2019年07月05日09時00分

1500人が申し込んだ異例の「週一官僚」で経産省が得た採用ノウハウ

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(左から)経済産業省 製造産業局 航空機武器宇宙産業課 総括課長補佐(取材時) 海老原 史明氏、経済産業省 特許庁 審判官/デザイン経営プロジェクトチーム/前 企画調査課 企画班長 松本 要氏、経済産業省 大臣官房 秘書課 課長補佐 採用担当 八木 春香氏

頻繁な人事異動から、適材適所へ

 公務員は、2、3年おきに人事異動になるのが通例。多くの部署を経験することで、政策立案の“コア”を習得すること自体は非常に重要ではあるが、仕事を最後まで見届けられずやりがいを感じにくい、スペシャリストが育ちにくい、というデメリットもある。今は能力のある人材ほど、安定した終身雇用よりも転職でキャリアアップを選ぶ。そんな時代の流れに即し、経産省の人事採用にも大きな変化が起きている。

八木氏(以下、敬称略):個人の興味にかかわらず、数年おきに人事が指示する部署に異動するシステムは、終身雇用の代替として成り立つものです。でも今は、生涯ずっと同じ組織にいる時代ではなくなった。人事も対応していかなくては、優秀な人材はどんどんいなくなってしまいます。

 個人が組織の中で成したいことを1on1で聞くなど、まずはコミュニケーションをとるという当然のアプローチから始めつつ、個人が最もパフォーマンスを発揮できるよう、最適なポジションにうまく配置していくことが大事だと思います。経産省も、もちろん年功序列の仕組みも残っていますが、ここ2、3年でかなり変化が起きてきました。意外かもしれませんが、経産省では「挑戦し、実際に社会を変えている人が評価されるべき」という実力主義がごく当たり前に機能しています。最近、霞が関の中での管理職の最年少登用記録が更新されたのですが、それは経済産業省の女性の技術系職員です。これは経産省の風土をよく表していると思いますね。

公募や副業で外とつながりをもち、人材サイクルを回す

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経済産業省 大臣官房 秘書課 課長補佐 採用担当 八木 春香氏

八木:人材の還流という意味では、経済産業省でも、中途採用にどんどん取り組みたいと考えています。プロジェクトベースでの期間限定の採用も増やし、人の出入り・知識の融合を活発にしていきたいです。

海老原氏(以下、敬称略):経産省の人事採用は、管理職や海外赴任の公募など、かなり画期的なことをやっていますよね。

松本氏(以下、敬称略):特許庁のデザイン経営プロジェクトチームも庁内からの公募ベースです。庁内副業のような形で、本業がありつつ、プロジェクトベースで参加したい方が集まっています。特許庁は、知財を扱うのが前提のため専門性は高まりますが、どのように異なるベクトルを伸ばして視野を広げていくかが悩み。このため、企業や大学などさまざまな出向やインターンの機会が増えています。私がおふたりと知り合ったのは、たまたま経産省へ派遣する機会があったから。知財とは離れる機会が与えられたことで客観的な視点を持つことができましたし、企業経営や業界事情など興味やネットワークが広がり、強みにもなっています。

海老原:最近は、外の世界で第2、第3の名刺を持ち、専門性を磨きつつ、横を見ている若手が増えています。私も最近、石山アンジュさんが設立された「Public Meets Innovation」というイノベーターと政府関係者を集まるコミュニティーに参画させてもらっていますが、こうした横の広がりをもつことで、マインドセットを見直したり、新たなキャリアを積む場が今後どんどん増えてくるといいと思います。

松本:横の広がりと言えば、これまでスタートアップと知財の距離が遠かったので、スタートアップのスピード感や事業の実態に精通した知財の人材が少ないのが課題です。では育てよう、というのは簡単ですが、座学で育成できるかというと難しい。そこで、スタートアップと共に成長していく仕組みをつくっていきたい。

 その方法として考えているのが、「プロボノ」と「副業」です。社会貢献としてのプロボノとはまた違いますが、気軽な相談などを入り口としてスタートアップと知財人材の間のハードルを下げ、知財人材としてもスタートアップの実情を理解したり人脈をつくって自身のキャリアアップにもつなげていく。副業では、大企業の知財部門の人材が、スタートアップをサポートしつつ、派遣元にも人材の成長やネットワーク構築などのメリットがあるような仕組みづくりに取り組んでいます。

 外部とのコミュニケーションがより活発になっていくと、外の世界に魅入られて、優秀な人材が流出してしまうという言説もあるが、中央官庁においてはどうなのか。

八木:逆にエース級が集まる課の管理職も公募していますので、一度経産省の外に出てキャリアアップした方に戻ってきてもらえるとうれしいですね。アルムナイ採用のような形で、実は離職したOB・OGである職員とは、その後も仕事上の交流が続いていることも多いんです。

「週一官僚」の募集で得られた採用ノウハウ

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週一官僚募集

 政府主導で話題を集める「空飛ぶクルマ」プロジェクトでは、週に1度勤務する「週一官僚」を転職サイト「ビズリーチ」を通じて公募したところ、経産省への直接の問い合わせと合わせて約1500名もの応募があったという。

