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需要が高まるエッジコンピューティングの活用事例をレポート

IoTを次の段階へ エッジでノキアがスタートアップと組む理由

2017年09月08日 08時00分更新

 2017年8月28日、IoTスタートアップが集まる展示会「IoT&H/W BIZ DAY 4 by ASCII STARTUP」がベルサール飯田橋ファーストで開催された。いくつものビジネスカンファレンスが行なわれ、いろいろと濃い話が展開された。今回は、その中からセッションB「ノキアのエッジコンピューティングを活用して生み出すイノベーション」のレポートをお伝えする。

2017年8月28日、「IoT&H/W BIZ DAY 4 by ASCII STARTUP」が開催された。13時からはセッションBとしてMECに関するカンファレンスが行なわれた

 登壇したのは、ノキアソリューションズ&ネットワークス株式会社モバイルネットワーク事業本部カスタマーソリューションマネージャーの冨永剛氏と、LiLz株式会社代表取締役社長の大西敬吾氏。最初にそれぞれからプレゼンが行なわれた。

ノキアはスタートアップと組んで何をしようとしている?

 まずは、ノキアの冨永氏から。ノキアは現在売上の9割以上を通信インフラ機器であげているという。その中で、冨永氏は日本で3GやLTEといった無線を立ち上げてきた部署に所属している。2014年10月、MEC(モバイルエッジコンピューティング)の標準化団体が設立され、ノキアはMECの標準化をリード。当時はモバイルに特化したものだったが、最近はMEC(Multi-access Edge Computing)となり、モバイルだけでなく有線でも利用できるように標準化が進んでいる。

ノキアソリューションズ&ネットワークス株式会社の冨永剛氏
MECについてのプレゼンが行なわれた

 エッジコンピューティングとは、もともとインターネット側にあったアプリケーションサーバーを、デバイスとコアネットワークの間に置いているのが特徴。デバイスに近いところにサーバーがあるため、低遅延や高信頼性を実現でき、プライベートなネットワークを組める。また、データ量のオフロードができるというメリットもある。

 すでにあるノキアの事例としては、F1上海グランプリにおけるビデオストリーミングが紹介された。会場内の各所で撮った映像をストリーミングサーバー経由でデバイスに流すというものだ。エンドユーザーは好きなドライバーを追いかけて見たり、気になるコーナーの様子を見たりできる。このような大規模イベントでは、実環境ベースと映像を同時に見るので、リアルタイム性が要求される。そこで、MECが採用されたのだ。

コアネットワークとデバイスの間にMECサーバーを設置する

 そのほかの活用例としては、美術館の銅像をデバイスで撮影した際にARで作品情報が手に入る事例、プライベートエリアのみに強固なセキュリティーのサービスを提供する事例、さらには自動運転などのクリティカルな通信で高安定・低遅延で接続するといった事例が紹介された。

 MECはクラウドのアーキテクチャーを採用しており、クラウドサーバー上に載せ、仮想環境で動作する。また、オープンなインターフェースを使っているので、誰でも開発したアプリをMECのサーバーに載せられる。

 ノキアとしてはそのAPIを開示したり、開発されたアプリを試験したり評価したりしている。現在はビデオストリーミングが主流だが、将来はV2X(Vehicle to Everything)といった次世代のIoTにも対応できるように開発を進めているという。

MECのユースケース

 モデレーターの大谷氏は、ノキアがスタートアップのイベントに出るというのは珍しいのだが、その目的は? と質問。

 ノキアは通信事業者とのコネクションを持っているうえ、自社のプラットフォームや無線機を提供できる。さらに、イノベーションプラットフォームも用意しており、MECの上に乗せるアプリケーションを作ってもらえる仲間を増やしたいと考えている、と冨永氏は回答した。

 「我々が用意しているイノベーションプラットフォームでは、IoT向けの試験環境やAPIを提供することも可能です。開発したデバイスやアプリケーションを持ち込んでいただき、ノキアと一緒に評価してサービスを作っていきたいと考えています」(冨永氏)

沖縄を拠点とするスタートアップLiLz

 続いてLiLz株式会社代表取締役社長の大西敬吾氏のプレゼン。LiLzは8月に設立したばかりの会社で、AIとIoTを活用してユーザーの課題を解決するプロダクトを提供するという。拠点は沖縄のうるま市にある。(※9月1日から琉球大学産学官連携棟にオフィスを移転)

 大西氏は兵庫県出身だが沖縄に移住して5年目で、もともと、ファクトリーオートメーション分野でシーケンス制御などを活用した工場自動化のシステム開発など経て、デジタル家電分野でのプロジェクトリーダおよびUX/UI設計などを行なっていた。その後、沖縄に移住し3つの新規クラウドサービスを作り、中にはペット向けのウェアラブルデバイスを手がけるなどIoTでの知見もあるという。

