週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

シェアリングエコノミー協会「Meetup Vol.9」レポート

“信用経済先進国”中国に学ぶ、日本のシェアサービスの可能性

 物やサービスなどを共有することで形作られるシェアリングエコノミー。2017年には2660億円という市場規模となっているシェアリングエコノミーではあるが、シェア先進国と呼ばれる中国では2016年の時点で実に83兆円という規模にまで達している。今回、シェアリングエコノミー協会では、今年2回目の開催となる「Meetup Vol.9」を開催し、中国のシェアサービス企業の視察報告や、パネルディスカッションを行ない、その学ぶべき点などを紹介した。

数多くのシェアサービスが紹介された「Meetup Vol.9」

スピード感を持って急成長している中国のシェアリングエコノミー

 まず、7月始めに中国のシェアサービスを視察してきた、シェアリングエコノミー協会 事務局長の佐別当隆志氏が登壇。現地で複数の企業を訪問し、そこで見聞きした情報が報告された。

シェアリングエコノミー協会 事務局長 佐別当隆志氏

 最初に紹介されたのは、社員数400人、ホスト14万人、利用者20万人という、家事代行を行なう企業「阿姨来了」。この企業では、アナログの世界で担保されていなかった個人の信用をシェアリングによって確保し、安心安全ということで急成長している。

 ホストを育てるために大学を作り、そこを卒業しないとホストになれない形となっており、料理やベッドメイキングなどの27のタスクについて、その人のスキルチェックをした上で登録している。

家政婦教育のための阿姨大学。家政婦からは活躍の場が増えたと喜ばれているとのこと

 全世界で110万軒、中国だけでも80万軒の登録があるという民泊の「途家」。グループには4000人の社員がおり、9000万ユーザー、アプリは1.8億ダウンロードされているとのこと。佐別当氏は、その規模感、スピード感に対し、日本とは圧倒的な違いがあると感じたとのこと。

途家の社内。一昔前の中国企業とは違い、おしゃれな空間で、働きやすさもしっかり考えられた作りになっている

 ミールシェアの「Home-Cooked」は、年間480万食のマッチングを行なっている。ユーザー数は300万人で、ホストは2万人。中国ではミールシェアに関する法律はないが、トラブルも特に起こっていないとのこと。ホストは自分の得意な料理を仕事にできてうれしいとコメントしている。

中国では油の問題など、飲食店よりも家で食べるほうが安全で、シェアサービスのほうが品質が高いのだそうだ

 自転車のシェアサービスで急成長している「ofo」は、世界で1600万台の自転車を有し、1日3200万回も利用されている企業。自転車自体も3年間で10回以上バージョンアップし、パンクしないタイヤの自転車などを導入している。

創業3年で大きく成長した「ofo」。古くなった自転車は国連に寄付され、アフリカで利用されている

 タクシーのシェアサービスを行なう「DiDi」は創業6年目の企業。個人ドライバー2100万人、タクシードライバー200万人のうち90%が提携している。そのうち電気自動車が26万台で、2020年までに100万台にするといった、環境問題対策も意識している。

長距離ライドシェアも行なっており、春節時には3070万人が利用した

 佐別当氏は、中国ではシェアサービスのほうが安心であったり、信頼が高く、電子決済の機能が整っているので信頼情報もたまりやすいと述べ、半分以上のシェアサービス企業が起業して1年半程度で、本当にスピード感のある成長を遂げていることを報告し、視察報告を終えた。

パネルディスカッション「“信用経済先進国”中国に学ぶ、日本の可能性」

 続いて行なわれたパネルディスカッションでは、中国のすごさや学ぶべき点などについて意見交換が行なわれた。シェアリングエコノミー協会 代表理事の上田祐司氏がモデレータを務め、パネリストとしてヤフー株式会社 Z事業本部の高田徹氏、ランサーズ株式会社 取締役 執行役員の曽根秀晶氏、株式会社mellow 代表取締役の柏谷泰行氏が登壇した。

左からヤフー 高田徹氏、ランサーズ 曽根秀晶氏、mellow 柏谷泰行氏、シェアリングエコノミー協会 上田祐司氏

 中国の信用経済の根底となっているのはセサミクレジットという、個人の信用状況を示す指数。高田氏の解説では、日々の行動をベースに、それを個人に適用したもので、そのスコアによって人の信用が決められてしまうという。スコアが低ければ結婚相談所で紹介してもらえないということもあるのだそうだ。

 柏谷氏は上海で乗ったDiDiのタクシーで、その信用経済の側面を見たと語る。とてもサービスがよく、水が用意してあったり、車内の温度を気にしたり、とてもクリーンな環境で日本のタクシーよりもよかったのだそうだ。それも、お金を得るためにいいサービスをするという、スコアが背景にあるからこそと分析した。

 最近はスコアリングエコノミーという言葉があると語ったのは曽根氏。信用のおける人がサービスを行なっているから、サプライヤー側の信用を見える化をすることが重要で、中国でシェアリングエコノミーが広まっている理由でもあるという。それに対し高田氏は、中国は評価の結果でサービスが変わる国といい、日本では点数がつかなくてもサービスが受けられるのが違う点だと指摘する。

 それを踏まえ、中国で信用経済が発達したのは国民同士が信用しあっていないからだという柏谷氏が、電子決済が発達したのも、リアルマネーを信じていないからとであって、そこが日本とは違うと分析すると、高田氏も日本は中国とは違うスコアの作り方を考えないといけないと述べ、中国のセサミクレジットは減点方式だが、日本では加点方式のほうが合うという考え方を示した。

