開発目標は「スマホでもリッチコンテンツを楽しめる」こと
――今回優れたアプリを表彰する「Best of 2015」を受賞した「MOBIUS FINAL FANTASY」についてお尋ねします。この作品が評価され、ヒットした要因はどこだと考えていますか?
浜口 MOBIUS FINAL FANTASYの開発は2013年にスタートしました。このころのiPhoneなどのスマホアプリは、2Dのカードやアイコンを利用したパズルゲームなどが市場を独占していました。現在もその傾向は続いていますが。その市場にMOBIUS FINAL FANTASYというリッチなコンテンツを提供することに対しては、社内や開発チームからも懐疑的な声が上がったのも事実です。
このころ映画「アナと雪の女王」(アナ雪)がブレイクしていましたね。私の娘も大好きで、よく見て歌を歌っていました。アナ雪のように物語をちゃんと伝えて、キャラクターをていねいに表現すれば、ユーザーはそのキャラクターに感情移入しやすくなるし、そのキャラクター自体を好きになったりします。しかし、そのためにはある程度リッチな映像じゃないとドキッとするような表情を作るのは難しいですよね。
実はMOBIUS FINAL FANTASYをプレイしてくださったユーザーさんのツイートで、「スマホゲームで初めて泣きました」などの書き込みがあったりもしました。綺麗な映像だからこそ、ユーザーに伝えられるものがあるのもまた事実。ですから、提供する媒体がスマホに変わったとしても、リッチなコンテンツを求めるユーザーが絶対にいることは確信していましたが、もちろんていねいにつくらないとダメだし、iPhoneなどスマホで気軽にプレイできる手軽さがなくなってもいけません。
iPhoneなどスマホの手軽さというプラットフォームの特徴を生かすのは大前提で、その中でリッチでユーザーに納得していただけるラインをキチンと守っていけば、ユーザーが楽しんでもらえるものを提供できると思っていました。無数のタイトルがある市場のなかで、スクウェア・エニックスしかつくれない作品、これが弊社ならではの差別化ポイントです。MOBIUS FINAL FANTASYはファイナルファンタジーのナンバリングタイトルをつくってきた開発者が手がけています。ナンバリングタイトルをそのままつくれるだけの経験がある開発技術スタッフが“本気で”つくったタイトルです。
スマホアプリはCPU処理を使い切ってはいけない
――2013年時点では、スマホにはリッチなコンテンツを実行できる処理性能があったという認識でしょうか。
浜口 iPhoneがリッチな映像を処理できるという確信はありました。「iPhone 5s」が登場した時期で、まだ「iPhone 6」シリーズは未発売でした。この時点も処理能力は携帯ゲーム機と同等までいっていたと思います。映像としては出せるかと言えば出せる。ただし、ゲーム機はゲームにすべての処理のリソースを割くことができますが、スマホは他のアプリも裏で動くし、電話もかかってきます。どれだけゲームにメモリーを使えるかをまず最初に調べましたね。
2Dやアイコンのパズル・アクションゲームなどは、起動時にさまざまなデータを一気にメモリーに読み込んでゲームが成り立つと思いますが、MOBIUS FINAL FANTASYのようにリリッチなリソースを消費する作品はBG(マップの背景データ)が1面30~40MBというレベルです。快適にプレイするためには、大容量データを裏で処理してその都度読み込まないといけません。そこで、まず市場にあるあらゆるiPhoneシリーズを集めて、1マップのクオリティーと容量をキッチリと決めました。決めておかないと後々動かない機種が多発してしまいます。
――品質の基準となったのはどのiPhoneだったのでしょうか。端末の世代によってユーザー・エクスペリエンスが変わるようなことがあるのでしょうか。
浜口 市場シェア率を考えると、iPhone 5と5sは必須でしたね。4sのシェア率も少なくはなかったので動作するよう設計しました。iPhoneも世代ごとに仕様が異なるので、MOBIUS FINAL FANTASYは端末ごとに細かく個別のセットアップを用意しています。解像度やポストエフェクトの種類などを少しずつ変えているんです。開発時の誤算としては、先述したとおりコンソールはゲームにすべてのリソースを割くことができます。例えばCPU処理が10%余っていたら、ほかの処理にそのぶんを割り振って設計するんですね。コンソール機時代はこういう考え方で開発していたのですが、スマホはつねに持ち歩く情報端末なので、ゲームだけで処理を使い切ってバッテリーの消費が増えるのはまずいんです。「使い切ってはダメなんだ」と学びましたね(笑)。
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