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成功から生まれた勘違いから仲間を見つけ、現場の要望に応えるまで

地盤改良を生業とするケミカルグラウトは業務も改良し始めた

2019年10月01日 09時00分更新

 日中は社外で働き、夕方にオフィスに戻ってから事務仕事を行なう。身近なところでは営業担当者など、よく見られる就業スタイルだ。地盤改良をコアビジネスとするケミカルグラウトも、そういった企業のひとつだ。現場を抱える会社共通の悩みとその解決策について、「55年間地盤を改良してきた会社がついに業務も改良し始めた話」と題してkintone hive Tokyo 2019で行なわれたセッションから読み解いていきたい。

ケミカルグラウト 技術本部 技術開発部の小野 一樹氏

日中は現場にいなければならないため事務作業は残業前提の状況に

 ケミカルグラウトのビジネスの中心となっているのは地盤改良だと、ケミカルグラウト 技術本部 技術開発部の小野 一樹氏は事業紹介を始めた。巨大建築物ほど地盤が大切であり、同社は建物の根幹を支える技術を持っている。設立は1963年、霞が関ビルや青函トンネルなど誰もが知っている建築物の工事に携わってきた。近年では2007年から2012年にかけて行なわれた東京駅の復元工事にも尽力したという。東京駅復元の際、地上には当時の姿を蘇らせつつ、見えない場所では巨大な地下空間が作られていた。検討当時の杭を撤去し、地下空間を作るための地盤改良などを行なったのが、ケミカルグラウトだった。

「ケミカルグラウトの業務は開発、設計、施工管理の3つに大きく分けられます。今回kintoneで改良したのは施工管理の一部、現場監督の業務です」(小野氏)

 現場監督は、担当する現場に滞在して工事がスムーズに進むよう安全確認や品質管理、作業員との打合せを行なう。現場も大切だが、本社との連絡など事務仕事も欠かせない。そのため工事が終わった後、夕方から夜にかけて事務所でメール対応や図面の修正、現場で発生したデータの整理などを行なっていた。

「日中はフィールドワーカーとして現場にいて、工事のあとは事務所で作業。残業が当たり前という状況でした。この長時間労働が嫌われ、若手の離職率が高まり人材問題にも直面していました」(小野氏)

昼間は現場作業、夜は事務作業というのが常態化

 そして事務仕事で使っていたのは、マクロを組み込んだExcelファイルだ。各人が使いやすいようにカスタマイズしており、作った人の名前が付けられた独自のひな形ファイルが多数存在する事態に陥っていた。現場や使用者が変わるたびに、前担当者が使っていたExcelのマクロを読み解いたり、修正したり慣用したりと、本来的な作業ではない部分に時間を取られていた。こうした細かい課題が積み重なり、長時間労働はなかなか解決できなかった。

成功事例からツール導入=業務改善という「勘違い」

 現場における問題の数々を解決するため、業務改善プロジェクトが立ち上がった。小野氏はその一員だった。

「まず、なぜ労働時間が長くなってしまうのか分析しました。理由は先ほどお話しした通り、事務所に戻らなければ事務作業ができないことが大きな要因でした。しかし現場監督は現場に常駐して工事を見ていなければなりません。また、ICTの活用が進んでいないという課題も見受けられました。現場で現役で使われているExcelファイルの中には1990年代に作られたものまであり、新しいICT技術を使った本社との連携もうまくできていなかったのです」

課題の要因分析

 情報共有や業務分担など本社との連携がうまくいかないため、現場担当者がその工事の事務作業をすべて抱え込んでいるという状況が見えてきた。工事が終わった夕方以降だけではなく、日中の現場でのすき間時間をうまく事務作業に使えれば改善できるのではないか。また、ルーチンワークをできるだけシステム化し、本社と情報や作業を共有することが大切ではないかとも考えられた。

 業務改善の第一弾として取り組んだのが、現場写真の管理業務だ。工事現場では、黒板にチョークで情報を書き込み、現場の状況と共に撮影して作業履歴を残していく。現場によっては数十枚から数百枚に及ぶこの写真を、人力で1枚1枚フォルダ分けしたうえで、提出書類を作成するためにExcelファイルにまた1枚1枚貼り付けていく。さらにこのとき、写真に写っている黒板の情報をExcelに入力するという二重作業が行なわれていた。

写真管理業務の課題

「これを解決するために、タブレットを電子黒板として使うことにしました。木製の黒板ではなくタブレットを持ち、撮影します。写真はリアルタイムにクラウド上のサーバーに送られ、電子黒板に書かれた文字情報をタグとして自動的に整理されます。提出書類の作成も、マウスを数クリックするだけで完成するようになりました」(小野氏)

 この取り組みはめざましい効果を上げた。データがクラウド上にあるので本社にいる社員が業務を分担できるようになり、現場担当者の事務作業時間は約8割削減された。全社に展開され、現場担当者からも喜びの声が届いた。

「この成功体験から私は、ある勘違いをしてしまいました。ツールを入れただけで作業時間を8割も削減できたので、ツールを入れれば業務改善ができるんだと思い込んでしまったのです」(小野氏)

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