LiLz株式会社代表取締役社長の大西敬吾氏
LiLz株式会社は沖縄にオフィスを構えるAI・IoTを扱うスタートアップ

 LiLzが提供する「LiLzエッジ」はIoT機器に組み込める目的特化型の音声解析・画像認識ライブラリだ。今後、IoTが爆発的に増加し、たくさんのデバイスがネットにつながるようになると、できる限りエッジ側でリアルタイムに処理する必要があるという。

 たとえば、LiLzは車の自動運転に関する基礎研究も進めている。道路を走っていると、時々救急車に遭遇することがあるが、人であれば何の音が聞こえたのかをすぐ判断することができる。LiLzはそれをエッジコンピューティングで判断しようとしているのだ。聞こえてくる音を深層学習を活用して機器側で解析し、特定の音を検出できるようになるのだ。

 同じことをクラウドで処理することも可能だが、音声データを常にアップロードして解析し、その結果を受信するには遅延が発生してしまう。これは自動運転などの技術が必要なシーンでは遅延は致命的になる場合がある。そこで、エッジコンピューティングの出番となる。

 ほかには、カフェのどの辺で男子と女子が盛り上がっているのかを可視化し、マーケティングに活かせるようなことも可能になるという。

 現在、LPWA(Low Power Wide Area)で期待されているIoTは、比較的小さい量のデータしか送ることができない。それをクラウドに上げて、AIで異常を検知するのだ。その点で、ユーザー機器の近くにエッジサーバーを置き、クラウドの手前で判別するのがノキアのソリューションはその次の段階となる。

 LiLzはユーザーのデバイスそのものにAIを搭載し、分散処理することを目指している。とはいえ、現在はユーザーのデバイスですべて処理するのは難しく、物理デバイス側のエッジと、MECのエッジの両方をうまく使い、ハイブリッドで処理する必要があるという。

IoT機器は爆発的に増加していくと予測されている
MECや物理エッジにより、AIがユーザーの近くで処理されるようになる

エッジコンピューティングは実際にどこに置かれるのか

 続いては、お互いに質問するセッション。冨永氏から大西氏へは、「LiLzさんとしてはアプリケーションとデバイスのどちらを開発しようと考えられているのですか?」という質問が投げられた。

 「両方やりたいです。まずは、分散機械学習領域でビジネスを立ち上げ、その先にアプリケーションを考えたいと思っています」(大西氏)

 「AIのアルゴリズムもいろいろな展開を考えられているのですか?」(冨永氏)

 「目(画像認識)やって耳(音声認識)やっているので、次は鼻というのは冗談で出ています(笑)。僕たちは目的に特化して、できるだけ小さく部品化して、ほかの人が使えるようにしたいと考えています」(大西氏)

 逆に大西氏から冨永氏には、「ノキアは携帯電話の会社だと思っていました。そこから気がつくとMECを手がけているのですが、どうしてですか?」と質問が飛び、会場にも笑いが起こった。

 「方向性を正しく認識できなかったということがあると思います。ノキアとしてもスマートフォンの開発をしていたのですが、独自のアプリで方向性が違って波に乗れませんでした。そこで端末事業を売却して、通信インフラ側に集中して投資するという状況です」(冨永氏)

続いては、お互いの質問やディスカッションが行なわれた
冨永氏と大西氏が質問し合う

 続いて、モデレーターから大西氏へ、なぜエッジコンピューティングが必要なのかと質問。

 「画像などの比較的大きなデータを扱う話になると必ずレイテンシー(遅延)の話になります。クラウドに全部上げて取ってくるというのは非現実的。現在は、LPWAを活用したIoTでは送れるデータ量が小さいので、温度やドアの開閉などのセンサーなど比較的小さなデータを活用した事例が多い。そのため、大きなデータをリアルタイムで扱うようなテーマの場合、近くで処理できるエッジが必須になると思います」(大西氏)

 クラウドに上げていると時間がかかり、エッジだとリアルタイムで処理できるというが実際どのくらいの差があるのだろうか、という質問には「クラウドだと40~50ミリ秒の遅延が発生しますが、MECだと10ミリ秒以下で抑えられるということがトライアルで確認されています。今後5Gが普及すれば、遅延は1ミリ秒くらいになります」と冨永氏。

 エッジコンピューティングといっても、実際にどこに置かれるのか、という質問にも冨永氏が回答した。

 「やはりアンテナのある基地局ということで、最初は基地局のハードウェアのプラットフォームとしてソリューションを作りました。しかし、あまりにも分散されすぎて、逆に効率が悪くなったんです。それよりはある程度寄せて、効率よく稼働させた方がいいんじゃないかと考えました。現在は、例えばNTTのADSLサーバーが置いてあるような場所にインストールすれば、ベストだと思っています」(冨永氏)

 今後ますます需要が高まりそうなエッジコンピューティング。年末から来年にかけてNB-IoT(Narrow Band-IoT)に対応するための電波法改正も行なわれる。最前線にいるプレーヤーの動向はこれからも要注目だ。

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