フィンランドで開催された、欧州最大級のスタートアップの祭典「SLUSH」。今年登場した最高のスタートアップはどこだったのか。
審査員の前でビジネスについて説明する「ピッチ」を勝ち抜いた一社が優勝になる。「PlugSurfin」「AstroDigital」「Velmenni」「CareMonkey」の4社が決勝に進み、賞金65万ユーロ(約8600万円)めざして火花を散らした。
1.PlugSurfing
PlugSurfingは電気自動車の決済プラットフォームを提供する企業。
ドイツをはじめ、欧州では電気自動車の充電ステーション業者が乱立し、決済手段がばらばらになっている。そこで同社が開発しているのが、自社サービスを経由してVISA、PayPalで支払えるようにするFinTech(金融テクノロジー)だ。
1万5000箇所以上のステーションに対応し、消費者はサービスを使うことで簡単に充電料金を支払える。クラウドサービスをベースにしているため、スケールアウトもたやすく、欧州圏内の拡大展開も考えやすいというわけ。
2.AstroDigital
Astro Digitalは衛星データをAPI単位で提供する企業。
オープンソースで提供されている、あるいは商用衛星から提供を受けた画像データを取得し、画像を加工、APIとして提供する。利用者は4行のスクリプトをウェブサービスに入れることで、リクエストに応じた衛星画像データが得られる。
利用料金は年間99ドル。環境や都市などの変化を衛星データをもとにしてトラッキングしたり、使い道はさまざま。サービスのユニークなイメージに反響は大きく、宣伝もなしにわずか1日で1000社以上からオーダーがあったそうだ。
3.Velmenni
Velmenniは可視光コミュニケーション技術を提供する企業。
普段わたしたちが見ている光を、Wi-Fiのような無線通信の代替技術にしようというもの。たとえばSLUSHのように混みあったイベント会場や、アンテナ間の通信、あるいは飛行機内での通信技術として使えるのではないかという話だ。
光は指向性がある上、周波数帯域のように使用権利が事業者ごとに決められるわけでもない。9月時点で有効範囲は最長30メートル、通信速度は最速10Mbpsほどだという。なお、競合には日本の中川研究所の名前も挙がっていた。
4.CareMonkey
CareMonkeyは緊急時に必要な薬がわかるアプリを提供している企業。
たとえば親がアプリに子供の病歴や常用薬を登録しておく。すると学校で生徒が急に体調をくずしたときに、教師がアプリを開けば処置の方法がわかるという仕組み。かかりつけの医者などの情報も載っているので対処がしやすい。
すでに利用者は10万人を超えている。学校に加えて、社員の福利厚生の一環として導入する一般企業やサッカーチームなどを顧客に抱える。スティーブ・ウォズニアック、リチャード・ブランソンも賞賛している「賢い」アプリだ。
優勝企業は意外と安定していた
こうしてあらためて見ると、ジャンルはふしぎなほどばらばら。各社が熱のこもったプレゼンを終え、1時間ほどの最終審査を経て、優勝したのは……
4社目の「CareMoneky」!
ビジネスとして考えると、一般人がビジネスのベースになり、それでいて利害関係者も多いために収益化しやすいというのが魅力的だ。考えてみれば当たり前にあっていいサービスなのだが、それが死角というものなのだろう。
そういうわけでSLUSHは、やばいというより、安定感ある企業が優勝した印象だ。発表時も派手に騒ぐことなく余裕の笑みをたたえて花束を受け取っていた。
SLUSHにも登場していた「やばい」フィンランド企業はまだたくさんある。いずれもわたしが好きなゲーム、ハード、センサーといったキーワードから「スマホの次」に訪れる未来を予感させるスタートアップだ。次回につづく。
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