それぞれの体験などから意見を交換しあうパネリスト

 中国のすごさという点では、高田氏がそのスケールについて数字の桁が違うと指摘。日本では数百人のエンジニアがいればすごいが、中国では数千人抱えているという。そして、思いついたらすぐ取りかかり、トライ&エラーでサービスを作る速度が非常に速いことを示すと、柏谷氏も荒くてもいいからとにかくやってみる精神は大事で、日本企業にとっても重要な部分だと語り、高田氏もトライする環境整備をしていかないといけないと同調した。

 中国は信用経済大国としてシェアリングエコノミーで先行しているが、日本においてはそのまま導入するのではなく、スキルなどをプラスに反映できるような仕組み作りが必要で、先ほどの視察報告やここでの討論などを参考にしてほしいとして、パネルディスカッションは終了した。

ピカッと光るシェアサービスピッチ! 各社が描く未来とサービス

 パネルディスカッションのあとは、シェアサービスを手がけている4社から、そのサービスの紹介が行なわれた。

●ランニングをアクティビティに変えるRuntrip

 Runtripは、世界中の道を地域資源にかえるサービスで、ランナーにロケーションとコミュニティーを提供している。世界中のランナーが自分の地域の道を投稿し、ほかのランナーがそれを検索できる。

 コミュニティーとしてはRuntrip viaというイベントを運営。スタートラインが決まっているマラソンとは違い、ゴールと時間だけが決まっていて、いつどこから走り始めてもいいというのが特徴だ。ランナーは好きなところからアプリを起動して、観光スポットなどを回りながら走る。ほかのランナーの位置情報がリアルタイムで取得できるため、途中で合流しながら一緒にゴールをする。ゴール後は主催者次第で、ライブやトークショー、あるいは朝食を提供するといったお楽しみがついている。

 この事例でのメリットとしては、交通規制が不要なので、安価かつ高頻度に開催できることにある。この仕組みを自治体や飲食店に提供し、最近では福利厚生の一環として企業が取り入れているところもあるそうだ。

株式会社ラントリップ 代表取締役 大森英一郎氏

Runtrip viaは、アプリ片手にゴールを目指す、競争のないランイベント

ランナーに特典を提供することで送客する試みも。スターバックスは荷物預かりサービスでタイアップ

●物流版Uberを目指すPickGo

 25兆円という市場規模の物流業界の81%を占めるトラック事業者。その中の99.9%である中小企業の課題を解決し、物流版Uberを目指すサービスが「PickGo」。

 トラック会社は2次受け3次受けどころか、ひどい場合には6次受けということもあり、当然のことながら下請けになればなるほど収入が低い。そしてシステム投資ができないため、電話とFAXだけというアナログな環境であり、人手不足である。そこでPickGoでは、全国の荷主とドライバーをマッチングさせ、物を運びたい荷主と収入を高めたいドライバーをつないでいる。マッチング速度は平均で1分31秒で、都市部であれば10秒以内にマッチングする。

 今後は、現在125cc以上のエンジンを積んだ車では法律上運送などができないが、それを規制緩和して、一般人が運べるようにして、物流版Uberを実現したいと考えている。

CBcloud株式会社 取締役CSO 皆川拓也氏

全国の荷主はインターネットで簡単に探すことができる

登録ドライバーは5000名以上で、月間250~300名が新規登録している

●24時間365日、医師に健康相談ができる「LEBER」

 医療のマッチングサービスである「LEBER」は、登録された医師が隙間時間で即座に答えてくれるサービス。

 医師が作った問診に答えると、最速3分で具体的なアドバイスが返ってくる。医師は顔も実名も提示しているので安心感もある。アドバイスには症状に対する市販薬の紹介があり、セルフメディケーションができ、必要であれば医療機関を案内、地図も表示される。

 体調不良のまま出社するコストは、1人あたり年間32万3000円のコストを企業が支払っていることに換算できるという。福利厚生の一環としてLEBERを導入することで、そのような問題解決を狙っている。また、本人意外に家族を4人まで月200円で登録でき、相談し放題となっている。

株式会社AGREE CSO 多賀世納氏

登録した医師は多岐にわたっているので、当直の合間に答えるなど、24時間対応できる

セルフメディケーションを推進することで、行政は医療費を削減することができる

●フードロス問題を解決する「TABETE」

 今後、深刻な問題に発展する可能性のあるフードロス。現在日本では、国民1人あたりお茶碗1杯ずつ毎日捨てている。この解決にチャレンジしているのが「TABETE」だ。

 まだ安全に、おいしく食べられる、品質に問題のない食べ物を、買ってくれるユーザーにつなぐサービス。店側が売りたい食べ物の情報をアップし、それを見たユーザーが事前決済で購入し、指定した時間に取りに行くサービスとなっている。

 店側は手数料を支払う必要はあるが、基本的にはコストなしで、ユーザー側は平均30%安く購入することができる。急な天候変動などによって食べ物を売り切ることができない事態など、完全な注文予測はできないが、このTABETEによって少しでも食品の無駄をなくしたい。

株式会社コークッキング 代表取締役 川越一磨氏

日本全体でムダにしている食料は全世界の援助量の約2倍にも当たる

ITの力でフードロス問題を解決。会員数は3万6000人、登録店舗が180軒。現在Web版のみだが、スマホアプリを9月にリリース予定となっている

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう