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戦後GHQによる「航空禁止令」(?)とはどんな内容だったのか読んでみよう

2017年08月15日 12時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

たった1枚の指令書

 NHK BSの「なぜ日本は焼き尽くされたのか~米空軍幹部が語った“真相”~」を見た。今年4月に発掘された米空軍幹部246人にインタビューしたテープを中心に表題のテーマに迫った内容。この番組の内容にあまり踏み込むつもりはないのだが、軍隊というのは企業とおなじく人によっていかようにも動く不可思議なものだという印象だ。

 それで1つ書いておきたいのは、日本の戦後の技術開発に関するストーリーでは、しばしば触れられるGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)による「航空禁止令」と呼ばれているものについてである。

 1945年(昭和20年)に「航空機の研究・設計・製造を全面禁止された」などとあり、1952年(昭和27年)にサンフランシスコ講和条約の発効によって、ふたたび開発が可能となったなどと書かれることが多い。2015年の三菱リージョナルジェットの初飛行のときも、頻繁にニュース等で引用されたのでご存じの方も多いはず。

 ところが、この「航空禁止令」について私は少しひっかかっていたことがあった。『計算機屋かく戦えり』(KADOKAWA / アスキー・メディアワークス刊)の元になる『月刊アスキー』での取材では、ちょうど同じ戦後間もない時期に国産コンピューターを開発していた人たちからGHQという言葉も何度となく聞くことになった。

 1948年に、GHQの指導により逓信省電気試験所が商工省工業技術庁電気試験所と逓信省電気通信研究所への分離。その電気通信研究所へは「日本としてのトランジスタの利用法を考えろ」と非常にはやい時期にGHQから指示があったなどだ。ところが、初期のコンピューターの主要用途の1つが航空機の翼面設計だったにもかかわらず、航空禁止令についてはボンヤリとしたままだった。

 一方、航空機の開発に従事していた人たちのインタビューでは必ずこの禁止令に関するコメントが出てくる。実際は、どんなことだったのだろう?

 これについて、ちょうど1年ほど前(2016年3月15日)から、GHQが日本政府に対して出したさまざまな指令(Supreme Commander for the Allied Powers Directives to the Japanese Government =SCAPINs)が、国立国会図書館デジタル・コレクションの「リサーチ・ナビ」で公開されているのをご存じだろうか? 一昨年、米国国立公文書館(RG 331)のマイクロフィルムを複写して所蔵していたものをデジタル化、昨年から公開されたのだ。

ペラペラのたった1枚のタイプ打ちされた指令は6項目からなっている。具体的な、今後の航空機の所有・開発・研究等を禁止しているのは、4項目目と5項目目のそれぞれ1センテンスだ(国立国会図書館デジタル・コレクションのリサーチ・ナビより)。

 「日本のポツダム宣言受諾を受けて、トルーマンは、1945年8月14日付けで米太平洋陸軍司令官のマッカーサーを連合国最高司令官(Supreme Commander for the Allied Powers, SCAP)に任命した。同年9月2日に調印された降伏文書により、連合国最高司令官が降伏実施のために適当と認めて自ら発した布告、命令及び指令を日本政府及び日本軍は遵守し、実施する義務を負った」(同ページより)とあり、2631アイテム(収集時のマイクロフィルムは7巻分)が、ネットで閲覧できる(いままでも資料はあったはずだがこのような形で公開されたのはありがたい)。

 この中に「航空禁止令」と一般に呼ばれているものに相当する内容が含まれている。「SCAPIN-301: COMMERClAL AND CIVIL AVIATION 1945/11/18」と題されたたった1ページのタイプライターで打たれた文書で、具体的には、リサーチ・ナビの当該ページを見ていただくのが早いのだが、タイトルは「Commercial and Civil Aviation」(商業および民間航空)とだけつけられたものとなっている。政府や民間の航空関連の組織の解散などに続けて、4項目目で1945年12月31日以降の航空機や関連部品、施設などの購入・所有等を、ワーキングモデル(作業用模型)も含めて航空機に関係するものを禁止。

4. On and after 31 December 1945 you will not permit any governmental agency or individual, or any business concern, association, individual Japanese citizen or group of citizens, to purchase, own, possess, or operate any aircraft, aircraft assembly, engine, or research, experi- mental, maintenance or production facility related to aircraft or aeronautical science including working models.

 そして、5項目目では、航空科学や航空力学、そのほか航空機や気球に関係した教育・研究・実験をも禁じている。

5. You will not permit the teaching of, or research or experiments in aeronautical science, aerodynamics, or other subjects related to aircraft or balloons.

 国立国会図書館デジタル・コレクションの資料のことを知ったのは、今年1月のことだが、今回、これを書いていて『The Allied Occupation and Japan's Economic Miracle: Building the Foundations of Japanese Science and Technology 1945-52』という本があることを知った。航空禁止の件についても少し踏み込んで語られているようだ。また、インターネットアーカイブで『Japan's air power options: the employment of military aviation in the post-war era.』というドキュメントを読むこともできる。こちらは、戦後の軍の航空関係者について調べたもので、インタビューも多数含まれている。

 日本のテクノロジーの発展の仕方やこのことについてより詳しく知りたい人は、参考になるかもしれない。

遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。月刊アスキー編集長などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。また、2016年よりASCII.JP内で「プログラミング+」を担当。著書に『ソーシャルネイティブの時代』、『ジャネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著、アスキー新書)、『NHK ITホワイトボックス 世界一やさしいネット力養成講座』(講談社)など。

Twitter:@hortense667
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