週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

大手キャリアの通信料金が下がればMVNOは不要になるか?

2015年09月22日 07時00分更新

 いよいよ9月25日から発売されるiPhone 6sを目前にして、KDDIの“スーパーカケホ”に端を発する音声定額の引き下げなど、キャリア間の競争が激化しています。

iPhone 6s/6s Plusの発売を前に、料金プランや速度など各キャリアの競争が激化している。

 一方、9月11日には安倍晋三首相が経済財政諮問会議において携帯電話料金の家計支出における比率の高さを指摘、料金引き下げを検討するよう求めたとの報道により、通信料金に再び注目が集まっています。

 携帯業界ではMVNOや“格安スマホ”の盛り上がりが続く中、さらなる通信料金の引き下げは必要なのか、あらためて考えてみたいと思います。

日本の通信料金はそれほど高くない

 まず、日本の携帯電話料金が高いのか安いのかといえば、総務省が公開している内外価格調査の資料によれば、標準的であることが分かります。これは米国や欧州などで頻繁にデータ通信をしている筆者の実感にも近い印象です。

 たとえば米Verizonの新しい料金プランでは、20ドルの音声定額と4種類のデータパックを組み合わせるだけという、非常にシンプルなものになりました。しかしその合計金額は、データが1GBの最小プランでも50ドル(約6000円)、6GBでは80ドル(約9600円)になります。

Verizonがシンプル化した新料金プランでは、20ドルの音声定額を基本に4種類のデータパックを組み合わせるだけだが、日本に比べて高く感じる。

 対する日本では、ドコモの音声定額・2GBのプランが6500円。新たに登場したKDDIのスーパーカケホなら3GBが6200円、ドコモのカケホーダイライトでも5GBを7000円で使えます。

KDDIは2700円で”横並び”だった音声定額にライトプランを追加。他社も追従したものの、KDDIだけの”3GBプラン”が突出している。

 その一方で、携帯電話料金が槍玉に挙げられる理由も分かります。それは家計支出における比率が高いという点です。長らく続いてきたデフレにより、モノの値段や世帯あたり平均所得が下がったのに比べて、携帯電話料金はあまり下がっている印象がありません。

 また、携帯電話会社は”儲けすぎ”との批判もあります。ソフトバンクの2013年度の営業利益が1兆円を超えたことが話題になったように、いま日本のIT関連企業で最も儲けているのは携帯電話会社といってよいでしょう。米国でもAT&TやVerizonは有数の大企業ではあるものの、IT関連ではアップルやマイクロソフト、グーグルのほうが目立っています。

ソフトバンクの営業利益は2014年度にやや下がったものの、9827億円を叩き出した。トヨタ自動車やNTTに次いで、日本企業としてトップクラスに位置している。

料金が高いならMVNOに移ればいい?

 このように携帯電話料金の“高さ”が指摘される一方で、料金を節約するためにMVNOに移るという選択肢もあるはずです。現在では家電量販店にたくさんのSIMカードが並んでおり、低価格の料金プランを選択できるようになっています。

 とはいえ、誰もが大手キャリアからMVNOに移れるわけではありません。音声定額や家族割、固定回線とのセット割といった大手キャリアならではの料金プランや、キャリアメールなどのサービスを理由に、MVNOに移れない人もいるでしょう。

 また、首都圏や地方都市では、あらゆるキャリアに容易にアクセスできる環境が整っています。しかし地域によってはMVNOどころか近所にキャリアショップが1軒しかなく、携帯電話を買うにはそこに行くしかない、という環境もあるでしょう。

 筆者の場合、一度はMVNOをメインに使ってみたいとは思いつつも、海外でいざというときに必要なデータローミングの点で引っかかっています。MVNOは海外での音声ローミングには対応するものの、データローミングは提供していないからです。

 このようにMVNOという選択肢があることを考慮したとしても、大手キャリアの通信料金を引き下げることは、やはり重要と考えられます。ただ、そうなると気になるのはMVNOの存在意義です。

それでもMVNOが必要な理由

 大手キャリアが通信料金を引き下げる可能性として、たとえば高市早苗総務大臣が言及した『1GBプラン』はどうでしょうか。

 現行の料金プランでは、5GBで5000円、3GBで4200円、2GBで3500円となっており、容量が小さいほど割高になります。ここに1GBプランを加えた場合、料金は2000円台前半になるとみられ、音声定額との組み合わせで5000円、仮にライトプランとの組み合わせが可能になるとすれば4000円前後の月額料金が実現することになります。

 しかし各キャリアには、毎月の携帯電話料金から一定金額を割り引く「月々サポート」などの施策があります。ドコモの場合、iPhone 6の16GB版を購入すると毎月3078円の割引を受けられるため、もしiPhone 6本体をMNP一括0円やキャッシュバック付きなどの安値で入手できれば、トータルの通信料金は大きく下がることになります。

 これはMVNOにとって脅威といえます。“格安スマホ”という言葉が広まっているように、料金が安いことはMVNOのアイデンティティのひとつになっています。そのため大手キャリアの通信料金が下がれば、同時にMVNOの存在意義も危うくなってきます。

 もちろんMVNOの存在意義は、安さだけではありません。大手キャリアにはない独自の料金プランを提供していたり、海外のSIMフリー端末を国内に展開するなど、MVNOの登場で携帯電話業界は確実に面白くなっていると筆者は感じています。

ALCATEL ONETOUCHのように、日本のSIMフリー市場に参入する海外メーカーが増加しているのも、MVNOの存在あってこそといえる。

 このように、大手キャリアの通信料金は引き下げつつ、同時にMVNOも拡大していくという、一見すると相反することを両立させることができるのか、という点に注目です。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事