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重く熱いアダプターに別れを スマート給電デバイスZoltはなぜ世界を変えるのか

2015年12月25日 07時00分更新

目指す先はデータセンター、自動車、そしてスマートホーム

 ZoltはAvogyによる自社開発製品。年々新たな特許を獲得している状態で、給電技術からデザインまでインタビュー時点で計64個となっていた。

 ただ、Avogyとしてはあくまで、一番作りやすかったから充電器を手がけたに過ぎないらしい。まずは100Wのレベルで熱のロス率を13%を7%に下げる効率化を進めているが、真の狙いはモバイルデバイス市場だけではない。

 「ほんの少しの効率の良さに思うかもしれないが、6%違うだけで、仮にACアダプターが日本だけでこの瞬間に約5000万台接続されているとすれば、それは発電所1基ぶんの電力消費量の差と同様となる。全世界でいえば、1基どころではない。もしもの話だが、世界中での給電すべてに適用されれば新たに電力発電所を作らなくても済んでしまう」(ラマナタンCEO)

 そもそも同社の起源は、青色LEDでおなじみの中村修二教授が共同創立者として名を連ねるLEDベンチャーのSoraaにある。窒化ガリウムLEDをつくっていた同社に、同じ素材でトランジスタを作れないかと話が持ちあがり、Avogyができたという。開発が始まったのは2010年12月で、現在のCTOがもともとは創業者だった。

 「目指す先にはデータセンター、自動車、家電がある。これまで熱に変わっていた部分を効率的にエネルギー変換が可能なので、その影響は計り知れない。また、重さの部分でも太陽光発電のコンバーターの軽量化では約40キログラムあったものを12.5キログラムと7割ほど軽くできてしまう」

 Avogyには米サン・マイクロシステムズ社の共同設立者の一人ビノッド・コースラによるKhosla Ventures(コースラベンチャーズ)のほか、米Intelも大口の出資を行っている。Intelが期待しているのはデータセンターでの節電で、Avogyの技術を導入できれば全世界レベルで7%の節電となり、効果は一気に大きくなる。

搭載されている同社の半導体のサイズを一円玉と比較したところ。トランジスタは、それぞれの小さい1個1個の四角。熱などから守るため、プラスチックのカバーで覆われている。チップの発熱は130~140度ほどで、従来ACアダプターに使われていたものより20度ほど熱量を抑えている。

 また、企業向けのみならず、スマートな給電管理のハブとなる「Zolt home」の提供も予定している。

 家庭内の電源ポートに、従来のコンセントに加えて100Wまでの給電が可能なUSB Power Delivery(USB PD)規格のものを加え、家庭内の電力浪費を自動で調整してくれるハブとするのが狙いだ。当然スマホからリモートでコントロールでき、需要に応じて賢く給電するシステムを想定している。

 クルマや家での充電には、1キロワット近いエネルギーが必要なため、そこでの効率化はかなり重要になってくるようだ。2016年に開催される米国家電見本市・CESでは、USBタイプC対応のデモを行う予定だ。

テクノロジーをいかに伝え、広められるか

 20数年間大きくは変わらなかったACアダプターにも、数年前から代替されるのではという話があったが、発売されたばかりのSurface Pro 4でもまだまだ健在だ。ただ、今回のように製品化レベルでアダプター代替の仕様が実現済みとなると、変わってくることにも現実味が加わってくる。また、OEMレベルで話が進んでおり、さらにはそれがデータセンター、スマートホームまでとなると、いよいよ話が大きい。

 源流にはノーベル賞を獲得した中村教授の技術もあり、それが日本ではなく米国で結実しているところ、資本・スピードの面での流れの違いを意識させられた。「世界を変える」という部分で、米国のスタートアップは本気だ。

 もちろん苦労もないわけではない。印象的だったのは、「見かけよりもずっとハイテク。その実力が伝わらないところに苦労している」というマーケティング担当者の談。

 2015年のCESで発表されたあと、本来ならば7月発売予定だったらしいが、結局10月の発売と遅れてしまったが、これは「各国での技術承認が難しかったため」らしい。Surface第3世代以降への対応はCES以降で、もう少し先となるようだ。

 少し先の未来を見ているこのデバイスは、本当に世界に広がっていくのか。アスキーストアでも販売の相談をしているので、来春の発売を待ってほしい。

●Avogy, INC.(アヴォジー)
2010年創立。米国カリフォルニア州サンノゼの半導体スタートアップ。
米サン・マイクロシステムズ社の設立者の一人であるビノッド・コースラによるKhosla VenturesとIntelが出資。5800万ドル(約70億円)を調達済み。
日本での調達も予定しており、現在交渉中とのこと。
社員数は、2015年12月時点で53名。日本では照井公基ビジネス事務所がAvogyの全般的なビジネスをサポートしている。

■関連サイト
Zolt
Avogy

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