2019年12月03日10時00分

データと専門知識に強みを持つパナソニック、“AIの大工”の育成を強化

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 2019年11月28日、パナソニックはAIへの取り組みを披露する記者説明会を開催した。説明会では「DAICC(ダイク)」と名付けられたAIブランドに込めた思いを披露するとともに、AIを使いこなせる人材の育成についても説明。機械学習のコミュニティ「Kaggle」のGrandmasterも登壇し、コミュニティのメリットと課題解決能力の重要さを語った。

パナソニックのAI「DAICC」に込めた思い

 パナソニックのAI活用の基本姿勢を、パナソニック ビジネスイノベーション本部 AIソリューションセンターの九津見洋所長は、「DAICC(ダイク=Data & AI for Co-Creation)」という言葉で表現する。これは「AIというツールを使いこなす大工のような存在を目指す」という意味が込められているという。

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パナソニック ビジネスイノベーション本部 AIソリューションセンター 九津見洋所長

「パナソニックは、100年間に渡り、安定した品質でモノづくりを行ない、実世界に価値を送り続けてきた企業である。フィジカルカンパニーだからこそ所有できるデータと、幅広い専門知識を生かすことができる点に強みがある。一方で、AIは、産業に破壊的な価値をもたらすことになるソフトウェア技術であるが、急速にコモディティ化し、世界中の誰もが簡単に手に入るようになってきた。パナソニックはこれを利用し、実世界のデータをサイバー空間で分析し、くらしを豊かにし、社会課題の解決を目指す。フィジカルに立脚したAI活用を行なうことになる」(九津見氏)

 これをDAICCという言葉で表現したわけだが、DAICCにはもうひとつの意味がある。それは、同じ発音となる「大工」だ。

「大工は、さまざまな種類ののこぎりを使って、加工をし、家を建てる。それと同じように、パナソニックは、AIという一流の技術を見極め、選別し、利用しながら、社会の困りごとを解決する。これが、AIに対するパナソニックの基本姿勢になる」(九津見氏)。

 同社では、AIを「最高の道具」と位置づけ、コストと性能の両立を実現する「Embedded」、AI判断の根拠から対策が打てる「Explainable」、使うほどに進化する「Evolutional」の3つの「E」の頭文字をとった「E3-AI(イーキューブAI)」の観点から活用する考えを示す。

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パナソニックが目指すAIの3つのE

「パナソニックが得意とする組み込み技術により、AIを格納し、さらに説明可能なAIとして利用。外部の知見を取り入れながら、道具として活用していくことになる」(九津見氏)

M&AやAIのプロダクトへの活用

 一方で、世界最高峰のAI技術の獲得のために、M&Aを行なったり、スタートアップ企業や大学、研究機関との連携を積極化している。2017年には、データ解析の米アリモを買収。2018年にはスマートホーム開発に向けてAI技術を持つスタートアップの米BrainofTに出資した。また、北海道大学や東京大学との共同研究で、「学習データ量に応じて自動的に最適なモデルに変化する教師なし機械学習技術」を開発した経緯もある。

 こうしたデータを持つ強みについても言及するとともに、同社ならではのAIの活用事例についても説明した。

「パナソニックが持つPanasonic Digital Platformにより、全世界100カ国以上、180万人以上のユーザーから、1000億以上のくらしデータを収集、蓄積している。Panasonic Digital Platformに対応した機器は26機種にのぼっている。こうしたデータを活用しながら、宅内体験のアップデート、移動体験のアップデート、そしてAIの社内への普及、実装を行なっていく」(九津見氏)

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Panasonic Digital Platformのデータとインフラ

 宅内体験では、スマートホームを実現する「HOME X」への取り組みがある。すでにパナソニックホームズが展開する一戸建て住宅「CASART URBAN」にこれを採用。100世帯以上の販売実績がある。HOME Xの中核機能のひとつとなるユーザーを理解し、くらしに共感する部分にAIを活用しており、そこにパナソニックが収集したデータが活用されている。

 そのほか、歩行支援ロボットへの応用や、プライバシーに配慮した見守りをするためにAIだけが理解できる画像解析技術、設置したデバイスから来客分析や欠品検知を行うIoTエッジデバイス「Vieureka」などにもAIを活用していることを紹介した。

 また、移動体験では、大阪府門真市の同社本社エリアにおいて、自動運転のライドシェアの実験を行っていること、降車するとクルマが自動的にパーキングエリアに向かう無人自動バレーパーキングシステムの実験も紹介した。

 AIの社内への実装については、2018年春から「AIに関する課題設定」、「データ収集および加工」、「モデル設計および学習」、「システム化および運用」といった4つのステップを、ワンストップで提供する体制を構築。2018年だけで約80件、2019年はすでに100件以上の社内からの相談に対応したという。

