週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

育児中おばあちゃん召喚魔法に頼りすぎ問題

About Article

34歳の男が家事育児をしながら思うこと。いわゆるパパの教科書には出てこない失敗や感動をできるだけ正直につづる育休コラム。

編集部を訪れた赤ちゃん。このあと号泣した。怪電波の影響である

 家電アスキーの盛田 諒(34)です、おはようございます。水曜の育児コラム「男子育休に入る」の時間です。前回、地獄日記の反響が大きく恐縮しています。本当にありがとうございます。赤ちゃんは無事に生後100日を迎え、今日も元気にうんこをしています。先日編集部に初めて顔を見せた際はベンチマークテスト中のゲーミングノートPCに興味を示していました。Radeon派のようです。

 8週間の育休が終わり職場復帰して1ヵ月になりますが、育児コラムは続きます。今回のテーマはおばあちゃん、わたしと妻の母親です。育休中いちばん助けられたのは間違いなくおばあちゃんの存在でした。家事育児で気力体力を削られ瀕死になっているところにおばあちゃんを召喚したときの助かった感はすさまじいものがありました。手づくりのお総菜を大量に冷蔵庫に入れ、泣いている赤子を「どうしたんでちゅか~」と抱っこして泣きやませ、洗濯物をてきぱきとりこんでアイロンをかけてくれるおばあちゃんの姿はさながら爆炎メガフレアで敵をなぎ払う幻獣バハムートです。

 育児レベルが低いとつい召喚魔法に頼りたくなってしまうのですが、そもそも妻が里帰りをせずわたしが育休を取ったのは「おばあちゃん世代に頼りすぎちゃいけないよね」という意見が妻と合っていたためでした。実際おばあちゃんに頼りすぎてしまうのも問題があります。そもそもおばあちゃんが高齢で体力がない、夫側の母親には頼りづらく妻側の母親にばかり頼ってしまう、育児知識の世代間ギャップ(育児意識の違い)があるなど、難しい点がいくつかあります。


●おばあちゃん高齢問題

 妻は41歳の高齢初産で、おばあちゃん(わたしのお義母さん)は緑寿にあたる66歳になります。体力的にも不安があるというか、むしろ介護される側に近づいている年齢です。おばあちゃんは埼玉に住んでいて、わたしたちが住む都内までは1~2時間程度。近いといえば近いのですが、「何かあったらいつでも呼んでね」と言ってくれても、さすがにちょっと遠慮があります。

 最近はおばあちゃん世代が働いていることもあります。わたしの母や叔母は60歳を過ぎてもNPOや保育園でばりばり働いています。65歳定年制を採用している会社もありますね。「赤ちゃんできたんだ! 里帰りしたの?」と聞かれることもありましたが、おばあちゃんが日中フルタイムで働いている場合、里帰りしても双方にとって負担になってしまい、あまりいい選択肢にはなりません。

 現在は男女ともに初婚年齢が上がる晩婚化が進んでいます。2015年度発表の人口動態統計(厚生労働省)では、第一子出生児の平均年齢は30.7歳。40年前と比べてぴったり5歳上がっています。先行きが見えづらい暮らしの中、10~20代のうちにリスクを背負って出産するというのはなかなか厳しいものがあり、生活の保証がない限り高齢出産の割合は今後も高まるのではないかなと感じます。

 今後、国が労働人口確保・健康寿命増進を名目としておばあちゃん世代を働かせるなら、代わりに召喚できる助っ人を用意してくれてもいいのでは、とも思います。


●つい妻の母親に頼っちゃう問題

 比較的地味な話なのですが、どうしても妻側のおばあちゃんに頼ることになってしまうのも問題です。わたし=夫側のおばあちゃんはどうしても遠慮が出てしまうというか、気軽に頼みづらい雰囲気があります。われらがカドカワ川上量生代表も「妻の実家のサポ-トがあるかどうかが重要だと思いました」と育児インタビューで話していました。ですよね……。

 が、たとえば妻側の実家が遠いとか、前述のように高齢であるとか、あまり関係がよくないなど、妻側のおばあちゃんに頼りづらい場合があると思います。

 夫=わたしが育休をとって一緒にいる時期はまだ比較的夫側のおばあちゃんにも頼りやすいのですが、「ちょっとお芝居が見たいから赤ちゃんを見てほしい」などをお願いするのはさすがに気が引けます。育児中は適宜息抜きをしないと酸欠になりますので、誰かの協力を得て遊びに行くことはとても健全なのですが、どうしても「遊ぶために頼むのは……」と気後れしてしまいます。

 逆に夫が育児をしているときなら夫側のおばあちゃんに頼りやすいというところもありますので、夫としてそういう機会を増やしていくようがんばりたいという気持ちもあります。


●世代間ギャップでかい問題

 おばあちゃん育児問題で一番大きいのは、おそらく育児知識にまつわる世代間ギャップです。

 発達心理学の発展などにより、わたしたちが子供の頃とは育児の常識が相当変わっています。おばあちゃん世代が「わたしがあなたを育てたときはこうだった」と言っても通用しないことが多いです。逆に子供から「いまはお母さんのときとは時代が違うんだから」と言われて悲しくなってしまうおばあちゃんもいるのではないかと思います。切ないすれ違いです。

 具体的には、

昔「赤ちゃんが抱っこを求めてしょっちゅう泣くようになるので、抱っこしすぎはダメ」
今「抱っこは自己肯定感、人への信頼感が育つなど、心の成長に必要。気にせず抱っこして」

