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POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM Demo Day

AIやドローン活用で配送 日本郵便のオープンイノベーション

2018年02月14日 06時00分更新

 物流業界では、ECの進化により物流の需要が拡大する一方で、人口減少による配送人材の確保や山間部や離島への配送といったラストワンマイル問題を抱えている。

 そんな状況の中で実施された、日本郵便初のオープンイノベーションプログラム「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」は、物流業界のもつ課題をドローンや機械学習などのテクノロジーによって解決するため、斬新なアイデアやノウハウをもつスタートアップ企業との共創、新しい郵便・物流を提供し、社会をより豊かにすることを目指して開設された。

 2017年9月4日よりスタートアップ企業の募集を開始し、応募された105社の企業から株式会社Drone Future Aviation合同会社オプティマインドecbo株式会社MAMORIO株式会社の4社を採択。11月より約3ヵ月間かけて共創に取り組み、今回のDemo Dayが初の成果発表会となる。(関連記事:次世代郵便をベンチャーとつくる 日本郵便のオープンイノベーションプログラム開始

 Demo Dayでは採択企業の4社がプレゼンをし、審査員12名による「最優秀賞」1社、一般来場者の投票による「観客賞」1社を決定する。

 冒頭に、日本郵便株式会社 代表取締役社長兼執行役員社長の横山邦男氏による挨拶で「郵便局は、日本人の暮らしを支える大切な生活インフラだ。公共性の高い事業だからこそ、オープンアーキテクチャーであるべき。日本郵便のもつ豊富な経営資源やノウハウと、スタートアップがもつ先進性、技術、アイデア。両社が混ざることによって、いい化学反応が起こるのではないか」と語った。

日本郵便株式会社 代表取締役社長兼執行役員社長 横山邦男氏

最適化エンジンと機械学習を活用し、郵便の配送ルートを効率化

 採択企業によるプレゼンテーションでは、各7分間の代表者による発表と、3分間の日本郵便担当者によるコメントののち、審査員による質疑応答が行なわれた。

 最初の登壇者は、オプティマインドの松下健代表。同社は、名古屋大学の学生ベンチャーで、同大学で研究開発をしている組み合わせ最適化エンジンと機械学習を活用し、配送ルートを最適化する配送計画のシステムを開発している。実証実験として、埼玉県の草加郵便局で、AIツールが作成したルート、新人、ベテランによる配送時間を計測した結果、AIツールを使用することで、新人配達員もベテランと同等の短時間での配達が可能になることが証明された。配達指定時間に基づく最適な配送計画を立てることで、再配達の負担軽減も期待できるとのこと。2018年度5月より10ヵ所の郵便局、主要都市での導入を予定しているそうだ。

合同会社オプティマインド 松下健代表

シェアリングエコノミーでコインロッカー不足を解消

 次に、ecboの工藤慎一代表取締役社長が登壇。同社は、荷物預かりのシェアリングサービス「ecbo cloak」を提供している企業だ。旅行やイベント時の手荷物を預けたいとき、一般のお店の空きスペースを利用して、コインロッカー代わりに荷物を預けられるサービスだ。東京都と神奈川県の郵便局5ヵ所でサービスの予約を受け付けており、2月21日より手荷物預かりを開始する。

 さらに、日本郵便のもつ全国2万4000の郵便局と配送網を活用し、郵便局経由で預けた荷物を目的地近くのカフェやお店などへ配送可能な「ecbo delivary」として発展させていく計画。7月から荷物配送の実験を開始し、10月からの本格導入を目指す、とのこと。

ecbo 工藤慎一代表取締役社長

クラウドで落し物を見つける紛失防止タグ

 続いて、MAMORIOの泉水亮介COOが登壇。同社は、Bluetoothの電波を発信して、どこにあるのかをスマホに通知する紛失防止タグ「MAMORIO」を開発するメーカーだ。利用者本人だけでなく、ほかのMAMOROユーザーのスマホや、駅や商業施設に設置された専用アンテナが、紛失物に付けているMAMORIOから発信される電波を受信し、持ち主に発見場所を通知する仕組み。そのため、所有者が増えれば増えるほど、落し物が見つかる可能性が高くなる。日本郵便のもつ約14万台の郵便事業車両や巨大な配達網を活かし、郵便事業車両にMAMORIOセンサーを装着することで、配達をしながら落し物を見つけられるようになるという。2月5日から、世田谷郵便局の配達バイク30台にMAMORIOセンサーを装着し、実証実験を行なうほか、2月1日より東京中央郵便局、世田谷郵便局でMAMORIOの販売を開始し、利用者数を増やしていく計画だ。

MAMORIO 泉水亮介COO

空と陸のドローンで、山間部や離島のラストワンマイルまでロボットがお届け

 最後の発表者は、Drone Future Aviation波多野雅昭代表取締役社長。同社は、配達のドローン化で、これまで届けられなかった場所へ届けられる世界を目指し、空と陸のドローンの2つの側面からアプローチを行なっている。配達のドローン化には、技術面のほか、法制度や保険などの整備、自治体の理解など課題が多い。具体的には、山間部や離島などの郵便局へは空のドローンが輸送し、お客様宅へは陸のドローン(配送ロボット)が届ける未来を想定。2018年以降から陸のドローンを用いて、日本郵便の本社社屋内にて、同ビル内のコンビニから各フロアへ届ける実証実験を予定している。

Drone Future Aviation 波多野雅昭代表取締役社長

大型コンテナに陸のドローンを搭載。山間部や離島へは空のドローンでコンテナを空輸し、小型ドローンが目的地まで荷物を届ける

最優秀賞はオプティマインドが受賞

 プレゼンテーション終了後、一般来場者による投票と、革新性、課題解決性、実現性の3項目を評価点として審査員12名による審査を実施。

 一般来場者からの評価が最も高かったのは、MAMORIOの落し物防止タグで観客賞を受賞。最優秀賞には、オプティマインドのAIによる配送ルートの効率化技術が選ばれた。人手不足と再配達増加は、いままさに直面している課題であり、すぐに導入可能な実用性の高さを評価。全国の郵便局へ事業の本格導入が進められる見込みだ。ほかの企業についても、引き続き共創を続けていくとのことで、早期の事業化実現を期待したい。

日本郵便 横山氏、オプティマインド 松下氏、日本郵便 三苫倫理氏、サムライインキュベート 榊原健太郎氏

 また日本郵便は採択されたスタートアップ企業以外とも共創を進めている。ソラコム、チカク、ユカイ工学、ローンディールの4社との共創事業も紹介された。

 ソラコムは、倉庫内のパレット、トラックの混雑状況をカメラやGPSによって可視化するテクノロジーを開発。郵便物の発送から発送先までを最適化するソリューションを提供し、実用へ向けて導入を進めている。

 チカク、スマホで撮影した写真を離れて暮らす実家のテレビに配信できる「まごチャンネル」を開発。2月23日から東京中央郵便局にて店頭販売を開始する。

 ユカイ工学は、家庭用ロボット「BOCCO」を紹介。ドアセンサーとセットで使用するロボットで、子供の帰宅を検知すると、スマホに通知。専用アプリでメッセージを送ると、ロボットが読み上げてくれる。スマホ操作や文字入力の苦手な子供やお年寄りとロボットを介してコミュニケーションできる。ユカイ工学では、2025年までに一家に一台の家庭用ロボットを目指しているそうだ。

 ローンディールは、企業間レンタル移籍プラットフォームを提供する企業だ。具体的には、大企業の人材をベンチャー企業へ、半年~1年間レンタル移籍し、ベンチャーならではの柔軟な思考や幅広い業務への適応力といった経験ができる。現在、140社のネットワークで、マッチング、成長を支援しており、2018年4月から日本郵便でも取り組みを実施する。

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