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フィンランドの育児は最高、考え方がドライで良いですね

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34歳の男が家事育児をしながら思うこと。いわゆるパパの教科書には出てこない失敗や感動をできるだけ正直につづる育休コラム。

フィンランド・ベイビー・ボックス社ヘイッキ・ティーッタネンCEO(右)とわたし(左)です

 家電アスキーの盛田 諒(34)です、おはようございます。水曜の育児コラム「男子育休に入る」の時間です。8週間の育休が明け、職場復帰して5週間。早いもので赤ちゃんは生後3ヵ月になりました。おでこに鼻先をつけて「くっついちゃった!どーしよー」と言うと何回でもキャハーと喜んでくれるのでかわいいです。かわいいなー!うおー!!

 今回のテーマはムーミンの国フィンランド。赤ちゃんが生まれてすぐ使えるグッズを集めたボックスセット「フィンランド・ベイビー・ボックス」を作っているヘイッキ・ティーッタネンさん(34)、元駐日フィンランド大使館参事官のミッコ・コイヴマーさん(40)にお話を聞きます。2人ともお子さんがいるお父さん。フィンランド育児事情を父親目線で伺います。


国の支援制度から生まれた
ベイビー・ボックス

 まずはベイビー・ボックスについて簡単に紹介しましょう。

フィンランド・ベイビー・ボックス
オリジナル版 5万4000円 送料込み
ムーミン版 6万9000円 送料込み
https://www.finnishbabybox.com/jp/ja

 フィンランド・ベイビー・ボックスは通販で世界中に販売しています。グッズはベビー服、寝具、衛生用品など約50点。箱の底はふわふわで、マットレスを敷いてふとんをかければ簡単なベビーベッドとして使えます。普通のベビーベッドは寝室でかなりの場所を取ってしまうので、コンパクトに使える箱ベッドは日本でも好評だといいます。箱で寝ている赤ちゃんの姿はウルトラかわいいです。

ボックスは簡易ベビーベッドとしても使える

 ベビー服は全シーズン対応のインナー・アウターがそろっています。面白いのは袖丈・着丈を伸ばして0ヵ月から1歳まで長く使えること。たとえば厚手のロンパースはスナップボタンを留めるとダウンジャケットに変身します。60、70、80とサイズの大きな服を買い足す必要がありません。価格を見たときはウッ高すぎじゃん……? と引いたのですが、1年分と思うとお値打ち感がありますね。

 ちなみにムーミン版は日本限定、めちゃめちゃ人気だそうです。世界中から注文がある中、お客さんの4割は日本人ということでした。わかる気もします。

フィンランド・ベイビー・ボックス ムーミン版

 フィンランド・ベイビー・ボックスはもともとフィンランド政府が子育て支援の一環で無料配布している「育児パッケージ」が原型です。

 親には140ユーロの現金支給もしくは育児パッケージという選択肢が与えられていますが、それでもほとんどの家庭が育児パッケージを選ぶそうです。ヘイッキさんもやはり育児パッケージを選んだ1人。箱のフタを開けてかわいいグッズの数々を見たとき「あなたは父親になったんだよ」と社会全体から祝福を受けたような気持ちになり、思わず奥さんと一緒に涙をこぼしてしまったそうです。

 産後、奥さんはイライラモードに入り、ヘイッキさんに厳しくあたったこともありました。「できるだけ育児参加していましたが、いてほしくないときは見えないところにいて、呼ばれたらすぐ行けるようにしていました」と語るヘイッキさんに国境を超えて「わかる……」と深くうなずきました。そんなダークな時期にも、育児パッケージがヘイッキさんの励みになっていたところがあったと言います。

 「男性は女性とちがって体調が変化するわけではなく、赤ちゃんが生まれてすぐ親になったと頭が切り替わりません。しかし男性でも親になったとわかる瞬間が2つあります。1つはエコーで心音を聞いたとき、もう1つは育児パッケージを見たときです。育児は幸せなことだけではなくネガティブになることもあります。少しでもそれを治すために、育児パッケージはいいものだと思います」

かわいい(かわいい)

 しかし育児パッケージはフィンランド国民しか受け取れません。イギリスでジョージ王子が生まれ、フィンランド政府から育児パッケージが贈られたとニュースが流れたときは、世界中から「欲しい!」と熱い要望が上がりました。

 フィンランド人でなくても受け取れる育児パッケージがあってほしいとヘイッキさんが考え、友達と一緒にオリジナルの育児パッケージを作って販売したのがフィンランド・ベビー・ボックスの始まりです。日本ではブロガーさんの紹介などからクチコミ人気が広がっているそうです。まだ注文ページの言語が英語だけだったとき、スクリーンショットを並べて注文方法を紹介する記事が上がって一気に注文が増えたとか。ブロガーさんの威力はすさまじいです。

フィンランド・ベイビー・ボックス社創業者の3人


保育園の送迎も男女平等
すべてフラットでドライな関係

 フィンランドの子育て支援は育児パッケージだけではありません。「長期間の健診制度」「強力な保育園法」「多様な休業制度」が3大支援制度です。

 初めは無料の健診制度「ネウボラ」。

 「妊娠した?」と思ったときから子供が小学校に入るまでの間、定期的に助産師さん・保健師さんからアドバイスをもらえる制度です。出産、育児、家庭にかんするさまざまなことを30分~1時間程度たっぷり時間をかけて相談できます。すばらしいのは、同じ担当者(ネウボラおばさん)がずーっと対応してくれること。そしてデータを50年間保存してくれることです。妻も「長期で支えてくれるのはいいねー!」と感心していました。日本は担当者が都度変わっちゃうのですよね。

