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11月のハイレゾ名盤:ビリー・ジョエル『52nd Street』、柴田淳『ブライニクル』など

2018年11月07日 11時00分更新

 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。音楽の秋に合った優秀録音をまとめました。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

『52nd Street』
Billy Joel

特選

 80年の第22回グラミーで、最優秀アルバム部門と最優秀男性ポップス歌手部門のダブル受賞に輝いた名作。e-onkyo musicでの初ハイレゾ。1982年に発売された、世界初のCDでもあった。世界遺産的な名作がハイレゾになったことを喜びたい。実際にハイレゾでも、名盤・名録音のポジションを獲得するに違いないハイクオリティさ、だ。

 「2.Honesty」は歌の輪郭がしっかりと描かれ、密度感が高く、剛性感も十分。Billy Joelの表現のストレートさと、メッセージ伝達力の強さがひしひしと伝わってくる。「3.My Life」は前進力の逞しさと、鮮鋭さが素晴らしい。曲の良さとハイレゾが合体すると、ここまでの高みの感動が味わえるとは。ちなみに「52nd Street」とは、マンハッタン52丁目のA&Rスタジオでレコーディングしたことに由来している。

FLAC:96kHz/24bit
Columbia、e-onkyo music

『ブライニクル』
柴田淳

特選

 「失恋ソングの女王」との令名も高い柴田淳の12作目のオリジナルアルバム。タイトルの『ブライニクル』とは、南極などで、海の中に0度以下の塩水が流れ込んだ時に、つらら形の凍結が起こる自然現象のこと。レコーディングでは、ブライニクルのように、回りを凍らせるような慄然とした思いで、歌ったという。そこでアルバム名が『ブライニクル』になった。

 「3.光る雲」。冒頭からフルオーケストラをバックに、思慮深い歌詞と歌い込みの綿密さ、そして少しのメランコリーを特徴とする柴田節が全開だ。オケの音が厚く、音場いっぱいに拡がる。センターにヴォーカルがくっきりと定位し、繊細さと剛毅さが両立した質感だ。「4.あなたが泣いてしまう時は」。シンプルにピアノとキーボードから始まり、序々にオーケストラの伴奏が加わる。ヴォーカルはニュアンス感が豊かで、特に子音部分で感情がたっぷりと表出される。暗闇を除くような柴田節が好きなファンにはたまらない魅力だろう。それは「5.夜明けの晩」のアカペラでも、たっぷりと堪能できる。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
VICTOR STUDIO HD-Sound、e-onkyo music

『王妃マリー・アントワネットの鍵盤教師
- クロード=ベニーニュ・バルバトル「クラヴサン曲集第1巻(全曲)」』

西山まりえ

特選

 チェンバロのスペシャリスト、西山まりえの8年ぶりのアルバム。王妃マリー・アントワネットの鍵盤教師、18世紀後期フランスの作曲家クロード=ベニーニュ・バルバトルの作品集だ。2009年のレコード・アカデミー賞「特別部門 録音」受賞作をリマスタリングした。オリジナルが192kHzt/24bit録音だけあり、実に鮮明で、鮮鋭な音が聴ける。音の立ち上がりが鋭く、音の立ち下がりも俊敏。歯切れの良さは抜群だ。ホールトーンも尖鋭に入っているが、それに邪魔されることなく、というより、響きが厚くても、それを突きぬけるような鋭敏で、ヴィヴットな音が空間に飛翔する。最近、響きに負ける鍵盤楽器録音が多いが、本作は明らかに勝っている。録音の神奈川県立相模湖交流センターの響きは透明度が高く、チェンバロの音色を深く受け止め、クリヤーなアンビエントを与えている。基準ピッチはA=392Hzと、ピリオドだ。

FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:192kHz/24bit、96kHz/24bit
OMF、e-onkyo music

『ショパン:ピアノ協奏曲第2番、ノクターン』
辻井伸行×アシュケナージ

推薦

 ショパン:ピアノ協奏曲第2番第1楽章の冒頭から、メローでセンチメンタルだ。夢見るような、スウィートな音色がベルリン・ドイツ交響楽団から聴ける。ベルリンフィルハーモニーでの録音だが、このホールで録ったベルリン・フィルの自社レコーディングのアンビエントとはまったく違うのが面白い。このホールは録音ディレクションによって、高解像度にも、ホールトーン重視にもなるが、本録音は明らかに後者を指向し、ショパンの持つ美しく、ドリーミーなテクスチャーを大事にしている。ピアノはクリヤーで、音色がきれい。響きもたっぷりと与えられている。辻井は歌いがたいへん美しい。ピアノ協奏曲第2番は2017年5月15日 、ベルリン、フィルハーモニーでのライヴ録音。

FLAC:96kHz/24bit
WAV:96kHz/24bit
avex-CLASSICS、e-onkyo music

『[BEYOND THE STANDARD] チャイコフスキー: 交響曲第6番「悲愴」、武満徹: 系図 (96kHz/24bit)』
アンドレア・バッティストーニ 、東京フィルハーモニー交響楽団 、のん

