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スタートアップを生み出す側に聞いた

10年間で2000億円の産業を創出する Supernovaの起業家育成とは?

2015年10月15日 07時00分更新

「産業革新」を目的として掲げた、複数の企業参加型アクセラレータープログラムが募集を行っている。既存産業を根本からひっくり返すという壮大な試みだが、仕掛ける側自身はその「ハードルは高くない」と明言する。新たな起業家育成はいったいどのような考えで行われているのか。

 9月28日に発表された「Supernova」(スーパーノヴァ)は、複数のVCなどが共同運営を行い起業家を育成する共創型シードアクセラレータプログラム。10月31日まで第1次募集が実施されている

 テーマとなる領域は、教育・医療・農林水産・不動産・建築土木・製造・小売流通・メディア・サービス・エネルギー・金融などの幅広い既存産業。採択された起業家の挑む産業に適した専属メンターや各分野のスペシャリストによって6カ月間徹底的にサポートが行なわれ、サービス/プロダクト価値の向上を目指すという。

 最大の特徴は「共創型」というアプローチの部分だ。スタートアップを育てるアクセラレータープログラムは通常、単独の企業が主導することが多いのだが、Supernovaではシリアルアントレプレナー(連続起業家)や各種専門家、投資家、事業会社、技術者など複数のプレイヤーが支援を担当する。

 共同で運営を行うのは、Coent Venture Partners(以下Coent)、Draper Nexus Ventures(以下DraperNexus)、Slogan、Viling Venture Partners(以下Viling)という4社。それぞれ異なる得意分野があり、1社だけではカバーできない部分を幅広くサポートを行なえるという。

「10年間で事業価値2000億円以上の新産業を創る」ミッションを掲げ、これまでの概念を覆す仕組みを持つSupernova。その誕生の背景や狙いは何か。共同運営企業から、Viling Venture Partnersの栗島祐介氏、DraperNexusの中垣徹二郎氏、スローガンの伊藤豊氏、前川英麿氏らに話を聞いた。

 それぞれの立場を明確にすると、まずViling栗島氏はSupernova全体をとりまとめている立場にある。同社は教育分野に特化したアクセラレータープログラムの経験があり、専門的・実践的な知見が集まっている。グローバル展開を想定して加わっているのが、アジアに強いCoentとシリコンバレーに強いDraperNexusだ。さらに10年にわたって企業の人材採用のサポートを長く続けているSloganには、特に学生など若い起業家予備軍の人材データが蓄積されている強みがあるという。

左から、スローガンの前川英麿氏、伊藤豊氏、Viling Venture Partnersの栗島祐介氏、DraperNexusの中垣徹二郎氏。

主役はあくまでも起業家にある

――「Supernova」が動き出すまでの経緯や背景を教えてください。

Viling栗島:今回、Supernovaの大前提としたのは「主役はあくまでも起業家である」ということで、そのうえで3つの特徴をもたせようと考えました。第一に、現在の日本では「スタートアップ=ウェブサービス」というのが主流ですが、Supernovaは「産業構造の革新」を目指すということ。第二に、連続起業家や専門家、投資家、技術者などが起業家とともに事業の切り口を考えていく「共創」の仕組みを持ちます。そして第三に、Supernovaの卒業生には、特定のベンチャーキャピタル(VC)などからの投資がセットになっているわけではないことです。

 そのあたりを理解して共同で運営に当たっていただける企業さんということで、以前から懇意にさせていただいているCoent Venture Partners(以下、Coent)さん、Sloganさん、DraperNexusさんに声をかけさせていただきました。

――第一の「産業構造の革新」について聞かせてください。「10年間で事業価値2000億円以上の新産業を創る」という数字の部分は、どのように導き出されたものでしょうか?

