週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

在宅医療で電子カルテが担う大きな可能性

2017年04月10日 07時00分更新

クラウド型モデルも登場し、拡大を見せる電子カルテ領域。いま、医療はどこまでIT化が進んでいるのか。ASCIIによる最新情報を毎週連載でお届けします。

第11回テーマ:電子カルテ x 在宅医療

 病気によって通院がままならず、医療者の訪問によって診療を継続する「在宅医療」。高齢化社会が進む今、在宅医療サービスへの必要性、重要性は高まっている。

 しかし、通常の診療とは違った業務負担・コストを抱えなければならない問題があるため、普及はなかなか進んではいない。

 そういった問題を解決するうえで、これからの在宅医療には、クラウド電子カルテが深くかかわってくる。以下、クリニカル・プラットフォーム鐘江康一郎代表取締役による解説をお届けする。なお、本連載では、第三者による医療関連情報の確認として、病院経営の経営アドバイザーとしても著名なハイズ株式会社の裵(はい)代表による監修も受けている。


在宅医療においてICTが「できること」

クリニカル・プラットフォーム代表取締役 鐘江康一郎氏

 厚生労働省のホームページに次のような記載があります(2017年2月時点)

『重度の要介護状態となってもできる限り住み慣れた地域で療養することができるよう、在宅医療の推進施策を講じています』

 2016年の診療報酬改定において、在宅医療を専門に行なう診療所が新たに診療報酬上認められるなど、国をあげての在宅医療シフトの流れは明らかです。しかし、診療報酬制度を少し変えただけで在宅医療が劇的に普及するかと言えば、そのような簡単な話ではありません。

 在宅医療は、問診、診察、検査、記録、会計などのすべての業務を患者さんの自宅で行なうため、診療所とはまったく違う業務の流れを構築する必要があります。ここでもカギを握っているのは、やはりICTです。ICTを活用することで、在宅医療は大きく効率化できる可能性を秘めています。

 まず、電子カルテがクラウド化されつつあることが非常に大きなインパクトを与えています。これまでの院内設置型の電子カルテは外部のネットワークと分断されているものが多く、基本的に院外で使用することは出来ません。一部、院外から接続できる機能を有する電子カルテもありますが、専用回線の敷設などが必要となり、決して容易に導入できるものではありませんでした。

 しかしここ最近、クラウドベースの電子カルテが急速に普及し、インターネットに接続できる環境があれば、患者さんの自宅からでも通常とまったく同じ電子カルテを閲覧/入力できるようになりました。スマートフォンを使って患部の様子を撮影し、そのまま電子カルテにアップロードすることなども可能です。

 さらにICTを活用すれば、患者さんの自宅にいながら、あるいは移動しながら、カルテを入力したり診療報酬の計算をしたりできます。

 想定される仕組みはこうです。在宅診療を行なう医師や看護師は、診察やケアをしながら、あるいは移動中の車の中で電子カルテを入力します。入力方法はテキストデータでもいいですし、音声で入力する方法もあります。記録したデータはクラウド上のサーバーに保存され、その内容に基づいて事務所にいるスタッフが診療報酬点数を計算します。こうすれば、医療者は事務所に帰らなくても良いので、限られた時間でより多くの患者さんを訪問できるようになります。

 このほかにも、予約管理、次の患者宅への道順を最適化するためのルーティング、家族やケアマネージャーなどの関係者との情報共有など、在宅医療においてICTが「できること」は、まだまだたくさんあります。


記事監修

裵 英洙(はいえいしゅ)MD, Ph.D, MBA
ハイズ株式会社 代表取締役社長

著者近影 裵 英洙

1998年医師免許取得後、金沢大学第一外科(現:心肺総合外科)に入局、金沢大学をはじめ北陸3県の病院にて外科医として勤務。その後、金沢大学大学院に入学し外科病理学を専攻。病理専門医を取得し、大阪の市中病院にて臨床病理医として勤務。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)にてMBA(経営学修士)を取得。2009年に医療経営コンサルティング会社を立ち上げ、現在はハイズ株式会社代表として、各地の病院経営の経営アドバイザー、ヘルスケアビジネスのコンサルティングを行っている。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事