推薦

 クラシックのスタンダードと日本の現代音楽とをカプリングする、ユニークな切り口のBEYOND THE STANDARDシリーズ第2弾。「悲愴」は基本的にバッティストーニらしい推進力と切れ味とエネルギー感が感じられるが、音調的にはフラットだ。オペラシティホールの豊潤なホールトーンを採り入れ、一階の後ろで聴いているような距離感の臨場感だ。武満徹の音楽詩「系図(Family Tree)」の、のんのナレーションは、オケの音調と上手くバランスしている。武満のカラフルで絢爛なオーケストレーションと、きれいに融合している。美しい音楽だ。

FLAC:96kHz/24bit
WAV:96kHz/24bit
日本コロムビア、e-onkyo music

『オブリビオン ~福田進一ギター・ディスカバリー・シリーズ IV~』
小暮浩史

推薦

 1988年、東京都生まれ。18歳から本格的にクラシックギターを始め、2017年の「東京国際ギターコンクール」で優勝した遅咲きの小暮浩史。テクニックの鋭さに加え、歌いの情感が深い。センター音像は中庸なサイズで、音調には人工味が感じられない、ナチュラルなもの。眼前に音像が浮かぶが、それは輪郭を強調したものではなく、マイスターミュージックならではの、自然で美しいすべらかな質感だ。しっとりとした、アコースティックな味わいが、とても素敵だ。

FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit
マイスターミュージック、e-onkyo music

『Black Eyes』
土岐英史

推薦

 サックスプレーヤー土岐英史の新作。ビンテージ録音機材と最新デジタル・マイクとの新旧コンビネーションがセールスポイント。つまりビンテージとハイレゾの組み合わせであり、ビンテージの持つ色濃い音調が、そのままハイファイに収録されている。エンジニアに迎えたベーシスト、塩田哲嗣のテイストが色濃い、ハイデンシティで、脂っこい音調だ。サックスの伸びも見事で、歌いの生々しさを体で感じることができる。ピアノ、サツクス、ベース、ドラムスの各楽器が、音像的に音調的に自己をしっかりと主張するが、それらが混濁することなく、クリヤーに屹立し、同時に融合する様はとてもエキサイティング。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
Days of Delight、e-onkyo music

『TO YOU -夢伝説- (2018 リマスターVer.)』
スターダスト・レビュー

推薦

 スターダスト・レビューがいかに、ポップでわくわくしたグループだったかが分かる、1984年7月に発売された初期ベストアルバム。オリジナルアナログマスターからハイレゾ化した。「1.TO YOU」はバックもヴォーカルもコーラスも弾け、爆発するようなポップ。鮮明に、輪郭が明瞭だ。個々の音像を分散させず、すべての音要素をセンターに凝縮し、逞しい進行力と力感を聴かせる。速いスピードで、くっきりと前に押し出す。「11.夢伝説 (Live・1989年7月23日収録)」は、ライブの濃いアンビエントをぶっとばすような、尖鋭で、闇を切り裂くような切れ味のヴォーカルと、バンドサウンドの厚さが快感。

FLAC:96kHz/24bit、MQA Studio:96kHz/24bit
ワーナーミュージック・ジャパン、e-onkyo music

『O PATO』
纐纈歩美

推薦

 女流サックスの纐纈(こけつ)歩美、初のボサノヴァ・アルバム。小野リサがプロデュースとサイドヴォーカルを担当している。「1.Capim」は小野リサのスキャットに招かれ、纐纈が伸びやかで、軽快なボッサをサックスで歌う。ボサノバリズムが音調的に明瞭に再現されるのがハイレゾの威力。この躍動のリズムに載ったサックスの音色が気持ち良い。「2.Corcovado」はけだるさ、「3.Nick Bar」はサックス低域の偉容感とピアノとの対話、「4.The Night Has A Thousand Eyes」は弾けるような躍動感、「9.Wave」はしっとりした濃密な歌い……が、楽しめた。素敵なボサノバアルバムだ。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
M&I、e-onkyo music

『Gradation in Love』
中嶋ユキノ

推薦

 浜田省吾のツアーバンドなど、コンサートのバッキングボーカルやレコーディングコーラスなどで活躍中のシンガーソングライター中嶋ユキノ。浜田省吾プロデュースによるオリジナルアルバム、第3弾。ひじょうに明瞭で明快なサウンドだ。「1.Magenta Skyline」ではシンセの弦から始まり、すぐに「2.もう二度と」に入る。かなり大きなヴォーカル音像からの語りのメッセージ性が強い。輪郭がひじょうに強く、前に押し出すような凝縮感の強いサウンドだ。「3.冬になると」はバンドサウンドが音場いっぱいに広がり、ヴォーカルはセンターに明確定位し、テンションの強い音像が疾走する。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Labels Inc、e-onkyo music

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