週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

グラミー受賞の内田光子・レシュマン競演もハイレゾ化

麻倉特薦、2月は美しきバイオリニスト・寺下真理子の『ロマンス』など

2017年03月04日 12時00分更新

 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

ロマンス
寺下真理子

 美しいヴァイオリニスト、寺下真理子の第2弾アルバム。先日、私の試聴室に寺下さんをお招きし、このアルバムについて、CD、リニアPCM、DSDの音質について、自らの演奏がどのように聴けるかのインタビューを行っている。その記事もぜひ、お読みください。

 新アルバムは「ロマンス」がテーマ。詳細はインタビューを参照いただくとして、特に感動した一曲のインプレッションを書こう。3曲目「ニュー・シネマ・パラダイス」だ。涙が出てくるほど情感豊かなヴァイオリンだ。名作映画のシーンの数々が思わず目に浮かんでくる。寺下は、エンリオ・モリコーネのこの名曲に深く共感して演奏しているに違いないと思わせられる、慈しみながに紡がれる旋律の美しいこと。レガートな運指が本曲の世界観を表しているようだ。麗しさとロマンティックさと、豊かな情感が心に染みいる。ピアノの歌わせ方も素晴らしい。

WAV:96kHz/24bit、FLAC:96kHz/24bit、DSF:2.8MHz/1bit
キングレコード

Way Out West
ソニー・ロリンズ

 名門ジャズ・レーベル「ブルーノート」の名盤230タイトルを192kHz/24bitでマスタリングし、2013年~2015年にCDでリリースされた『ブルーノート・ザ・マスターワークス』シリーズ。そのなかから当時人気投票で選ばれた上位50タイトルのハイレゾ配信が、e-onkyo musicで始まった。2017年1月より毎月5タイトルずつ配信されている。

 本ハイレゾはモダンジャズ・テナーの巨人、で、ニューヨーク住人のソニー・ロリンズが西海岸まで出向き、ロサンゼルスで録音した歴史的名盤だ。アルバムタイトルWay Out Westが、その顛末を物語っている。収録タイトルも西部録音らしく、「俺は老カウボーイ - I'm an Old Cowhand」「Wagon Wheels」といった西部劇映画の楽曲がメインだ。

ピアノなしのサックス+ベース+ドラムスのテナートリオ。ロリンズのテナーはハイテンション、ハイスピードで爽快、豪快。うちの試聴室で聴いていると雄大なブロウが耳だけでなく、体を直撃。ハイレゾだからそんな音楽的テクスチャーが、こと細かに聴ける。

 音場は左にサックス、右に打楽器とベースと、ファントムセンターなしの完全ピンポンステレオ。音場設計には時代を感じさせるが、音自体は実にフレッシュ。まるで昨日録ったのではないかと錯覚するほどの鮮明で鮮烈なサウンドだ。左チャンネルのソニーロリンズは細部までの切れ込みが鋭く、息づかいの綾まで聴ける、右チャンネルのレイ・ブラウンのベースは偉容で体積感が大きく、シェリー・マンのドラムスは弾みがリアルで、切れ味が鋭い。1957年3月7日、ロサンゼルス録音。

FLAC:192kHz/24bit
Concord

マーラー: 交響曲 第5番
シカゴ交響楽団、クラウディオ・アバド【リニアPCM】

マーラー: 交響曲 第5番
シカゴ交響楽団、クラウディオ・アバド【DSD】

 1980年のシカゴ・オーケストラ・ホールでの録音。端正で緻密、高質感のシカゴ・マーラーだ。同じオーケストラでのショルティ版はシャープネス100%の鮮烈マーラーだが、80年のアバドは細部まで明確に彫塑し、活き活きとしたダイナミズムを楽曲に与えた見事な統率である。録音も高水準。ショルティ版はひじょうに解像度指向だが、アバド版は全体像をスケール豊かに把握し、各声部、旋律部が全体のバランスにおいて、どのように有機的に位置し、いかに全体と調和するか---にこだわっている。シカゴ・オーケストラ・ホールの豊潤なソノリティが堪能できる。

 DSD版とリニアPCM版が選べるので、聴き比べてみた。192kHz/24bitのリニアPCM版は骨太で高解像度、弾力感のある音がストレートに音場空間の放たれる。直裁的な音楽表現が魅力だ。DSD版は暖かくも深いソノリティと、弦のしなやかさ、粒立ちの麗しさが、大いなる美質だ。第5楽章、冒頭のホルンはDSDでは確実に奥に移動(?)している。

各楽器から放たれた音に、麗し成分を濃厚に持った音の粒子が振りかけられ、キラキラと光輝く様子は、リニアPCMでは聴けないDSDだけの映像だ。透明感は十分に高いのだが、音像と空間の間には、何層ものカラフルで、すべらかな質感の響きのレイヤーが多彩に折り重なっている。マーラーの複雑なスコアからふくよかで、しなやか、豊潤で温度感の高い音が紡がれるのがDSDの大いなる表現力だと聴く。シカゴ交響楽団の弦の美しさ、芯を持った柔らかさがさらに感動的だ。

FLAC:192kHz/24bit、DSF:2.8kHz/1bit
Deutsche Grammophon

点と線~ドビュッシー&細川俊夫:練習曲集
児玉 桃

 児玉桃はECM以前も透明で、ソノリティがすがすがしいビアニズムを聴かせていたが、このECMアルバムはまさに、このレーベルの特徴である、静謐さと濃密さが合いまった、素晴らしくも高品位なサウンドだ。浮世絵からインスパイアされたドビュッシーの名作「12の練習曲」に、フランス仕込みの細川俊夫の6曲の練習曲をはさんだ異色の切り口だ。

 冒頭のドビュシー「12の練習曲: 11. 組み合わされたアルペジオのために」はブリリアントに煌めく。軽やかに飛翔する右手と、軽く優しく添えられた左手の対比が耳の快感だ。第2曲、細川「エチュードⅡ:点と線」は、冒頭のシンプルな単音と装飾音が音場内にどのように響きを拡散させるかの、音響的な軌跡がまるで目で見えるようだ。96kHz/24bitのハイレゾは極上のクオリティ。無音の状態からピアノの有機的で、透明な響きが文字通り発生して、沸き立つドキュメンタリーを眼前で観ているようだ。まさにECMならではの静謐で豊潤な表現だ。

FLAC:96kHz/24bit
ECM

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事