Viling栗島:「産業」と言ったときに1000億円はないといけないだろう、とまず考えました。ただ、1000億円を目指すと言うと、もしもそれに届かなかったとしても「まあ、いいか」となあなあになってしまうかもしれない。自分たちにプレッシャーを与えるという意味で2000億円に設定しています。言ったからには、最低でも1000億円には到達していないといけないですから。

Slogan前川:今回はウェブサービスではなく、産業を創るわけです。となると、最低1000億円という事業規模は必要だろうというのは、我々としても同感でした。

DraperNexus中垣:現在の日本ではスタートアップが時価総額30~70億円で上場まで行けてしまうという現状があって、それはそれで悪いことではないんですが、Supernovaが目指すのはそういったことではないんですね。2000億円という設定を掲げることで、起業家に対して「もっと大きな絵を描いていいんですよ」というメッセージになる部分もあります。

Viling Venture Partnersの栗島祐介代表取締役社長。教育にイノベーションを起こす企業の創出を目指し、アジア・ヨーロッパを中心とした教育領域に特化したスタートアップ企業への投資事業、インキュベーションオフィスの運営、シードアクセラレータプログラム等を行なう。

――「共創」という形で複数の企業やその関係者が加わるというのも珍しいですね。

DraperNexus中垣:最初にお話をいただいたときは「とても面白い試みだな」と思いました。ただ、アクセラレーターのプログラムはいろいろな企業が動かしていて、特に米国では非常に数が多いわけです。その中で埋もれないためにも、Supernovaがどういう特色を持っているのか、これまでのものとはどう違うのかということを、よりわかりやすいメッセージで示したほうがいいということを私からは伝えました。Supernovaのユニークな特色が起業家にきちんと伝わるように、明確に打ち出したほうがいいだろうと。

――一般的にはアクセラレーターのプログラムとその後の投資はセットであることが多いなか、複数の企業が共同で運営に関わり、しかも起業家は特定の企業からの投資を受けなければいけないわけではないというのは珍しいですね。

DraperNexus中垣:それについては私も気になっていて、「そうは言っても、VilingさんやSloganさんに優先権があるんじゃないですか?」と聞いたんですよ。でも答えは、「まったくありません。運営側として汗はかくつもりですが、VCとしては他社さんとまったく同じ立場です」というものでした。

Viling栗島:「あくまでも起業家が主体」というのが大事なので、そこは譲れないところですね。最終的に投資を受ける先を選ぶのは起業家なんです。

DraperNexus中垣:これが徹底されていると、アクセラレーターの段階で起業家によいサポートを提供できた企業が投資の段階でも選ばれるようになります。フェアな競争環境が生まれるのではないかという気がしていますね。

DraperNexusの中垣徹二郎マネージングディレクター。米国シリコンバレーと東京にオフィスを持ち、グローバル展開を目指す日米のベンチャー企業に投資をするベンチャーキャピタルファンド。日本および北米でITそしてIndustrials/Sustainability関連事業を展開するベンチャー企業に投資を実行し、投資先企業のグローバルな活動を支援している。

――実際にプログラムを卒業して産業を創る側になるスタートアップが、各VCやエンジェル投資家から集める出資金額規模はどれほどと想定していますか?

Viling栗島:最低で数百万円から可能ですが、最大では2000万円を想定しています。状況に応じて株式だけではなく、転換社債※での発行も実施します。また、シェアについても15%を超えて取得することはありません。もしSupernovaが想定するバリュエーションを超えている企業から応募があったとしても、Supernovaの枠組みとは別に投資をしたり、外部VCや事業会社へつなげていきます。

※転換社債:転換社債型新株予約権付社債(convertible bond)。一定条件を満たすことで株式に転換される貸付金。スタートアップの場合、一定期間での増資金額などが条件となる。

↑Supenovaの運営イメージ。各社からそれぞれ起業家やメンターが参加して相互交流ができる仕組みが目指されている。採択された起業家の挑むテーマ領域に適した専属メンターや、各分野のスペシャリストが6カ月間徹底的にサポートを行い、サービス/プロダクト価値の向上が図られる。また、2カ月毎に開催されるIPO経験者を筆頭とするエンジェル投資家による卒業審査に合格したチームには、DemoDayの機会が提供される。

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