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ソニーのCES 2016 ライフスタイル訴求も“次”が見えない家電戦略 by西田宗千佳

2016年01月08日 09時00分更新

 世界最大のデジタル関連の展示会“CES 2016”が開幕。2016年1月5日(現地時間)に開催された、ソニーのプレスカンファレンスから見えたのは、ある意味ソニーだけでなく“大手家電メーカー”という存在の苦悩を象徴したものだった。

高い技術力をアピールするも目玉には欠ける

 プレスカンファレンスを、ソニー・平井一夫社長兼CEOは、CESにどれだけ多くの製品が集まり、どれだけ多くの関係者が集まることを説明するところから始めた。CESの運営元に成り代わったようなコメントなのだが、それには事情がある。

 CESも様変わりしてしまった。専業メーカーやベンチャーの姿が目立つようになり、多数の製品ラインアップをもち、あらゆる家電を製造販売する“個人市場向け総合家電メーカー”の数は減った。日本だけでも、東芝とシャープが参加を取りやめた。結果、先端技術を使い、消費者向けの家電を手広く扱うメーカーは、サムスンとLGに加えソニー、パナソニックだけ。パナソニックも、4K関連やカメラなどでは新商品を発表したが、北米ビジネス全体の軸足は、どちらかといえば法人市場に向いている。

 家電メーカーの一角として、平井社長はその価値を重く受け止めているのだろう。「哲学的、戦略的な柱は、もっと強くて利益を生めるようにする、という点から変わらないし、これからも感動を届けることをビジネスの目標とする」と言う。だが、会場で見ていた人の多くは、その後、発表された商品が“どれも小粒でピリッとしない”と感じていた。

 ハイレゾオーディオで記録できるアナログオーディオ用ターンテーブルの『PS-HX500』、4K対応の新ハンディカム『FDR-AX53』、HDR対応テレビで今後使われる新バックライト技術“Backlight Master Drive”を使った最高輝度4000nitの試作テレビ公開など、どれも興味深い存在ではある。だが既存技術の改良版であり、次の世代に向けた大きな目玉、というには苦しい。

 現在は技術の端境期にあたる。カメラにしてもテレビにしてもオーディオにしても、まだまだ改善の余地はあるのだが、過去のテレビや現在のスマートフォンのように“ひとり一台の勢いでどんどん売れる”状況にはない。“見たこともないような製品”を求めている層は多いが、一朝一夕で生まれる性質のものでもない。だから今は、技術的問題を改善し、洗練した製品を目指すしかない……という事情もあるだろう。

丹念にライフスタイル訴求、4Kでは配信重視

 そうした展開は、成熟した市場で消費者の選択肢を増やすために必須での行動でもある。単に製品を紹介するのではなく、“あるライフスタイルの中ではどの製品がどのような理由で良いのか”を説明するやり方だ。特に今回は写真と動画に長い時間を割いた。

 たとえば動画においては、ネットへの個人動画投稿やYouTuberのような動きについて、YouTube・グローバルブランドソリューション担当のルーカス・ワトソン副社長を招いて壇上でディスカッションしながら現在のビデオシーンを消費者に伝え、“なぜハイクオリティーなカメラのバリエーションが必要なのか”をアピールした。

 4Kについては、映像が物理メディアから配信へ移行している現状を踏まえた上で、自社で新たに4K専門の配信サービス『ULTRA』を、自社の4Kテレビに向けて、2016年中に北米でスタートする。Ultra HD Blu-rayへの対応は言及されず、物理メディアとは一歩距離を置く戦略のようだ。

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