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軽スポーツのコンプリートカー「S660 Modulo X」をテストドライブ!

2018年07月21日 15時00分更新

ホンダの軽スポーツ「S660」
買ってからイジるか、イジられたものを買うか?

 突然だが、以前自動車のチューニング業界の方に話を伺った時、以下のような話を聞いた。

 「絶対的な数でいえば86/BRZのパーツが売れています。ですが車両の出荷台数とチューニング比率でいえば、ホンダS660の方が高いです。似たような車にNDロードスターがありますが、こちらはほとんど売れていません……」

 確かにホンダが時々サーキットで行なうS660オーナーズパレードをはじめ、オフ会などに顔を出すとノーマル状態のS660の姿はあまり見かけない。多くのS660は、マフラーやホイールなど、何かしら変更が加えられている。

 筆者もその一人で、リアにタイムアタッカー御用達「VOLTEX」のカーボン製ウイングを取り付け、「HKS」の車高調整式サスペンションにマフラー、エアフィルター、ブレーキパッドを「ENDLESS」のスポーツタイプへと交換し、オリジナルな1台へと仕上げている。

筆者のS660

 思えばS660の発売当初からホンダアクセスのModuloブランドが各種アフターパーツを発売しており、カスタマイズして自分好みのS660を作り上げるのはこの車種にとっては必然の流れだったのかもしれない。

走りがさらに軽快に!
コンプリートカー「S660 Modulo X」を試乗レビュー

 そのようなカスタム率の高いS660ユーザーにとって気になる1台がホンダアクセスから登場した。同社コンプリートカーシリーズ「Modulo X」の5代目にして、初のスポーツカー「S660 Modulo X」(285万120円)だ。前置きが長くなったが、今回はこのクルマをレビューする。

S660 Modulo X

 クルマに詳しくない人からすると、軽自動車に285万円という価格は驚くかもしれない。しかし、S660はもともとの車両本体価格が約220万円と軽自動車にしては高額。さらにディーラーなどで販売するModuloブランドのサスペンションやホイール、ブレーキ、エアロパーツなどをすべて取り付けると工賃込みで100万円を超える。そう考えるとチューニングをするのなら、最初から約60万円高のメーカーコンプリートを買ってしまった方が安上がりだ。筆者も気づけばすでに100万円近い金額をS660につぎ込んでいる……。

 では、この100万円相当の追加装備を紹介しよう。変更されているのは、エアロパーツとサスペンション、ホイール、ブレーキ、そして内装だ。エンジン回りやミッションなどは変更されていない。この中でホイールとブレーキ(ローターとパッド)は既に発売されているもの。エアロパーツのうち、リアロアバンパーも既発売だ。一方で、一番目を惹くフロントバンパーは、相当手が込んでおり、各所にボルテックス・ジェネレーターを配置し、空気の流れをコントロールしている。

 これにともない、電動式リアウイングにはガーニーフラップが設けられた。ホンダアクセスによると、「S660は走行中空気の力で前荷重になる。この荷重配分を四輪均等とするため」とのことだ。その話を聞きながらリアに大型ウイングを取り付けている筆者は、自分のチューニングの方向性が正しかったと、ほくそ笑んでしまった。

 車内はワインレッドを差し色にした落着きと華やかさが両立した空間。スポーツモデルというと「派手な赤」というモデルが多い中で、この内装は大歓迎だ。こういう方が飽きがこないだろう。

 気になるのは、どうしてS660の販売開始3年後にコンプリートカーが出てきたのか、ということ。悪い言い方をすれば「後出しジャンケン」だ。最初から出ていればこっちを買うのに、という恨み節の一つでも言いたくなる。話を聞くと企画スタートがS660発売してしばらく経ってからということ、そして相当な走り込みを行なったため、時間がかかったからだという。

コンプリートカーだから良くて当たり前
大事なのはその先!