 次が、待機児童と無縁の保育園法。

 フィンランドの保育園法では、母親が働いているかどうかに関係なく、すべての子供に保育園に入る権利が与えられています。自治体は夜間保育や特別支援が必要な子供にも安くて良質なサービスを提供することを義務づけられています。9割の親が公立保育園に子供を預けているそうです。「保育園 入れる 偽装離婚」でググっているフィンランド人は恐らくいません。

 最後が、安心して休める休業制度です。

 フィンランドには母親と父親どちらが休んでもかまわない「親休業」、母親が職場復帰するときに父親が育児をするための「父親休業」などの制度があり、父親休業の取得率はなんと8割を超えるそうです。母親は子供が3歳になるまで自宅で子育てをして、職場に復帰する権利を国から保証されています。要するにクビにされる心配がありません。感心させられたのは、復帰までの3年間企業が代わりに本人よりも若い人を採用する文化があることです。先輩の代役を勤めることがキャリア教育の一環になっているわけですね。かしこい仕組みです。

ぼくの話はどうかな?

 ヘイッキさんに話を戻します。

 6年前に初めて子供が生まれたとき、ヘイッキさんは産後すぐに3週間の休業を取得して家事育児に参加しています。里帰りはしないんですかと聞きましたが、フィンランドに里帰り文化はないそうです。国土が広いので物理的に帰るのが難しいこともありますが、「自分たちの方針で子育てをしたいという独立心が強いんです」と話していました。親は親、子供は子供。「(親世代が子供世代を手伝う)義理はないです」という言葉が印象的でした。義理がないと言われると冷たく聞こえますが、プレッシャーなく親子がフラットに関わる姿勢はとても良いなと感じました。

 子育ての助言が必要なら上述のネウボラおばさんから受けられますし、困ったときには社会がクッションになって支えてくれるという安心感があるんですね。

 前回のコラム「育児中おばあちゃん召喚魔法に頼りすぎちゃう問題」にも書きましたが、男性が育児休業をとる文化がまだ根づいていない日本の場合、どうしても妻側の家の義理に頼らざるをえない状況になります。手伝ってもらえるのは涙が出るほどうれしいのですが、人によって環境が違う家族というシステムに頼らなければならないというのは、やっぱり変です。「育ってきた環境が違うからしょうがない」というセロリ的価値観は納得がいきません。

 保育園の送迎も感心させられました。送迎に男女の区別はなく、保育園に行けば朝でも夕方でもお父さんの姿をごく普通に見かけるそうです。ヘイッキさん夫婦は共働きですが、1人が朝早くから会社に行ったときはもう1人が保育園に子供に送り、逆に早く会社から帰ってきたほうが保育園に迎えに行っているそうです。会社で仕事が終わらなかったら子供が寝た後にパソコンを立ち上げて一仕事という在宅ワークも、ごく普通に取り入れられているそうです。

 日本では送迎を分担しても「パパ送り、ママ迎え」で固定のケースがほとんど。保育園は朝8時から夕方18時までというところが多く、夕方に仕事を切り上げて帰るのはお母さんという場合が目立ちます。フィンランドの子育て支援制度はたしかに素晴らしいですが、それ以上にうらやましいのは、男女平等・合理主義的な考え方を自然に受け入れる空気感でした。


制度より空気を変えたい

 日本の中でも、ネウボラなどフィンランド流の子育て支援制度を取り入れている自治体はあります(三重県名張市、千葉県浦安市、福島県伊達市など)。わたしたち家族が住んでいる杉並区にもネウボラや育児パッケージを導入してほしいなあと思うのですが、大事なのは目新しい制度だけでなく、わたしたちが社会で暮らすときの姿勢そのものではと感じます。

 夜遅くまで働かず、集中して仕事を終わらせてサッサと帰る。こまめに休みを取る。男性でも育休を取る。いろんな事情をかかえて働く人がいることを自然に受け入れる。ちょっと勇気のいる行動を受け入れ、支えることこそ最大の子育て支援だと思います。

 とくに年上の人、偉い人が率先してそうした空気を作ってくれると一番ありがたく思います。実際わたしが育休を取ろうとしたときも上司に理解があるかがとても大きかったです。

 男社会では男も男におびえます。生物学的に男だからといって強いわけではありません。

 男社会の中で少数派として生きる道を選んだ人を、偉い人は当たり前のこととして認めてほしいと思います。偉い人がとった行動が社会文化となり、当然のものとして受け入れられるようになった結果、日本ならではのすばらしい子育て支援制度が生まれてくるのではないかと思います。クラスの良い子ちゃんみたいなことを言っていますが、本当にそう思います。

 フィンランドから離れてしまいました。スナフキンのように「人の目なんか気にしないで、思うとおりに暮らしていればいいのさ」と言える大人をめざしていきたいと思っています。連載は続くのでしょうか。ネタ不足が不安です。



書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中

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