「植物は動物のようにしゃべることはできないが、センサーを通して植物の声は聴ける」
スマートフォンの登場でパーツなどが安価になり、さまざまなハードウェアガジェットが生まれやすくなっているのと同様に、農業にも手軽なセンシングによる”育て方の進化”が起こっている。
「日本のワイン産業は注目を集めているが、もっといいワインを造るためにさらなる原料品質の向上が必要」だと語るのは、Kisvin Sience(キスヴィンサイエンス)でCOO/CTOを務める西岡一洋氏。11月27日に開催された「集まれ!IoT/ハードウェアスタートアップ by SORACOM」でのライトニングトークで、ワイン作りに役立つIoT技術の研究開発について説明してくれた。
Kisvin Sienceは2015年5月に登記をしたばかりの山梨のワイナリーと協業関係を持つ東大発の農業ベンチャー。東大で農学研究を行っている西岡氏は、都内と山梨を中心に醸造用ブドウの研究生産を行っている。
同社の源流は10年前に発足したブドウ農家も含めたプロジェクトチーム。西岡氏が追い求めるのは、イタリアで口にしたプリミティーヴォというブドウ品種を使ったワイン。「こんなうまいもの、できれば自分で造りたい」と、2006年に仲間の農家と畑の開墾から着手し始める。
5年前にはワイナリーもでき、現在はプリミティーヴォの苗木ではないが、イタリアから米国に持ち込まれ遺伝的にほぼ同一品種とみなされているジンファンデル (Zinfandel、カリフォルニア州を代表する品種の1つ)での栽培を行っている。日本で唯一のジンファンデルの畑だが、生育での問題があった。せっかく育って実が熟しても、繊細なため簡単に割れてしまうというものだ。
そこで、センシングと植物生理を専門とする西岡氏は、「樹液流センサ」を開発する。
樹液流センサの仕組みは、植物に巻きつけた薄膜ヒーターで植物を局所的に加温し、熱の消散状態を熱解析することで樹液流量を算出できるというもの。
最適な水分管理を行うことで品質管理を行う。また水の流れを知ることで、植物がどれくらい光合成に必要な二酸化炭素を吸収しているか、樹勢(樹木の生育度合い)がわかるのだという。
実はこの技術自体は、1981年に国内で開発されたもの。海外でメーカーが立ち上がり、同様のシステムは研究者向けにあったが、導入には重い費用がかかるものだったらしく一般のブドウ農家や中小のワイナリーが導入できるものではなかったという。
今回の仕組みを企業や農家などにも広く提供するのが、西岡氏の狙いだ。
イベントを主催したソラコムによれば、農業とIoTは、注目を集めている分野の1つだが、組み合わせたいがどうやっていいかわからないという問い合わせも同社には数多く寄せられているという。西岡氏が進める取り組みは、従来からあった技術でもクラウドやセンシングによるコストダウン次第で様相が変わる好例といえる。
「(樹液流のセンシングは)守備範囲が広い。トマトやその他の果樹類など、ワイン用ブドウ以外の分野でのセンサーによる精緻な潅水技術などのIoT化は容易。しかしKisvin Scienceとしてはワイン用ブドウ生産支援に特化した”尖った会社”として世界のワイン業界を攻める」と将来を語ってくれた。
このほかにもイベントでは、注目のIoT関連のスタートアップが多数登壇した。アスキーではすでにおなじみの企業も含め、後日改めて紹介したい。
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