※週間リスキーはアックン・オッペンハイマーとやんちゃデジタルKidsたちがテクノロジーとサブカルチャーの交差点からお届けする、昭和臭の充満したコーナーとなっております。今回はライター藤本健さんにご寄稿いただきました。
ブラウン管TVや二層式洗濯機、換気扇、黒電話、ラジカセ……昭和の象徴とも言える旧式の家電を集め、これらを楽器として演奏する摩訶不思議な音楽会が11月23日、東京・浅草のアサヒ・アートスクエアで行なわれました。『エレクトロニコス・ファンタスティコス! ~初合奏遭遇篇~』というイベントで、Open Reel Ensembleなどで活躍するアーティスト、和田永さんを中心としたメンバーがパフォーマー。「何で、これで音がでるの?」「どうして、これで演奏ができる?」という不思議でいっぱいの楽しい音楽会の模様をお届けします。
実は本イベント、局長の司令を受けただけで、きちんと状況を把握しないまま向かいました。事前に「AMラジオとリモコンを持ってきて」などと言われたので、緊急時のためにと買っておいたソニーの小型ラジオと、天井の照明コントロール用のリモコンを持って行きました。これらが楽器になってしまうとは知る由もありません。
さまざまな廃家電が置かれたステージがあり、観客は床に座布団を敷いて座っています。開演前から廃家電を使っての楽器演奏実験が各所で行なわれていて、それを見て一発で衝撃を受けました。
動画内で女性が手にしているAMラジオ、放送が受信されていない周波数に設定されていて、「ザー」というノイズを出しているのですが、ストロボを当てると光る度に「ピュン、ピュン」と鳴るのです。さらにTVやビデオ用のリモコンをかざしてボタンを押すと「ピロロロロロ」なんて音が。また別のストロボでは、電源を入れてエネルギーが溜まっていく間に「キュイ───ン」と不思議な音が鳴り、光らせたところで「ピュン!」と鳴ったり、別のリモコンでは「ピピッ、パボッ」という音が……。どういうこと? と思って自分が持ち込んだラジオで試してみると、予想もしていなかったピロピロ音が出るんです。つまり、ストロボやリモコンが発する電磁波をラジオが拾って音にしているということなのです。また、「ピロロロロ」と鳴っているところでラジオのチューニングを動かしていくと、さらに音が「ピリョリュウィーン」なんて変化していくところも楽しかったですよ。
また何やら妙なパフォーマンスに見えますが、縞模様のボーダーシャツを使って演奏する「ボーダーシャツァイザー」という楽器なんです。ボーダーシャツが音程を発するシンセサイザーになっているのですね。なんでも偶然から見つけた現象とのことで、ビデオカメラの端子を誤ってアンプにつないでしまったら音がしたのに気づき、しかもカメラに写す模様を変えると、音程が変わったのに気づいたのだそう。太い縞だと低い音、細い縞だと高い音になるため、ボーダーシャツを着た人がカメラに近づくと音程が上がり、遠ざかると音程が下がって演奏ができるというわけです。
来場者に実際にボーダーシャツを着た人が多数いたのですが、肩のところにSOPRANO(ソプラノ)、ALTO(アルト)、TENOR(テノール)、BASS(バス)と、縞の太さによって異なる音程が記載されていたのです。まさか映像信号を音として聴くことになるとは……。
続いて登場したのは、囚人のような恰好をした2人組。
洗濯機にはペダルが取り付けられており、踏むとバスドラムのようにドンドンと鳴ります。回転させることでジャラジャラという妙な音もします。洗濯槽には液体が、脱水層にはBB弾と鈴、トライアングルが入っており、これらが音を出しリズムを奏でていたのです。音だけ聴いていたら、これが洗濯機とは到底思えない、非常にいい感じのパーカッションでした。
次に登場したのは、換気扇サイザー。
これを使って和田さんが見事にメロディーを演奏します。
のちに種を明かしてもらったところ、これもとんでもない楽器でした。
太陽電池は光を当てると電圧を発生しますが、その光を換気扇の羽の回転によって遮断してオン、オフを繰り返し、音階にしてしまうという発想。換気扇の回転数を上げれば音が高く、下げれば低い音になります。同じ回転数で回した場合、羽の数が多ければ高い音、少なければ低い音になるそう。背後に並ぶ換気扇はレーザーカッターで自作した羽を設置してあり、その枚数に違いがあるので、異なる音程が出せるのですね。
舞台は変わり、黒電話の前に女性が立っています。
受話器を取ってダイヤルを回すと、別の電話が「リリリリリ」──なるほど、これは昭和生まれの私にはスグわかりましたよ! ダイヤルすることで発生するパルスで別の電話のベルを鳴らしているのですね。また、電話機へ送る信号の周波数を変更することで、ベルのテンポを変えてリズムに利用していたのも興味深かったです。
すると、「ラジオやリモコンを持ってきた人は、こちらに集まってください!」というアナウンスがありました。
和田さん率いる行列に従って会場内を練り歩くと、会場全体に妙な一体感が出てきて、ますます楽しくなってきます。楽器の演奏スキルも何も必要なく、それぞれが音を出すことで全体がまとまってくるという、たいへん不思議な体験でした。
音楽会もクライマックスへ。会場中心部にものすごい存在感を主張していた複数のブラウン管TVの前に和田さんが立つと、またここに縞々模様が表示されます。
そう見た目は近いものの、先ほどのボーダーシャツァイザーとはまったく音も仕組みも異なる別の楽器です。
どういうこと? エレキギターを使ったことのある方ならご存じと思いますが、アンプにつないだシールド(ギターケーブル)の反対側を指で触ると「ブーン」というハムノイズが出ますよね。このハムノイズは通常、電源ノイズを拾って鳴るのですが、ここにブラウン管から発せられる電磁波ノイズを和田さんの体を通じて送り、音を出すという仕掛けなのです。電磁波ノイズの周波数を変化させることで、音程を変えられることを応用した楽器です。電磁波ノイズの周波数=音程を決めるのが、やはり縞の太さと間隔。つまり異なる縞模様を触ることで演奏ができるというわけですね。このガムランの演奏に合わせたラップが奏でられ、エンディングには会場全員が参加をすることに……。
最初、うまく手をつなげない人がいたため、音が出るまでには少々時間がかかりましたが、全員の協力により、無事に音が出ました! その一体感たるや、生涯忘れることはないでしょう。
●関連サイト
和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」~初合奏遭遇篇~
Open Reel Ensemble
藤本健の“DTMステーション”
Open Reel Ensemble/Braun Tube Jazz Band(Official)Facebookページ
ボーダーシャツァイザー・クラウドファンディング情報(募集終了)
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