 アフターパーツメーカーから数多くのカスタムパーツが出てからの登場は、設計にあたり設計陣が各社アフターパーツを入手して研究していることは想像に難しくない。これは「良くて当たり前」である。問題は「どう良いのか?」だ。

 結論から先に言えば、ノーマルのS660とModulo Xとの比較は意味をなさない。すべての面において「良い」からだ。本来S660があるべき姿がModulo Xにはあり、ネガティブな感想を持つことはない。高級軽自動車としてあるべき乗り心地と、スポーツ性能がModulo Xにはあり、特にワインディングロードでの気持ちよさは他社の車にも存在しない。

 驚くべきは、なぜかロードノイズが少なく感じたこと。とてもフレンドリーでありながら、少しラグジュアリーになった感じだ。言い換えれば、S660が大人になったと言ってもいい。乗りながらも、乗った後も「いい車だなぁ」と心底思い、試乗後「いかがでしたか?」と尋ねてきたメーカー広報担当者に「最初からコレで売ってくれよ!」と叫んでしまった……。

 問題はライトチューン済みのS660との比較だ。オーナーにとって、S660 Modulo Xが乗り換えたくなる車かどうかだ。筆者はHKSの車高調HIPERMAXⅣGTを取り付けている。試乗にあたり、バネレートや車高、減衰力設定は工場出荷時に戻して試乗に臨んだ。HKSの脚は、ノーマルのS660に比べると、バネの硬さはあるものの、微振動は減る傾向で、大きな段差でも1回の揺り戻しで振動が収束する。

 Modulo Xは、脚そのものがとても柔らかいうえに、揺り戻しの幅も時間も少なくてフラットな印象だ。その代わりModulo Xはコーナーで多少ロールする傾向なのだが「車が今、どんな状態なのか」わかりやすく無理をしない。それに比べるとHKS脚は無理をする。気持ちよく速いModulo脚と無理してでも速いHKS脚。この差が「走り込みの差」なのだろうか。やはりModuloは後出しジャンケンだ。ズルい!

 Moduloはスムースすぎるが故に走りながら笑顔になるものの、どれだけ速く走ろうとしてもオーナーは必死の形相にはなりにくい。言い換えるなら、Modulo Xには心が昂ぶらせる何かが足りない。それに比べてHKS脚は常に臨戦態勢であり、ドライバーに対して「お前、わかってるよな?」というプレッシャーをかけてくる。これが男の闘争心に火をつけ、マインドを刺激する。だが、いつも戦いたいわけではない。たまにはゆったりのんびり走りたい時もある。速く走りたい気分の時は速く、のんびりしたい時はのんびり。Modulo Xは、その塩梅がものすごく上手だ。

 以前、何名かのマクラーレンユーザーに「なぜにフェラーリやランボルギーニではなくマクラーレンを選んだのか」と聞いたことがあるのだが、一様に「乗り心地がいいから」という答えが返ってきたことに筆者は驚いた。

S660の到達点のひとつが「S660 Modulo X」

 速くて乗り心地がよいのがこれからあるべきスポーツカーのカタチで、さらに「いい物を買った」という上質感がModulo Xの求めるところなのだろう。個人ユーザーが頑張ってチューニングしても得られない領域に、このコンプリートカーはある。プラス約60万円は、単なるパーツ代だけではない。エンジニアたちが走り込み、セッティングした結果も含まれているのだ。

 クルマは所有者を映す鏡だ。冒頭に書いたS660をカスタマイズという行為は、車を楽しんでいるという写し鏡といえる。S660 Modulo Xを選択する人は、きっといろいろなクルマに乗ってきた、酸いも甘いもわかっている大人だろう。そういう人にこそModulo Xは似合うと、筆者は感じた。

 そして現在S660をお持ちで、かつ脚回りをいじっている人にこそ、機会があれば一度乗ってほしい。S660チューニングの極点にこのModulo Xがあり、時期はともかく、いつか乗り換えたいと思うことだろう。それまでS660が愛され続け、生産されることを願わずにはいられない。

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