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『マリッサ・メイヤーとヤフーの闘争』特別企画

グーグルを勝利に導いた美人 マリッサ・メイヤーとは

インターフェースの女神

 メイヤーがプロジェクトに加わってから数週間がたったある日、ジェフ・ディーンというエンジニアがやってきて、彼女の仕事を手伝ってやると言った。そして、メイヤーが数週間かけてつくったものよりできのいいシステムを、わずかな期間で作成したのだ。

 当然と言えば、当然だ。ディーンは世界でも有数のプログラマーとして定評があるほどの男だ。業界人なら誰でも彼の名を知っていた。グーグルがDECという会社からディーンを引き抜いたときには、小さなスタートアップ企業が彼ほどの才能を雇えるはずがないと仲間たちがうわさしたほどだ。うわさが真実だとわかると、有能なプログラマーの多くが、彼のあとを追ってグーグルに入社した。

 だからディーンに負けたからといって、メイヤーは恥じる必要はない。しかし、彼女はそうは考えなかった。いくらがんばったところで、ディーンほどのプログラマーにはなれない。今後、彼と同じレベルの人々がグーグルにたくさん集まってくるだろう。ずっとグーグルでやっていくには、自分は違う道を探すしかない。

 当時グーグルはまだ小さな企業だった。だから、人事に始まりマーケティングから週末のサーバーの設置まで、何にでも手を貸す人材を必要としていた。メイヤーはそうした人材になることにした。

 寝るのは一日四時間。場所はどこだっていい。週末にはローラーブレードや自転車でスタンフォード大学のキャンパスを走って体を動かすが、それ以外の時間はずっと仕事をする。

 人々はメイヤーの存在に気づきはじめた。ほとんどが男性のエンジニアの世界では、ブロンドの女性は目立つ存在だ。神経質な性格。自分の意見を曲げようとしない意固地さ。議論を終わらせたいと思うときに発する「フフフ」という静かな笑い。彼女の賢さ、集中力、やる気を、メンバーたちは認めはじめた。どんな問題にも全力でぶつかっていく。彼女のどこにそんな力が秘められているのかと、みんながうわさした。

 ほかの誰かがすでに着手した問題に、メイヤーが手を出すこともあった。そのため混乱する社員もいたが、そんなことお構いなしだ。メイヤー自身、混乱する者がいることに気づいていなかったのかもしれない。

 初期のころに参加したプロジェクトで、グーグル検索の結果表示に使うフォント(書体)を〝セリフ〟にするか〝サンセリフ〟にするか決めることが求められた。〝タイムズ・ニュー・ローマン〟に代表されるセリフ体は文字の線の端に飾り線がある。一方、〝ヘルベチカ〟を始めとするサンセリフ体は、必要最小限な線しか使っていない。メイヤーは調査に没頭した。そしておもしろい事実を見つけた。セリフ体のほうが〝読みやすい〟が、サンセリフ体のほうが〝見やすい〟。

 最初、このデータは役に立たないとメイヤーは考えた。

 しかし、あることに気づいた。〝読みやすい〟とはつまり、飾り線が見るページを横断する水平のガイドラインを形成するということだ。だから、長いテキストが読みやすくなる。逆に、サンセリフ体は飾り線がないため、一つひとつの文字を認識しやすい。だから〝見やすい〟。検索結果ページを見つめる読者がすることは、画面の一部にスポットを当てて、そこだけを読むことだ。長いテキストを読むのではない。グーグルが使うべきフォントは決まった。フフフ。

 メイヤーは調査結果をラリー・ペイジに示し、書体の変更を提案した。ペイジは同意した。グーグル検索の結果表示ページから飾り線が消えた。

 メイヤーは自分の居場所を見つけた。グーグルのユーザーインターフェイス(UI)の改善だ。人とコンピュータの関係は大学でも研究していた。

 初めのうち、エンジニアチームの代表者として、メイヤーは片手間にUIチームに参加していただけだった。彼女は検索結果ページのルック・アンド・フィールの改善だけにかかわっていた。一方、グーグルのほかのページのデザインに携わっていたのは、数人のマーケティング部のメンバーだった。彼らが考案したデザインをペイジに見せ、決断をあおぐのが手順だった。

 ところがまもなく、メイヤーがパートタイムのメンバーから、突然UIチームのリーダーに抜擢される。

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