海老原:今回我々が求めていた人材は、コミュニティーマネージャーとパブリックリレーションズディレクターの2名。コミュニティーマネージャーは、地方のコミュニティーを回り、社会課題を発見して、地域の人と話し合いながら、ビジネスモデルを考えられる方。パブリックリレーションズディレクターは、PRのイロハをわかっていて、今後1、2年でどのように国民と対話をしていくか、国民の声をどのように反映していくか、というスキルを持っている方です。

 週5だと転職しなくてはならないので、いまやりたいことをやっている方は難しい。週1回で自分のスキルが使えるという働き方に魅力を感じてくれないかと思い実施してみましたが、想像以上に多くの方が応募してくださいました。週一という柔軟な働き方に加え、「空飛ぶクルマ」という言葉の持つワクワク感から応募していただいた方も多かったのかなと思います。多様なバックグラウンドをもつ魅力的な方が多く、選考にはかなり迷いました。

八木:多くの方から募集があったのは、ビズリーチという外部のメディアも使って公募したことも大きかったかと思います。今の経産省の採用は、ホームページに公募情報が載っている程度なので、今後はPRのやり方自体も、外部から知見を取り入れてていきたいです。官僚は眼中になかった人にも、経産省ってこんな面白い職場なの? と思ってもらえるような雰囲気を醸し出す仕掛けをつくりたいですね。

海老原:キャッチーで伝わる表現は、我々には足りない発想。私が勝手に尊敬する「世界ゆるスポーツ」などをプロデュースされている電通の澤田智洋さんと話をすると、すぐに面白いコンセプトや表現が生まれてくる。我々は遊び心のある表現がなかなか思いつかないので、こうしたところを助けてもらえると、同じ政策でももっとお茶の間に届きやすく、効果が倍増するかもしれませんね。

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世界ゆるスポーツ

霞が関のPR改革、やりたい人材が集まれるコミュニティーづくりへ

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経済産業省 特許庁 審判官/デザイン経営プロジェクトチーム/前 企画調査課 企画班長 松本 要氏

松本:まさにそういった気付きを与えるには、広報の力をどう有効に使えるか、これを常に考え試しています。これまで日本のスタートアップは知財に関心が薄かった、とすれば、特許庁がスタートアップ支援に取り組んでいること自体が気づきとなるはず。そのために、たとえば「STARTUPs×知財戦略」ロゴやチームTシャツを作りました。

海老原:オンラインメディアを活用して、面白いことをやっている人を取り上げて発信するのもいい方法かもしれません。メリットのひとつは、ボトムアップで政策をつくっている若手の思いを発信することで、政策サイドの意向が正しく伝わりやすくなること。もうひとつは、外に仲間ができることです。組織としての発信よりも、個人の顔が見えるほうが共感を得やすい。これまで顔の見える行政はタブー視されていましたが、霞が関全体として、PR改革が必要ではないかと思います。おそらく大企業も同じですよね。

八木:各省庁で面白いことをしている人、変わっている人を集めたコミュニティーをつくると、そこにジョインして自分も活躍したい、という若手が増えてくるかもしれません。

海老原:組織の採用にもインパクトがある。生き生きと活躍する若手を見た学生が入りたいと思ってくれたら、それが最大のメリットですね。

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経済産業省 製造産業局 航空機武器宇宙産業課 総括課長補佐(取材時) 海老原 史明氏

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 公務員という限定的な期間で、ある種の集中した時間の使い方が求められるなか、中央官庁でも外部のコミュニティーや働き方と歩調を合わせる動きが見えてきている。スタートアップとかかわる経産省・特許庁の現役官僚の生の声をお届けしてきた本鼎談だが、最後にそれぞれの目指す今後の目指す在り方を聞いた。官僚というある種“ここでしかやれない仕事”をどのようにアップデートしていくのか、今後の動きにも注目したい。

八木:メルカリ派遣は、霞が関をアップデートしていかないといけないということを実感したと同時に、霞が関・役人という仕事の重要性を、改めて痛感するきっかけにもりました。「そのまま転職しないの?」ってよく聞かれるんですが(笑)、逆に今回の派遣で、「私は役人として世の中に貢献したい」という思いと覚悟が深まったんです。自分に限界を設けず、行動あるのみ、あらゆることにどんどんチャレンジしていきたいと思います。

海老原:官民連携とよく言いますが、本来は民官連携。戦後は情報が集まる国主体の政策が多かったのですが、今は個々の企業や個人を後押しをするのが我々の役割です。さらにこれからは、民官の無用な垣根を取っ払い、皆がぐちゃぐちゃに混ざって社会をよくする世界にしていきたいです。

松本:今日この3人が集まって話ができたのも、つながりがあったから。やはり最後は、人とのネットワークが大事。人と出会う機会を増やし、ネットワークを拡げていきたい。IP BASEなどの取り組みから、オープンイノベーション2.0のように、関連するさまざまな組織・個人から、やりたい人材が自発的に集まり政策提言など課題解決を進めるコミュニティーが生まれる環境を構築していきたいです。

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