 「これらの社内相談案件をもとに、いくつかの課題が見えてきた。プロセスにおける暗黙値を形式値に転換すること、各種AI開発課題を集約して、標準化し、効率的なAI開発プロセスを構築する必要がある。あわせて、精度とコストがバランスするAI活用企画、安心、安全を顧客に届けるためのAI倫理原則、ブラッボックスのAIの品質を担保するAI品質保証の観点から見直しを行っている」と九津見氏は語る。ここでは、社内AI倫理委員会を設置して、AI導入において配慮すべき項目を明確にするという作業も行なっている。

データサイエンティストコミュニティ「Kaggle」のプロフェッショナルが語る

 さらに、人材育成についても触れ、「2020年までに、1000人のAI技術者を育成する目標を掲げ、AI人材育成プログラムを実施している。社内には、世界レベルや日本人で唯一といった、尖ったAI人材が在籍している」などと述べた。

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パナソニックでのAI人材の育成プログラム

 そのひとりとして紹介したのが、世界的なデータサイエンティストのコミュニティである「Kaggle」で、最高位となる「Grandmaster」の称号を持つパナソニック AIソリューションセンター モビリティソリューション部の阪田隆司主任技師である。

 Kaggleは、コンペティションを主軸とする機械学習のコミュニティで、データ分析や機械学習を行なうコンペティションを随時開催。予測モデルを開発し、その予測性能を競っている。登録者数は300万人以上、コンペティションへの参加者は約11万人。成績上位者には、賞金やメダルが与えられる。コンペティションの順位で、世界トップ10レベルの成績を5回収めると、Grandmasterの称号が与えられ、世界でその称号を持つのは171人。日本では9人目のGrandmasterとなる。なお、Kaggleは、2010年にスタートアップとして設立したが、2017年3月にGoogleの傘下に入っている。

 阪田氏は、2012年に京都大学工学研究科航空宇宙工学専攻修士修了。同年にパナニソックに入社し、情報システム部門であるコーポレート情報システム社などを経て、現在、ビジネスイノベーション本部AIソリューションセンターに在籍している。阪田技師は、「Kaggleを通じて、実ビジネスにおける機械学習応用動向が見える。だが、実際の現場の課題はKaggleほど単純ではなく、技術を応用するには、現場でどう使うのかといったことを深く考えなくてはならない」と指摘する。

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パナソニック AIソリューションセンター モビリティソリューション部の阪田隆司主任技師

 Kaggleの楽しさは、「世界の競合としのぎを削ることができる点、Kaggleの仲間同士で盛り上がることができ、社外のつながりができる点にある」だという。その上で、「実ビジネスにおける機械学習応用の動向が見えること、実ビジネスに近いデータを使って機械学習を体験できること、実応用で有用な手法が使われていることなどがある。また、参加者同士のディスカッションを追うことで、機械学習の勘所を理解できたり、上位入賞者の手法が公開されたり、先駆者の機械学習スキルを吸収することができる。機械学習を会得したい人には最適のコミュニティであり、私自身の技術のバックグラウンドになっている。機械学習および周辺技術が実際のビジネス、社会にどう応用されているかに触れることができる貴重な場にもなっている」と説明した。

 また、機械学習のアルゴリズムの特性を理解できるため、問題に応じて筋のいい手法を選択できること、機械学習モデルの適切な評価方法を理解しているため、問題に応じた適切な評価指標を用いることができること、さらには、経験値を積み重ねることで致命的なミスを避けることができたり、モデルの精度を高めるための種々のテクニックを応用できるようになる点がメリットだとした。

「データサイエンティストには、解決すべき課題に対して、最適なものを選択する目利き力が必要である。その点でも、Kaggleの経験は必ず生きる」(阪田氏)

 だが、その一方でこうも指摘する。「データサイエンティストに求められる3つのスキルセットのうち、データサイエンス力、データエンジニアリング力は、Kaggleでカバーできる。だが、課題背景を理解した上でビジネス課題を整理し、解決するビジネス力は、カバーできない。実際の現場の課題はKaggleほど単純ではなく、技術を応用するには、現場でどう使うのかといったことを深く考えなくてはならない。ビジネスにおけるAIおよび機械学習の応用には、純粋に精度を求めることとは違った様々な課題があり、それを克服していくことが重要である」とする。

 現在、阪田氏はスマートフォンなどのモバイルデバイスのバッテリー寿命の正確な表示を実現する技術に関して、機械学習によるアルゴリズムの開発を行なっている。たとえば、日常的にスマホを利用していると、バッテリー残表示が30%あったものが、予想以上に速くなくなり、焦ってしまうといったことはよくある。より正確にバッテリー残量を表示できるようになれば、利便性も高まる。また、このアルゴリズムを電気自動車などに応用することも可能だろう。

 「スマホの場合には、限られたリソースのなかでAIを活用するため、それに最適化した手法を選択する必要がある。また、これを電気自動車に応用するには、別の手法が適している。こうした点で、Kaggleの経験が生きる」(阪田氏)

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