年4月に裏原宿にて創業。デコレーションケーキのEC『クリックオンケーキ』、オリジナル写真ケーキが届けられる『PICTCAKE』の展開後、焼きたてチーズタルト専門店など実店舗での展開を開始し、国内外で大ヒットとなる。
VCなどからの資金調達はせず、自己資本と銀行からの借り入れが現在は主。
社員数は2016年3月時点でアルバイトなどのスタッフ総勢で300名、正社員は50名。

■関連サイト
株式会社BAKE

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事