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Philips HealthWorks日本代表選考事前説明会

フィリップスが日本のスタートアップを募集 狙いは病院・診断の外側

2018年06月05日 08時00分更新

 ヘルスケア製品・医療関連機器をグローバルに展開するPhilips(フィリップス)によるアクセラレータプログラム「Philips HealthWorks」の日本代表選考事前説明会が6月1日に開催された。

 世界で4ヵ所ある同社のイノベーションセンター(米国、オランダ、インド、中国)が主催・運営する、ライフスタイルを変えるようなソリューション、ビジネスアイデアを求める12週間のプログラムの枠について、日本からも募集を行なう。

昨年は全世界1050の応募から、審査の結果5つのスタートアップが選ばれた

 フィリップス・ジャパンの堤浩之代表取締役社長は、「グローバルでのプログラムは昨年からで日本は今年初。アジアパシフィックで5つの会社と事業展開が採択され、米国、オランダ、インド、中国それぞれの研究期間で支援を行なう。日本のスタートアップでぜひその枠をとってほしい。積極的な参画を待っている」と冒頭に語った。

フィリップス・ジャパン 代表取締役社長 堤浩之氏

病院や診断の外・日常生活も含めた募集

 募集テーマは「AI for Healthcare」。だが、AI専業の企業を募集するわけではなく、病院や診察室の外での日常のデータ取得やその仕組み、機器自体など求める企業は幅広いという。

 予防面から個人にアプローチするような医療におけるケアへのしやすさやコスト面での価値創出、また高齢化や慢性疾患への対応、そして患者主体の健康管理、さらにはデジタル化による統合ソリューションといった流れは、フィリップスとしても重視しているHealthTechでのトレンドだ。病院の中ではなく外、診断の外・日常生活も含め、ある意味広い枠でのベンチャー募集となっている。

 応募締め切りは6月15日までだが、提出するのは、企業概要とピッチ資料(あれば)でOK。審査などを経て、最終選考への参加は8月上旬となる。選考に進んだ場合はピッチを行ない、最終決定へ進む。その後、実施期間となる9月24日~12月13日の12週間、グローバルな環境の中で検証などを行ない、最終的にビジネスとして成り立たせるのがゴールとなる。

 プログラムに採択されれば、直接的な投資のほか、データサイエンティストやエンジニアの連携、日本では実証が難しいプログラムをグローバルでオペレーションできる点など人、モノ、カネ、そして場所の支援がついてくる。

 だが発表会ではアクセラレータプログラムだけでなく、協業・共創の可能性をもってコンタクトが実施できるとのコメントもあった。フィリップスやその先の関係機関が持っているデータやアセットがスタートアップには非常に価値の高い可能性もあれば、プログラムとは別で話が進む可能性もあるようだ。

他因子かつ確率的な治療とICTの相性

トークセッションのメンバー。スタートアップスタジオ クオンタムで新規事業創出を支援する井上裕太氏(右)が聞き手となり、ジャパンバイオデザインでディレクターを務める前田祐二郎氏(左)、フィリップス・ジャパン 戦略企画・事業開発統括本部長相澤仁氏(中央)が応えてくれた

 説明会の中で開かれたトークセッションでは、ヘルスケアとテクノロジーの最新事情、展望が語られた。今回の取り組みの大枠は何か。

 「『なぜデジタルなのか?』という部分がある。世界的に見ても過去から比べると死亡原因は変遷しており、慢性疾患が中心になっている。いい状態から悪い状態が連続的に変わっているため、感染症といったわかりやすく直す・直さないの治療ではすでにない。多面的にいろんなデータ分析を行ない、個人への導きが必要となる。つまり、他因子かつ確率的なので、ICTとの相性がいい。そして、その洞察が出せるのがAIとなる」(相澤氏)

 HealthTechにおいては、医療ならではの厳密さが求められる統計学的な部分がデータとAIを使って本格化する。これには、医療従事者からの期待もあるようだ。だがそこには、病院の外のデータも求められる。「特に重要なのが、予防と在宅。AIを駆使するには、他因子かつ確率論。医学の常識・論理から外れたものが出てくるのではないか。そこにアイデアをもらってのせてつくっていきたい」と相澤氏は語った。

 医師の経験がある前田氏も、「患者が家で何しているかを医療側では判断できない。日々の生活考慮は別。患者の状態を医者は知らない。さらに言えば、大量に取得するデータを医師は判断に使えない。向き合う時間も限りがある。診断から治療までの間に治療の空白が生まれ、そこにフラストレーションを感じている医師はいる」と述べた。

 このような「医療の空白」を含めると、食やライフスタイルまでも含まれた幅広い企業のかかわりが考えられる。

 「バイタルデータといった部分だけでなく、AIの適用領域は広い。たとえば、米国のベンチャーが認知症予測にクレジットカードの利用履歴を見ている。同じ商品を通販で買い続けるなど、不正使用を見つけるAIから、認知症検知への転用ができる。因果律はないが、強烈な相関があったという形が重要。そういった部分はいろいろなアイデアがある。直球だけではない。そのような気づきをぜひ一緒に事業化したい」(相澤氏)

 本企画自体はグローバルで展開するアクセラレータへの参画を誘う形だが、日本で開催する狙いはそれだけではなさそうだ。「Philips HealthWorks」での想定ベンチャーはアーリーステージとのことだが、実際アクセラレータプログラムで5週間もの期間、日本を離れるのは容易とは言えないはずだ(期間中の渡航費・宿泊費は残念ながら含まれない)。

 そのような高いハードルの一方で、応募の面でのハードルの低さは違った意味を持ってくる。協業・共創の可能性をもったコンタクトという点で、まずは門戸自体を開いた形とも見える。ヘルスケア関連では、グローバル企業でのこのような試みはますます増えているが、日本発ならではの成果創出にまずは注視したい。

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