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AIを武器に適切な情報を届ける「Anews」はどのように生まれたか

変わる企業の情報収集 大企業のDX化を契機に成長したストックマーク

 「日本のスタートアップでは珍しいエンタープライズイズムを持っていること、これが我々の強み」――ストックマークの代表取締役CEOである林 達氏は、自社の強みをこう説明する。

 同社は、東京大学大学院情報理工学研究科でのテキストマイニング・ディープラーニングの研究をベースとした、東大発スタートアップ。提供するサービス「Anews」はAIを活用した情報収集サービス。それに続くサービスである「Astrategy」は、その企業に適した定性データ分析をAI活用で実現する。さらに続く「Asales」は営業の意思決定に寄与する社内定性データの分析を行う。

 最先端のテキストマイニングやディープラーニングから生まれたAIを中心に据えた技術力やサービスは、もちろん同社の特徴であり強みでもある。しかし、林氏がAIによる技術力だけでなく、「エンタープライズイズムが強み」と話す理由はどこにあるのか、訊いてみた。

ストックマーク株式会社 代表取締役CEOの林 達氏

個人向けサービスの蓄積をベースに大企業向けに方向転換

 創業した2016年4月時点では現在のようにエンタープライズではなく、コンシューマ市場をターゲットとしていた同社。

 「かつてない情報過多となっている現在、アプリで提供されているようなニュースを蓄積するサービスを利用していても、情報量が多すぎてパンクするような状況。それをAIで解析し、効率的に情報を管理するアプリとして『StockMark』を提供したのがそもそもだった」(林氏)

 狙いに間違いはなかったようで、さっそく数万件のダウンロードがあったが、「明確な道筋があったわけではなかった」(林氏)という。だが同年の10月、ある企業ユーザーの声から流れが大きく傾いた。

 「先方の課題は、情報収集と社内共有にあった。広報部門でニュースをクリッピングし、競合の状況などを集めていたが、この情報を集めるだけで終わりになっている。集めた情報を、もっと社員教育に活きるよう活用したい、社員の意識改革を起こしたいというニーズがあった。社員の視点が社内にとどまっていることから、もっと社外を意識して情報に敏感になる必要があるというもの。すぐに、我々の技術を活用したプレゼン資料を作り提案をした」

 ストックマーク側が提案したのは、まずはAIでニュース収集のコストを大幅に削減することだった。従来は新聞切り抜きやウェブメディアの閲覧等人間の目でチェックしていたが、情報が爆発している現在、それでは追いつかない。国内外3万メディアのニュースから、企業、個人にあったニュースをAIがレコメンデーションする機能を開発した。

 クリッピングについても、一般的な情報を集めるのではなく、ユーザーの思考を正しく理解した自然言語処理をベースとしたアルゴリズムによって、その企業の求める情報を集めてくる。さらに、レコメンデーションによって情報収集が効率化されるだけにとどまらず、コメント共有がつくことで部下は自分の上司が何に注目しているのかを知ることになる。同じ社内でといっても、上司がどんなことを考えているのか、案外部下には伝わらない。そこで、情報を仕入れているニュースを共有することで、社内の方向性が定まることになるという。

 上記の共同開発が「Anews」の原型となり、顧客の声に寄り添いながら、プロダクト開発を進め、2017年4月にAnewsも正式リリースとなった。「設立一期目から、Anewsと並行して、大企業との共同開発案件を多く手がけるようになった。日本のスタートアップ企業には珍しく、社内メンバーに大企業出身のエンジニアが多かったことが幸いし、大企業の悩みを理解できた」

 ビジネスが起ち上がったことから、一期目から黒字化を実現。二期目も黒字とスタートアップとしては珍しい経営状態となった。「大手とのAIビジネスをする際には、AI技術、導入の入り口部分を担うコンサルティング能力、その企業に適したものにカスタマイズするSI技術の3つが必要。現在、30人弱の会社だが、この3つを担う人材がそろっている」と林氏はアピールする。

 そのような背景には、大手企業で進むデジタルトランスフォーメーションの波があった。

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