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最先端の試作機と新製品から垣間見る2017年の音

2016年末のポタフェスで感じた、ポータブルオーディオの現在位置

2016年12月29日 10時00分更新

 12月17日~18日の2日間にわたって「ポタフェス2016冬」が開催された。今年は、ベルサーレ秋葉原に加え、秋葉原UDX2階の“アキバ・スクエア”も会場となり、国内外から189のブランドが集結、ポータブルオーディオ機器が一堂に会した。その中で試聴可能だった注目の新製品に迫った。

60kHzまでフラットに再生できる静電型のヘッドフォン

 ここ数年間、注目されているのが平面振動板を使ったヘッドフォンである。ダイナミック型と比較して歪みが少ないため、ハイレゾ音源に記録された音場感の再現に適しているためだ。平面型の中でも、さらに特殊なのが静電型である。振動板を2枚の固定電極で挟み込み、バイアス電圧をかけることで帯電させて、固定電極に音楽信号を流し磁気の引き合う力と反発力で振動板を動かす。振動板は非常に薄く軽いため、ハイスピードで情報量が多く、歪みの少ない音を再生できる。デメリットは、振動板の振幅が少ないので低音が出しにくいこと、そして、専用アンプでなければ駆動できないことだ。

マグネシウム合金を採用した静電型ヘッドフォン「Model One」

 エミライが扱うSONOMA AcousticsはソニーでSACDのDigital Audio Workstation「SONOMA」を10年前に開発したメンバーが理想のオーディオを追求するため再結成されたメーカーだ。ハイレゾ音源の性能を100%引き出すために、まず静電型のヘッドフォンの製品化を目標としている。振動板にイギリスWATによって開発されたHPELと呼ばれる高精度静電ラミネート技術を使った非常に薄いものを世界初採用する“Model One”を開発している。

 一般的な静電型ヘッドフォンでは、振動板をサンドイッチのように両側から挟む“固定電極”に、多数の穴を開けて音を出している。これに対してHPELでは、振動板を絶縁用セルに貼り付けた“フロントグリッド”とステンレス合金メッシュの“バックグリッド”で構成される。そこに1350Vのバイアス電圧をかけることでフロントグリッドの独立した細胞のようなドラムスキンを振動させて音を出す仕組みだ。振動板に使う積層フィルムは髪の毛よりも薄い15μmとなっている。

ポリカーボネート製のカセットパネルに貼られたメッシュグリッド

ひっくり返すとHPELの振動板が見える

 この方式の利点は障害物となる“固定電極”が振動板の前にないため、過渡特性に優れる点だ。60kHzを超えるフラットな周波数特性が得られるそうだ。ドラムスキンは個々に異なる共振周波数が与えられ、振動板が大きな共振のピークを持たないように調整されている。薄い振動板は曲がりやすいため、剛性の高いグラスファイバー入りのポリカーボネートで作られたカセットパネルに収納されている。さらにイヤーカップはアルミ合金と比較して約1/3の重さで、防音性に優れたマグネシウム合金で作られている。

DAC内蔵の専用ヘッドフォンアンプとペアで販売予定

ジェネラルマネージャのデイビッド H.河上氏

 DAC内蔵のヘッドフォンアンプは、HPELを駆動するために低歪みと広い再生周波数帯域が要求される。アナログアンプはシングルエンドで、ディスクリート構成のFETクラスAアンプを採用。このアンプを高バイアスで動作させ、高スルーレートを実現している。アンプは完全にシールドされアルミ削り出しの筐体に収められている。DACはESS製が使われPCM384kHz/32bit、DSD5.6MHz(DSD128)に対応。高性能なマルチコアXMOSプロセッサで動作するカスタム64bit倍精度固定小数点演算を使い、アナログ入力を含む全ての信号をデジタル処理している。DSP内のフィルタは最小位相、低速ロールオフとして優れたインパルス応答を実現。64bitDSPの精度を活用したフルデジタルボリュームを採用している。

 Diana Krallの「The Girl In The Other Room/Sotp This World」(96kHz/24bit)を聴いてみると、深々とした低音に満たされ、ダイアナ・カールの厚みのあるボーカルが流れてきた。その音は力強く、音の消え際やニュアンスもしっかり再現される。イヤフォンに例えるとダイナミック型とBA型のハイブリッドのようないいとこ取りの音だ。サラサラとした音の多い平面型の中でも異彩を放つ音で、音場感の再現性も高く、これは期待が持てそうだ。2017年4~6月の発売を目指し、ヘッドフォンと専用アンプのシステムで実売価格約65万円ぐらいになる見込みだ。

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