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深層学習を応用した自動作成LPで製作期間が4分の1に

デザインの自動化で、デザイナーにより人間らしい働き方を提示するガラパゴス

 スマートフォン向けのアプリやサービスを開発、運営している株式会社ガラパゴスは、2016年から「AIR Design for Logo」というサービスの開発に着手した。2015年頃から普及が始まった深層学習(ディープラーニング)の技術をデザイン業務に応用することを目指したものだ。デザイン制作工程を深層学習で分析して、その結果を基に自動化する。従来の人が行なう作業では、ロゴの制作に約5時間が必要だったが、このサービスを利用することで作業終了までの時間を15秒と劇的に短縮できるようになった。作業にかかる時間が1200分の1にまで短縮するほどの効率向上だ。

 現在はロゴからウェブサイトのLP(ランディングページ)にまで同様の自動化を進めている「AIR Design」について、ガラパゴスの代表取締役社長を務める中平 健太氏にお話を伺った。

ガラパゴスの代表取締役社長を務める中平 健太氏

デザイナーの思考過程と手作業を細かく分解する
「リバースデザイン」でロゴやLPの自動作成を達成

 ガラパゴスは2009年3月設立のベンチャー企業。製造業のコンサルティング会社で働いていた中平氏が、4人の同期とともに独立して起業し、昨年は10周年を迎えている。

 中平氏は前職のコンサルティングで、職人の思考プロセスを分析、分解し、自動化につなげる業務に従事していた。そして2015年ころ、深層学習のビジネスへの応用が語られ始め、その将来性を「もしかして将来は機械が絵を描くのでは」と見出す。2016年にデザインAI事業を立ち上げ、まずはロゴから「AIR Design」の開発を始めた。2016年はエンジニアの育成に費やし、2017年にバージョン1.0を開発。2018年にはバージョン2.0を開発した。

 もともとガラパゴスでは、設立以来スマホアプリの受諾開発を続けてきたが、その過程で決して効率が良いとは言えない部分が多く見えていたと中平氏は語る。「デザインの作業は、人手に頼ったものから変わっていません。1つのロゴを完成させるまでにおよそ5時間がかかります。国内に16万人いるデザイナーがそれぞれ個別にこんなことをやっているのだったら、深層学習でデータを解析して自動化すれば、みんなが幸せになると思いました」(中平氏)

 開発時は、デザイナーの思考過程と手作業を細かく分解することに注力。ロゴ作成の依頼を受けてから、人間が何を考え、どのように手を動かしているのかを解析したのだ。「たとえば、ロゴの作成を依頼し、どう作業するのかを観察させてもらいました。あるデザイナーさんの場合、まずGoogleで関連ワードを検索して、着想を得たら手書きするということを繰り返します。その後、データ化を進めていくのですが、Adobeなどの制作アプリを使った作業も複雑なものでした」(中平氏)

 ロゴから始まったサービスは現在、ウェブサイトにおけるLPの制作にまで及んでいる。簡単に流れを解説すると、以下のようになる。

 まずはAIがウェブ上の2万5000のLPサイトをクロールしてスクレイピングを行なう。LP上のテキスト、キャッチなどのテキスト情報や画像情報、デザインでのトーン&マナー、要素を因数分解してデータベース化する。ガラパゴスではこの技術を「リバースデザイン」と名付けて、その仕組みを特許としても申請している。

 すべての作業をAIが行なうわけではなく、次の段階は人の出番となる。サイトの設計図とも言える、簡易的なワイヤーフレームが数パターン作成され、人が希望する商品セグメントや概要を伝えらえるものを選択する。

 ある程度の方向性が決まったところで、AIが複数のラフデザインパターンを提出してくれる。完パケではない、おおまかなデザインであり、色味やある程度の配置までを行なってくれたものだ。あとは、人間のデザイナーが細部も含めて仕上げを行なう。

AIR Design

 特許にもしているリバースデザインは、ハードウェアやソフトウェアの完成品を分解、分析して、仕様や設計、動作原理、そしてその背景にある技術などを明らかにする「リバースエンジニアリング」のデザインの世界に当てはめた言葉だ。

 「デザインの完成品からさかのぼって因数分解し、蓄積したデータを活用できるところが僕たちの独自技術だと思っています」と中平氏は語る。「AIR Design」では、深層学習に加えて、昔ながらの画像処理、パターン化処理、イエス・ノーで答えられる単純処理なども複雑に組み合わせて、ロゴやLPの生成を自動化している。

人間より1200倍速い作業で
コンペでは倍以上の受注率を記録

 「AIR Design」では、デザイナーがイメージしているロゴやLPの情報を入力すると、自動的に作成が始める。従来のようにデザイナーがイラスト作成ソフトなどを操作する必要はない。情報入力時は、オススメのフォントや色のパターン、モチーフなどを提示してくれるので、デザイナーは選択肢からイメージに合うものを選んでいくだけで済む。

 自動処理で作成が終わったら、複数のラフデザインが提示される。

 ロゴであれば、1つを選択すると、名刺やパネルなどのモックアップ写真まで自動で作成してくれる。作業にかかる時間はわずか15秒。人手で作成すると5時間かかるので、1200分の1の時短ということになる。

 中平氏はこのシステムを開発するに当たって「どうやってチューリングテストをしようかと考えました」と語る。チューリングテストとは、イギリスのコンピュータ科学者であるAlan Turingが考案した機械と人間を判別するテストだ。「AIR Design for Logo」では、機械が作ったものだと知らせずに人間にロゴを見てもらって、デザイナーが作ったものだと思ってもらうことがゴールと言える。そこで中平氏は、クラウドソーシングなどでロゴ製作を受注し、「AIR Design for Logo」が作成したロゴをコンペなどの場で提案してみることにした。

 「フリーランスのデザイナーさんが参加するコンペに、『AIR Design 』が作ったものも並べて、買ってもらえるなら価値があると言えるのではないかと、1つの案件に対して20ほどの提案を出してみました。人間の場合、コンペでの成約率は1.4%くらいに落ち着きます。一方、『AIR Design for Logo』は成約率3.5%。人間を超えていました」(中平氏)

 人間が作成したものと並べて、AIR Designによるロゴを提案したところ、人間を超える割合で採用されているのだ。このときAIR Designを使っていたのは、デザイナー経験を持つがロゴ作成までは行なったことのない主婦アルバイトだった。1人当たり、1日300個のロゴをAIとともに作成して提案していたという。

 中平氏は「QCD(Quality/Cost/Delivery、品質/コスト/納期)の観点でも圧倒的です。我々はデザイン業界の産業革命の一歩目を歩き始めていると思っています」と語る。

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