週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

Wink、宇多田、SHANTIほか。録音方法にもこだわったアルバムも

麻倉推薦:超ユニークで、超高音質な山中千尋の新アルバムなど

2018年07月08日 12時00分更新

 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。6月の優秀録音をお届けしています。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

『Both Directions At Once: The Lost Album[Deluxe Version]』
ジョン・コルトレーン

 ジョン・コルトレーン(1926-1967)の発掘新盤だ。1963年3月6日、名盤『ジョン・コルトレーン・アンド・ジョニー・ハートマン』の収録前日のセッション。ニュージャージーのヴァン・ゲルダー・スタジオで録音された。スタジオのセッション記録には記載されているものの、これまで海賊盤なしの、まったく新発掘というのも大貴重だ。マッコイ・タイナー~ジミー・ギャリソン~エルヴィン・ジョーンズの「ゴールテン・カルテット」の演奏も音も感動的。

 冒頭の「アンタイトルド・オリジナル11383」。素晴らしく新鮮で、ひじょうにハイファイだ。曇りが一点もないようなクリヤーで、見渡しのよいサウンド。ベースが明確にリズムを刻み、弾力感も格別だ。ピアノはややくぐもるが、ナチュラルさをキープ。コルトレーンのサックスは偉容でヴィヴット。有名なタイトルの前日セッションだけあり、まさに脂の乗りきった、粘度が高く、同時に爽快なるパフォーマンスを聴かせる。弓引きのベースのスケールの大きさと、低音感の充実度には驚かされる。

FLAC:192kHz/24bit
Verve、e-onkyo music

『ユートピア』
山中千尋

 超ユニークで、超高音質なアルバム。バダジェフスカ「乙女の祈り」、サン・サーンス「白鳥」、スクリァービン「ピアノ・ソナタ第4番」、バッハ「管弦楽組曲第2番からバディネリ~リコシェ」、シューベルト「アルペジオーネ・ソナタ」、ブラームス「ハンガリー舞曲第5番」、ドヴォルザーク「わが母の教え給いし歌」──という曲目を見ると、チェロ、もしくはヴァイオリンのクラシック編曲ものと思ってしまうが、実は世界的なジャズ・ピアニスト山中千尋のニューアルバム『ユートピア』の曲目だ。クラシック名曲のジャズ編曲は、これまでもたくさんあるが、山中編曲はまさに意外性の連続で、たいへん楽しい。

 「ビルボード・ジャパン」の山中千尋『ユートピア』インタビューは、音楽作りの真意が分かって、とても面白い。 山中は「作曲家が作った最初の音は残っていないし、彼らは思いつくメロディを弾いて、記譜して、何度も書き直していたんだと思うんですよね(中略)。今回の場合は変えすぎてしまったと思うんですけど、自分自身のものにしていく面白さがありました。(中略)私の中では曲を素材として全く別なものを再構築してオリジナルのアルバムにしたつもりです」。

 音質が素晴らしい。クリヤーで、伸びが上々で、疾走溢れるスピード感が上手く捉えられている。タッチの強靭さ、フレージングの雄大さ、輝く音色感……などの山中の音の記号性が、明瞭に聴き取れる。クラシック名曲をジャズに編曲して、これほど変わるかに刮目。ピアノの愛するべきピース作品、「乙女の祈り」が、こんなにハイスピードで、駆け巡るスポーツ曲になるとは驚き。原曲は変ホ長調だが、山中アレンジでは、どんどん別の調に転調していく。作曲者のバダジェフスカもさぞ、びっくりだろう。サン・サーンス「白鳥」も、湖上を白鳥が群を成してマラソンしているようなド迫力。「管弦楽組曲第2番からバディネリ~リコシェ」はフルートの名曲で、比較的原曲のイメージがある。シューベルトの名作「アルペジオーネ・ソナタ」は、哀愁のシティブルースに変身。

FLAC:96kHz/24bit
Universal Music、e-onkyo music

『シューマン・アルバム~ダヴィッド同盟舞曲集&フモレスケ』
ジャン=マルク・ルイサダ

 現存するピアニストでもっとも音が美しいジャン=マルク・ルイサダがショパンと共に「生涯の友」にしているシューマンのアルバム。1988年に仏ハーモニック・レコーズに「ダヴィッド同盟舞曲集」「フモレスケ」の2曲を録音して以来、同曲の30年ぶりの再録だ。「トロイメライ」(「子供の情景」第7曲)「メロディ」 (「子供のためのアルバム」第1曲)「楽しい農夫」(「子供のためのアルバム」第10曲)という、もっとも人口に膾炙しているシューマン名曲も収めた。

 ロマンの極みならではの熱い感情表出をルイサダ流の美音と、繊細さ、そしてダイナミックな表情で描く。21曲目「トロイメライ」の一音一音に込めた思いの深さが、DSDの優秀録音からダイレクトに伝わってくる。メロディの円滑な流れとロマンティックな和声の融合を、これほど繊細に美しく描けるピアニストは他に、いないだろう。「楽しい農夫」はピアノ発表会の定番だが、これほど深みと濃密さを聴かせてくれるのも稀な体験だ。

DSF:2.8MHz/1bit
Sony Music Labeles、e-onkyo music

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事