昔「授乳は3時間に1回、寝ていたら起こして授乳する」
今「赤ちゃんが欲しがったときに求めるだけ授乳する」

昔「1歳までに母親がリードして断乳(卒乳)すること」
今「赤ちゃんが自然に乳離れするまで授乳してよい」

昔「うつぶせ寝は頭の形がよくなり、寝つきもよくなる」
今「乳幼児突然死症候群(SIDS)から赤ちゃんを守るため、医学上の理由で必要なとき以外は、赤ちゃんの顔が見えるよう、あおむけで寝かせるようにする」

 といった感じです。並べてみるとけっこう違いますよね。

 そのほか「おむつは早めに外す」→子供のペースでよい、「ビタミンD欠乏症にならないため日光浴をさせる」→外気浴をさせるときはなるべく紫外線が強い時間帯を避ける、「風呂上がりは水分補給のためお茶を与える」→授乳すればよい、など世代間ギャップがあります。わたしが聞いても「そうなんだ」と驚くことがあったので、おばあちゃん世代はさらにショックが大きいと思います。

 とりわけ母乳育児についての考えはギャップが出やすいところで、「あなたはあまり母乳が出ていないから授乳量が全体的に足りていないんじゃないの? こういうことを言いたくはないけど、ミルクをもっと飲ませたほうがいいんじゃないの?」とおばあちゃんから言われてお母さんがキレたという話もあります。昔は「母乳に足りない栄養素も粉ミルクなら摂れる」とか、「母乳より粉ミルクの方が腹もちがいい」などのメリットを強調した粉ミルク万能説も強かったそうですね。

 現在の母乳育児はとても考えが多様です。おばあちゃんには母親の考えを理解した上で関わってほしいと思いますが、なかなか難しいところがあります。

 世代間ギャップを埋める1つの方法として、さいたま市が発行している「祖父母手帳」などのブックレットがあります。祖父母世代が孫にかかわるときに知っておきたい知識をまとめた冊子で、今昔子育てを比較したページも入っています。同様のガイドブックとしては熊本県の「子育てサポート 孫育て手帖」、横浜市の「地域と家族の孫まご応援ブック」などがあり、いずれも無料配布しています。ウェブから無料でPDFがダウンロードできるので、目を通してみるとよいと思います。

 プリントアウトを渡しただけで「あらそう、最近はそうなのね~」と理解してくれる祖父母だったら最初から苦労はないだろうよという気持ちもありますが、見せないよりはよいと思います。産後の女性はとくに不安定になっており、実母とのコミュニケーションで齟齬が生じてつらみ……というところもあると思いますので、使えるものは使っていくとよいのではないでしょうか。「最終的にはお互い納得できなければスルーである、スルースキルを高めるしかない」と妻は話していました。

 逆に、おばあちゃん世代は手遊び・顔遊び・唱歌などわたしたち世代の知らないレガシー育児ノウハウを次々に披露してくれる強さがあります。

 「グーパー」と言ってこぶしを握ったり開いたりすると赤ちゃんがマネして手を動かしたり、「いやいや」と言って首を左右に振るとやはり赤ちゃんがマネして首を振ったり、「コロッ」と舌を鳴らすと赤ちゃんがつられて舌をペロッと動かしたり、おばあちゃんが来るたびに赤ちゃんの芸がおそろしい勢いで増えていきます。教育熱心なママが通わせている新生児向け幼児教室もかくやというめざましい教育成果です。おばあちゃん世代が安心して育児に関われるような関係性を作れると、こうした伝承芸能のような技もうまく活かされるのではないかなと感じます。


●おばあちゃんありがとう……

 育児をしていると地域に頼れる場所がほしくなります。一時保育やファミリーサポートセンターを利用できるのはありがたいのですが、おばあちゃんを代替するだけのパワーはもっていません。

 来週のテーマになりますが、ムーミンの国フィンランドでは実家の祖父母が育児に参加することがほとんどないそうです。そもそも国土が広いので物理的に里帰りが難しいという事情もあるのですが、夫婦2人で子育てができるよう社会制度が整っており、自分たちの方針で育児をやっていきたいという独立心が夫婦にあることが大きいという話を聞きました。印象的だったのは「(祖父母世代が子育てにかかわる)義理はないです」という言葉づかいでした。義理がないといわれるとドライに感じますが、むしろプレッシャーがないぶんフラットに気持ちよく関われるように思います。フィンランドと日本は別の国、文化も生活様式も違うため、仕組みをそのままならうわけにはいかないと思いますが、日本も義理に頼らないで済むような社会制度があると合理的で便利そうです。

 そもそもおばあちゃん世代が善意で手伝ってくれるのを当然のようにとらえられるとモヤモヤします。たとえば区役所で保育園について相談したとき「ご両親に見てもらうのは難しいですか?」と普通に聞かれるのはおかしいと妻も憤っていました。「ポイントカードありますか?」みたいな気軽さでシリアスな家庭環境に踏みこむのはシブいです。社会は柔軟さが要で、システムでガチガチにする必要もないですが、不平等で不安定な要素に頼ったシステムはシステムと呼べないと思います。

 ともあれ現在の育児は本当におばあちゃんが頼りです。親孝行もロクにできていないのに頼りきりになってしまって申し訳ない気持ちがあります。妻が見つけてきた「みてね」「ノハナ」などの写真共有アプリで孫の写真を送ったり、なるべく行事に関係なく顔を出すようにしたり、今からできる親孝行をしていきたいと思っています。(ちなみにノハナは写真集が1冊無料で作れて便利です)

 前回のテーマが重かったためか今回は軽めになりました。連載はまだ続きます。次回はフィンランドです。モイモイ。



書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中

人気の記事:
谷川俊太郎さん オタクな素顔」「爆売れ高級トースターで“アップルの呪縛”解けた」「常識破りの成功 映画館に革命を」「小さな胸、折れない心 feastハヤカワ五味

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事