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メルティンMMI 關達也氏、リンクウィズ 吹野豪氏インタビュー

スタートアップ×ものづくりの先駆者が語る「ものづくり協業の作法」

2019年03月04日 11時00分更新

株式会社メルティンMMI 取締役CTOの關 達也氏(写真左)、リンクウィズ株式会社 代表取締役の吹野豪氏(写真右)

スタートアップ×ものづくりの先駆者が語る

 スタートアップというとソフトウェア中心の文化に思われがちだが、最近では肝心のデータを取得する手段としてハードウェアを手がける企業も少なくない。経済産業省では、スタートアップのものづくりを支援するためにStartup Factory構築事業を推進しているが、実際にものづくりに関わるスタートアップの実情はどのようなものだろうか。

 そこで今回は、ハードとソフト両方に携わる企業として、株式会社メルティンMMI(以下、MELTIN)取締役CTOの關 達也氏と、リンクウィズ株式会社 代表取締役の吹野豪氏に「スタートアップ×ものづくり」にまつわるお話、特に今回は大企業との協業を試みた際のエピソードを中心にお届けする。「スタートアップ×ものづくり」の領域において、ものづくり協業だけでなく、資金調達、販路開拓、業務提携等々、大企業との連携は不可欠だ。両社の貴重な経験はスタートアップだけでなく、協業相手となる諸企業にとっても示唆に富むものと言えるだろう。

遠隔操作の人型ロボットが未来を拓く――メルティンMMIの場合

 MELTINは、ひとたび事故が起きれば作業者の命が失われる、もしくは大ケガが珍しくない危険な作業を代替する人型ロボット「アバター」を開発している。流行りのAIを搭載した自律型ロボットではなく、あくまで人が遠隔操作するロボットだ。MELTINが作り出すのは人の体の延長としてのロボットであり、目指す先には、「義体やBrain Machine Interface(脳と機械をつなぐインターフェース)に代表されるサイボーグ技術の実現」があるという。


 いわゆる人型のロボットは数多くあるが、人間の代わりとしてはまだ役不足と關氏は語る。たとえば手の動き1つをとってみても、あらかじめ指定された物を指定された動きで持ち上げることは得意だが、様々な形状・材質の物を1つのアームで扱うことはきわめて難しい。

 対して人間の手は、5本の指を組み合わせることでペットボトルを掬い上げたり、キャップ部分を挟んで持ち上げたりと、さまざまな持ち方が可能だ。今のロボットにはこうした多様性が不足している。

 MELTINが世界一と自負するのは、こうした人型ロボットハンドの技術と経験値だ。

MELTIN取締役CTOの關 達也氏。ロボットの手は概ね「パワーはあるが動きが限られている」もしくは「緻密に動くがパワーが足りない」のいずれかで、人間の手のように、ある程度のパワーと滑らかさを両立させることは非常に難しいという。MELTINの強みはまさにこの点にある

 とはいえ、その域にたどり着くまでにはさまざまな苦労があった。Startup Factory構築事業について關氏は、「どこまでスタートアップと(協業する)企業のギャップを埋められるかに注目している。これらをマッチングするという話はよく聞くが、うまくマッチングしても視点が大きく異なる両者をすり合わるのは簡単ではなく、すれ違いが起こることが多い」と語る。

 たとえば、試作開発時の生産体制の生産体制のすれ違いだ。スタートアップとしては、最初期は試作になるので片手で数えられるレベルの少数生産を依頼したい。対して供給側は大規模な生産設備を持つがゆえにもっと大きな最小ロット数を設定している。この「数の差を埋められる体制」を構築できるかどうかが焦点の1つになるという。

 關氏は、マーケットに対する視点の違い、そこに至るまでのステップ、開発期間などについても言及し、「スタートアップが大企業の意思決定プロセスやスピード感に合わせ続けると、それが整った頃には金銭的な理由だけでなく、競合の出現などでスタートアップ側の存続が厳しくなってしまう」として、ギャップによるすれ違いが起こらない体制作りへの期待を表した。

 また、もう一つの苦労として、協業する企業との連携のやり方についても語った。最初になぁなぁで始めてしまい、両者の技術が完全に絡み合った後で契約の話が持ち上がり、契約に落とし込もうとしても線引きが困難な状況に陥った経験があるという。

 Startup Factory構築事業が作成する「契約ガイドライン」について、「協業の末に完成した技術に対して、スタートアップはその技術を自分たちだけで使いたいが、相手側はその技術をより大きな広いマーケットで売りたいと思うだろう。こうした事項を後から契約に落とし込むことは難しいので、協業前に契約するためのガイドラインの存在は重要」と語った。

「なんとか上手くやりましょう」が危ない理由

 前述の話の典型例として、協業相手主導で契約を進め貢献度に応じて知財に対するパーセンテージを決めるといった、経済力で圧倒的に勝る大企業ほど有利な局面に持ち込まれてしまうこともあると指摘。資金を提供する側からすれば当たり前のように感じられると思うが、経済力で劣るスタートアップとしては、「やるだけやって後から考えましょう」という甘言に乗ってしまうと、上手くいき始めたとき、あるいは上手くいかなくなったときに問題が発生するとのこと。

 よく「それについては一緒に“なんとか”上手くやりましょう」という話に落ち着くことがあるが、この“なんとか”が危ないと關氏は語る。現場同士では上手くやっていたとしても、会社組織の中で整理しようとしたとき、その“なんとか”がブラックホールのような「二度と出られない落とし穴」に変わることがあるというのだ。

 当然、相手側も自社の権利関係でトラブルを起こさないための当然の仕事ではあるので、どちらが悪いということではないが、曖昧な表現のまま進めている部分を放置すると大きなしっぺ返しがくる。關氏も「明日の交渉が失敗したら会社を畳むしかない」「この権利を持っていかれたら会社として存続できない」という危機を何度か経験したといい、最近は致命的なトラブルこそ少なくなったものの、「この観点が抜けていたか!」とハッとさせられる落とし穴には今でも遭遇するという。

 スタートアップにとっては、協業が上手くいき始めたところでギャップに気付いてすれ違ってしまうというのが一番残念な展開だ。貴重な時間を無駄にしてしまうことがないように、こうした一歩先を行くスタートアップの経験則に耳を傾けつつ、Startup Factory構築事業が作成する「契約ガイドライン」なども参考に、より失敗を少なくする工夫が必要だろう。

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